流産と自然淘汰
1回目の稽留流産を医師から告げられた時、このような説明がありました。「流産は全妊娠のおよそ15%に起こると言われていて、決して珍しいことではありません。今回は胎児に何らかの染色体異常があった可能性が高いですね。残念ではありますが、自然淘汰とお考えください。」はじめて聞く話に、その時は医師の話を十分理解することができませんでした。同じような経験をされた方は意外と多いのではないでしょうか?というわけで、あらためて「流産と自然淘汰」についてまとめてみようと思います。
報告する施設によって多少のばらつきはあるものの、一般的に妊娠の約15%は自然流産に終わると言われています。厚生省心身障害研究班報告(平成3〜5年度)によると、自然流産の頻度は14.9%、うち妊娠12週未満の早期流産は13.3%、妊娠12週以降22週未満の後期流産は1.6%とされており、流産が妊娠初期に起こりやすいことは明らかなようです。
初期流産の最大の原因は胎児(胎芽)の染色体異常でその確率は約60〜70%とも言われています。すなわち、このような胎児の染色体異常による流産は自然淘汰を意味するということです。尚、このような胎児染色体異常による流産に予防法はないとされています。
PlachotとOharaらの説によれば(図1参照)、卵子の染色体異常が26%、精子の染色体異常が8%、そして受精過程での染色体異常が8%とされ、受精時には約40%もの染色体異常があると計算されています。そして、その15%は卵割期に、さらに15%が着床前後に淘汰され、10%が妊娠と診断された後に流産というかたちで淘汰されます。このように卵割期、着床前後といった我々の無意識の過程においても、染色体異常における自然淘汰は起こっているわけです。この染色体異常の発生率は加齢とともに増加するということですから、高齢になるほど流産率は増加することになります(表1参照)。初期流産を経験された方のなかには、流産の原因は自分にあると思いこまれ、自分自身を責めていらっしゃる方も多いやに感じています。そのような方に是非この「流産の基本的考え方」について知ってもらい、少し冷静になって流産を受け止めてもらえたらと思います。
但し、このような流産が度重なるとなると話は違ってきます。流産の頻度を約15%とすると、連続2回流産となるのは2.3%、流産を3回繰り返すのはは0.34%と計算されます。したがって、2回までの流産であれば偶然が重なっただけという可能性もありますが(私の場合はこの段階で不育症の検査を受けました)、流産を連続して3回以上繰り返した場合は単なる偶然では説明できないので、そこに何らかの原因があると考え、「習慣流産」として原因を検索することが必要となります。
図1.染色体異常妊卵の発生と出生前淘汰
表1.母体年齢別にみた流産歴および妊卵の染色体異常率
大濱紘三
母体年齢 |
流産率(%) |
妊娠に占める胎児 染色体異常(%) |
〜29 30〜34 35〜39 40〜 |
15 17〜18 25〜30 |
4〜5 5〜6 10 20〜25 |
図1ならびに表1の参考文献
・牧野恒久, 和泉俊一郎, 杉俊隆 : 総論 不育症.
新女性医学体系15 不妊・不育 (中山書店)
・Plachot M, Veiga A, Montagut J, et al :
Are clinical and biological IVF parameterscorrelated
with chromosomal disorders in early life
: a multicentric study. Hum Reprod 1988 ; 3 : 627-635
・大濱紘三 : 妊娠早期流産に関する新しい考え方.
日医医報 1992 ; No.505 : 10-11