シンガーソングライターとして30周年を迎えた2014年。豪華BOX 『MUSIC WORKS 1984-2014 シンガーソングライター 30th Anniversary Special Edition』がビクターより
発売。
このBOX発売を記念して、2014年7月27日に渋谷シダックス・カルチャーホールにて盟友・堀口ノアさんとともに
スペシャルイベントが行われました。
ライブではない、と直前のラジとばっでも当日の最初の挨拶でも言われていた京本さんでしたが、いざ始まってみれば
会場の雰囲気にも後押しされたのか、次から次へと当時の思い出話とともに、時には予定にないものまで新旧の楽曲を披露。
終盤では「またバンドを従えてライブをやりたいね」
発言も飛び出すほど、京本さんの音楽に溢れた夢のように楽しいイベントとなりました。
イベント後のラジとばっでは、まさかの新曲を作ろう!宣言も飛び出し。多忙を極める中、まずは京本さんが詞を書くところからスタート。出来上がった歌詞を
受け取った相棒の堀口ノア氏が作曲を担当。年明けの1月7日に満を持しての配信限定リリースとなりました。
京本さん自身も、まさか今この時期になって新曲を製作するとは、と驚いておられましたが、ここでも有言実行を体現。ファンにとっては何よりの
お年玉ならぬ大きなプレゼントになりました。
『はつ雪』
雪のように儚く終わってしまった2人の関係を切々とではなく、淡々と噛みしめるように思い出しながら綴るバラード。
雪をモチーフにした楽曲は、マイナー調でどちらかというと暗く重いものが多いですが、この曲はB♭を基調に柔らかくて温かい中にどこか寂しさを
感じさせるメロディーが心に沁みます。
綴られる物語に合わせ、最初はピアノとヴォーカルのみ、2番からはこれにベースとドラムスが加わり、2番のサビからストリングスも加わり楽曲を
盛り上げていくのが心地よく。冒頭の ♪いーまは どーんな言葉も でゆっくりと静かに始まった回想が、サビ前の♪なのに を契機に
♪無理矢理抱き寄せても抱けない心は と一気に物語に合わせてメロディーも転がり出す妙がたまりません。
シンプルながらも美しいバラードの調べは、その心地よさから朗々と壮大に歌い上げたくなりそうですが、ビブラートやしゃくりといった技巧を使わず、
あくまで自然に言葉のひとつひとつを丁寧に、強弱のみで柔らかく歌われることにより、紡がれる情景がすーっと聴き手の心の中に入り込んできます。
冒頭の♪今は や♪今年の〜 などのメロディーが下から上へ音が上がるところで上の音を力で押すのではなく、逆にふわっと抜き音の余韻を漂わせる
歌い方が詞の世界をより際立たせるとともに、淡い雪がはらはらと風に舞う様子を彷彿とさせられます。
また、メインヴォーカルが作り上げた世界を壊さないよう、これでもかというくらいに柔らかく♪なのに と差し挟まれる合いの手やサビでのコーラス
を担当するノアさんの息の合いっぷりもさすが。
ラストの♪時を止めた の”時を”と”止めた”の間にほんの一瞬あく間といい、これまでにないヴォーカリストとしての表現力を味わえます。
聴けば聴くほどスルメのように味わい深く心に沁みる、これぞ大人のバラードな1曲です。
作詞:京本政樹 作曲:堀口ノア 編曲:上杉洋史