ゴールデン☆ベスト。各レコード会社が共通で使用している、廉価版の旧譜やベストアルバムのシリーズ。単なるベスト盤にとどまらず、長い間CD化されなかった貴重な音源や、俳優その他に転身したため、現在は音楽活動を
行っていない芸能人の楽曲が廉価でCDとして入手出来るスグレもの。今回、ビクターより京本さんにお声がかかり、昔の楽曲をCDで聴きたい!という長年のファンの希望が思わぬ形で実現することになりました。
ビクター時代に発表された『ラブレーの15分』〜『My Present』までの5枚のアルバムと2枚のシングル+αから今回のアルバムに
収録する楽曲の選考は、京本さん自身の拘りはもちろん当時のファンの方の思い入れやアルバムのコンセプト等、難航を極めました。更に1枚のCDに収録できる容量が
限られているため、リストアップした各楽曲の長さを書きだして計算しては、泣く泣くカットというかつてカセットテープが
主流だった時代に自分だけのマイベストを作ろうとした経験がある方なら、わかるわかる!と思わず頷いてしまいそうな、そんな地道な作業を
積み重ねた結果、ファンにとっては落涙もののボーナストラックを含む21曲の珠玉の名曲達がデジタルりマスタリングにより21世紀の音源として奇跡の蘇りを
果たしました。
余談ですが、1枚のCDに21曲というのは相当珍しいようで、今回のベストを予約したCD店に引き取りに行った際、「こんなに入っとるんか〜」と店長に相当驚かれました。
レコード時代の名曲がCDとして蘇る、それだけでも相当な嬉しさに加え、出血大サービスの全28ページのブックレットでは、膨大な量から選りすぐられた当時の貴重な写真や京本さん直筆の歌詞、各曲にまつわる当時の思いやエピソードがびっしり
掲載され、これだけでも涎モノの価値です。あれもこれもと書くうちに既定の量を遥かに超えてしまい、ブックレットに掲載するにはかなり小さな
文字の大きさになってしまったことを気にしていた京本さんでしたが、あの曲の裏にはこんな思いや素敵なエピソードが!?と驚きの数々にそんな
ことも忘れさせてくれます。
ファンに向けたコメントでしきりに虫眼鏡が必須とおっしゃっていた京本さんですが、まだまだ肉眼で大丈夫な方は、この先、これが読めなくなったらそろそろ
老眼鏡を……という老眼鏡試験紙に使用するのもいいかもしれません(ちなみに筆者はそのつもりです 笑)。
さて、待ちに待ったファンにとっては落涙のベスト盤。期待を裏切らないどころか、聴き手の予想の遥か上を行く仕上がりになっています。
何を置いても特筆されるのは、京本さん自ら立ち会いを重ねたデジタルりマスタリングで生まれ変わった音の良さ、これに尽きます。
購入後、CDをセットして最初の楽曲が流れた瞬間、これまで聴き込んでいた音との違いに本当に吃驚しました。
これまでもレコード音源がCD化されると、その音質のクリアさに驚かされたものですが、このアルバムは単純に
音が格段に良くなっただけでなく、元音源からヴォーカル、コーラス、各楽器を絶妙なバランスで調節し直しているため、聴き手にとっては同じ楽曲なのにこれまでと違った心地よさで
聴くことが出来るのです。
具体的に説明するのは中々難しいのですが、各パートがクリアになった分、それぞれのメロディーが際立って聴こえる上に音そのものに奥行きがプラスされ、全体として音楽が
非常に立体的に聴こえるようになっています。目を瞑ってCDを聞くとそれぞれの楽曲が聴き手を包み込んでくれるような、そんな錯覚に陥ります。
また、こういった複数の音源から寄せ集めたベストでは、アルバムごとにレベル(音量や質等)が異なることが多いため、”あれれ?この曲だけ急に小さいなー”なんてことも
あったりしますが、このアルバムでは全ての曲のレベルをきちんと調整し直されているのが嬉しい限りです。単なるレコード音源をCDとして再販します、ということではなく、
過去の愛しい曲達を最高の形で聴き手に届けよう!という熱い思いがひしひしと伝わって来ます。
世にベスト盤は数多くあれど、これだけ作り手側の愛と情熱が詰まりまくり、手間をかけたベストは、そうは多くないのでは。
今回、切ない女心や恋心の機微を綴った楽曲を中心に選ばれた21曲ですが、各曲の配置も非常に考えられているのに唸らされます。
マイナーコード好きを公言して憚らない京本さんにふさわしく、全曲が短調=morで構成されているのが何ともらしいですが、マイナーコードの中でもG,Aを中心に♯系♭系がバランス良く配置され、
その上で順番に聴いた時に極端な基調の変化で聴き手に違和感を感じさせないような並びの凄さ。
一方で、異なるアルバムの楽曲達を配置したため、アルバムごとに起用されていた各アレンジャーの個性が自然と際立つようになっているのも嬉しいオマケです。
このアルバムでは、総勢7名のアレンジャーの競演が楽しめるのですが、この中で大谷・井上氏の2名がキーボード奏者、それ以外はギターを中心とした鍵盤以外のMusicianです。
アルバムを通して聴いた時、大谷・井上両氏と他の編曲者ではびっくりするくらい、楽曲の組み立て方(楽器の使い方)が違うことに驚かされます。
少しわかりにくいですが、アルバムを最初から聴き初めて
3曲目になった途端、リズム楽器の聞こえ方がそれまでとまるっきり違うので、機会があれば注目してみてくださいね。
更に同じキーボーディストでも、それぞれに特徴があり、特に井上楽曲は随所に”鑑(アキラ)節”が炸裂しているのがとても楽しいです。
それぞれの曲の良さについては、以前に各アルバムごとの紹介で語らせていただいたので、今回は、個人的なツボや、以前との違い等、誰がそんな聴き方するんだ?
という非常に偏った紹介になりますのでご了承くださいね。
『口づけさえも…』
アコースティックギターのストロークに力強いドラムからギター、ベースと楽器が重なっていくイントロは、アルバムの1曲目を飾るに相応しく。しっとりと
軽やかなヴォーカルの後ろで、より鮮明に聞こえるようになったカスタネットのトゥルルルル、トゥルルルルンという響きが華やかさを添えています。
『心に吹く風』
イントロからAメロ全体で奏でられる、キーボードのリフレインが非常にクセになる1曲。歌が始まるとバグパイプのような
音色で入って来る低音がいいアクセントになり、いつも以上に柔らかなく、瑞々しさに溢れたヴォーカルが
際立ちます。♪やさしい人ね あなたは の♪あな〜〜 たは の”な”と”た”の間に一瞬空く、ためのような何とも言えない間が
たまりません。
『純恋ナイト』
全体的にエコーが綺麗にかかった中で、1人黙々と力強くリズムを刻むドラムスがとにかく気持ちがいい1曲。楽器の編成としては、
それまでの2曲とさほど変わらないのに、非常にサウンドがバンド的になっていることに注目です。
サビ直前から始まる、これぞ80年代前半、
というホーンセクションのバッキングも楽しく。個人的には♪素振りで わかるでしょう の後ろのバッキングが、伸ばす音になったところで
クレッシェンドをかけるのがものすごく80年代ぽく、聴くたびにニヤリとしてしまいます。ノアさんのコーラスも密かに、曲が盛り上がって行く
につれてクレッシェンドがかかっている細かさにも注目です。
『たどりつけないレインボー』
アキラさん節が炸裂なアレンジが、とにかくお洒落です。ストリングスで空に覆われていた雲が晴れてゆく様子を表現し、冒頭のダダッダーとピアノが奏でるハーモニーが最初はC、2回目はGmとマイナーへ
変化することにより、全体的に不安定でアンニュイな雰囲気が漂います。エレピとハモンドオルガンによる洒脱なバックのメロディーにドラムがかっちり
嵌まり、とても心地よいサウンドになっています。間奏のブルージーギターも聴き逃せないポイント。少し気だるい感じのヴォーカルに合わせた色気たっぷりなコーラスのカメレオンぶりに脱帽です。
『Love Is Tenderness』
基本的に京本さんの発声は歌い出しが柔らかいのですが、その中でもソフトな歌声が際立つ1曲。
後奏で微かに聞こえるのはコーラス、台詞? これを発しているのは京本さんorノアさん? それがとっても気になっています。
『Take Me Away』
冒頭のサックスの甘〜い響きを聴いた途端、「矢切りの渡し」からこの曲を聴かされたら、そりゃぁ橋蔵先生じゃなくても目が点になるよなぁ、と心底納得しました。
それはともかく。前曲に続き京本さんの気だるいスイートメロディーには本当にサックスの色気たっぷりな音色が似合うな、としみじみ思わせてくれる1曲です。
『夜風にBlue』
これまでの6曲は、初期のアルバムからですが、この曲は『虚飾のカサノヴァ』とビクター時代後期からの収録です。それを裏付けるように、京本さんの
歌い方が変化してきていることがよくわかる1曲です。柔らかさはそのままに、歌い方にクセというか、歌の世界をもっと明確に表現したい、という欲が出て来たのが
随所に表れています。英語部分がやや巻き舌っぽくしているのは、これも桑田さんっぽくしたかったのかな??
『愛した分だけ』
冒頭・後奏のソプラノサックスや切ないメロディーも聴きどころですが、1番のAメロで密かに入れらている拍子木がツボです。
実は、さりげなく1番と2番でバックで使われている楽器が違う、という贅沢な1曲です。
『海岸線ストーリー』
発表当時、レコード会社に無断で入れられてしまった冒頭のストリングスがなくなったことにより、いきなりパーン!と打ちこみ始まりになり、疾走感が増すと同時に、ベースラインが鮮明になりました。
他の曲のベースもかなり凝っているモノが多いですが、この曲のベースは特に楽しそうです。また、元のアルバムでは1曲目だったのが9曲目というポジションに
移動したため、この曲だけ歌い方が全く異なっていることが明確になったのが嬉しいオマケです。あまりに長くなるので具体的には記しませんが、ここまで特徴を見事に捉えて
嫌みなく再現したことに恐れ入りました。
『じらされて…今夜』
ギターとベースがとにかくカッコイイ。デジタルリマスタリングのおかげで、最後の♪そんな君は もういない のところだけ、♪もう に被さるようにフライングでブーンとギターが
入ってくるのを発見してしまい、すっかりクセになってしまいました。アップナンバーのため、この曲は全体的に声を張った歌い方になっているのが特徴です。♪会えない〜時を
気にしてた のところは一見ソフトに感じますが、芯のある柔らかさになっています。
どんな曲調であっても、すんなりと変幻自在にメインヴォーカルに寄りそうコーラスワークに改めて脱帽です。
『どこまでも女になりたい』
聴きどころは、何と言っても甘〜い、ここだけフリューゲルホルンに持ち替えたのではないか? と思わせるほど包み込むような柔らかいトランペットソロに尽きます(えぇぇ?)。
歌の部分のバックで流している時と全く音色が違うので、騙されたと思って注目してみてくださいね。
『ためいきのリプライズ』
個人的に今回のベストのイチ押し曲。アキラさんとは違った意味で、なんっっってお洒落なんだ!?と思ってしまった大谷さんのアレンジが光ります。各楽器はシンプルなメロディー、リズムをカッチリと演奏している
だけなのに、全体としては何故か不安定な印象を与えるバランスは見事としか言いようがありません。そもそも「ためいきのリプライズ」というタイトルからして
卑怯だー!というカッコよさ。歌詞も特に2番の歌詞が個人的に秀逸すぎて大好きな1曲です。
『セプテンバー・ナイツ』
これもお洒落なナンバー。白状すると発売当時は、若さゆえの過ちか(?)その良さがイマイチわかっていませんでしたが、今回のベストで開眼した1曲です。
♪そばにいてくれたときはわからなかった の♪そーば で下から掬いあげるような歌声がクセになり、抜けだせない楽しさです。
『おやすみなさい…と男たちへ』
マイナーコードなのに、あまりマイナーな香りがしない不思議なメロディーがクセになります。「どこまでも〜」と違ったトランペットの響きを
楽しむのもお薦めです。
『東京恋離夜 Lonely Night』
これも個人的に大好きな1曲。ノアさんのコーラスのビブラートのかかり具合が絶妙すぎてたまりません。聴けば聴くほどスルメのように味が出るというか、
絡みつくようなメロディーが耳に残ります。ベースのメロディーが面白く、それを追っているだけでも相当楽しいです。とても大人な曲なのに、まだ蒼さが残る歌声
とのアンバランスさも不思議な魅力を加えています。
『たったひとつのLove〜I Can't Let You Go〜』
苦悩ver.もいいですが、やっぱりこの曲はこのアレンジだよなーと思わせてくれる仕上がり。こっそり左から右へと抜けて行く打ち込みのおかずが心地よく。サビの後ろでパンパンと鞭のように打ち鳴らされる
効果音、ギターソロに代表される80年代色全開なサウンドが楽しすぎて、いつ聴いてもワクワクさせてくれます。12〜18曲目は1曲ごとにすべてアレンジャーが違う為、その辺も注意して聴くと
より一層楽しいですが、その中でも松原氏のアレンジのいい意味での異質さが際立ちます。
『潮騒に…』
京本さん自らが名指しでお願いした馬飼野アレンジ。馬飼野さんと言えば、勝手にジャニーズや80年代アイドルなどに代表される、ポップな曲をよく手掛けているイメージでしたが、こんなしっとり映画音楽のような
世界に仕立て上げるとは。このアルバムではほぼ全曲に渡り、ピアノ(キーボード)が使われていますが、同じキーボーディストでも、井上・大谷氏に比べると、とてもシンプルなメロディーの組み立て方を
しているのが新鮮です。
『Love Is Afternoon』
この曲も1番と2番で使用する楽器が異なっているのが隠れた聴きどころです。聴き始めは、このアコースティックギターがたまらんっと思うのですが、2番になるとこのギターとベースがっとなってしまうくらい
自然にシフトしていることに驚かされます。この曲の聴きどころは何と言ってもやっぱりヴォーカル。当時、あの若さでこんな歌い方をしていたことに改めて驚きです。
『哀しみ色の…』
その昔、初めて聞いた時からこの尺八がいいんだよなぁ……と思っていたのですが、今聴いてもやっぱりこの尺八がたまりません。しかし、他の曲はLPとの違いに驚愕したのですが、
この曲だけはあまりデジタルリマスタリングとの違いを感じられず。当時のレコードの中でも際立って音が良かったので、あまりいじられなかったのか、耳にした回数がダントツで
多いせいなのか。いずれにしても、今聴いてもやっぱり名曲だと思います。今回のベスト発売にあたり、ビクターよりこの曲だけは必ず入れるように、と厳命されたそうですが、
この曲を含めたラスト3曲目当てに購入されたファンは相当多いのでは?
『闇の道』
あれだけ豪華なアレンジがデジタルリマスタリングされるとどうなるのか? 個人的に今回、最も楽しみにしていた1曲です。結果は……、予想の遥か上でした。
綺麗にバランスよく整えられた各楽器のうねりが、じーんと胸に響きます。
ゴージャスすぎるイントロもいいですが、間奏も味がありすぎて、最初にこのベストを聴いた時は不覚にもうるっとしてしまいました。2番のあとのリフレインに
なる直前にジーッとねじまき鳥(鳥じゃない^^ゞグルグルとねじまきのように回すパーカッションなのですが、名前がわかりません)が入っているのが無性に
楽しいです。それにしても、これだけの曲が日の目を見なかったことは、本当に残念です。いつか、どこかで日の目を見てほしい1曲です。
『ひと夜花』
ボーナストラックと言うより、これがメイン!というファンは相当いるのでは? な遂にCD化された幻のロックバージョン。
個人的な聴きどころはイントロからずっと続く、ギターリフ。一見地味ですが、これが曲に躍動感を与えていてとても気持ちがいいです。
サビのノアさんとの掛け合いからユニゾン→コーラスという流れも見事。
このアルバムはシンガーソングライター京本政樹の魅力をたっぷり
伝えると同時に、ヴォーカリスト・堀口ノアの凄さを全編に渡り教えてくれる1枚でもあることが、通して聴くとよくわかります。どんな曲でも
すーっと曲の色に染まり、曲に色や時にパンチを添えてなお且つ決して目立ちすぎず、曲によっては女声を思わせるような繊細で透き通る歌声にはただただ驚かされるばかりです。
そんなノアさんがデビュー以来ずっと、京本さんの音楽活動に携わり続けてくれたことに感謝しつつ、筆をおきたいと思います。
|
タイトル |
基調 |
編曲 |
1 | 口づけさえも… | Gmor | 大谷和夫 |
2 | 心に吹く風 | Gmor | 大谷和夫 |
3 | 純恋ナイト | Emor | 椎名和夫 |
4 | たどりつけないレインボー | Amor | 井上鑑 |
5 | Love Is A Tenderness | Gmor | 大谷和夫 |
6 | Take Me Away | Gmor | 井上鑑 |
7 | 夜風にBlue | Fismor | 椎名和夫 |
8 | 愛した分だけ | Amor | 椎名和夫 |
9 | 海岸線ストーリー | Fismor | 大谷和夫 |
10 | じらされて…今夜 | Hmor | 井上鑑 |
11 | どこまでも女になりたい | Gmor | 椎名和夫 |
12 | ため息のリプライズ | Amor | 大谷和夫 |
13 | セプテンバー・ナイツ | Amor | 井上鑑 |
14 | おやすみなさい…と男たちへ | Fismor | 椎名和夫 |
15 | 東京恋離夜 Lonely Night | Gmor | 藤崎良 |
16 | たったひとつのLove〜I Can't Let You Go〜 | Gmor | 松原正樹 |
17 | 潮騒に… | Edur+Cismor | 馬飼野康二 |
18 | Love Is Afternoon | Fismor | 難波正司 |
19 | 哀しみ色の… | Hmor | 大谷和夫 |
20 | 闇の道 | Cmor | 大谷和夫 |
21 | ひと夜花 | Hmor | 大谷和夫 |
all lylics&music:京本政樹、原案:藤田まこと(18)