● 虚飾のカサノバ  ●

虚飾のと書いて”にせものの”と読ませる5枚目のアルバム。京本さんといえば、昼の陽光よりは圧倒的に夜の帳が似合うイメージが一般的ですが、 この作品はそんな夜の世界がぎっしり詰まった1枚です。
井上鑑、難波正司、椎名和夫、南剛史、と今回も4人のアレンジャーによる作品群は、井上氏が担当した前半5曲と残りの3人が手がけた後半5曲とで 同じ夜を扱っていながら、かなり異なる世界が描かれているのが興味深く、それぞれの作品の違いも聴きどころのひとつです。


全楽曲中最もロックテイストを感じさせる「Amvivalence」。 ♪本当の愛 欲しくはないの や ♪やばいね もう などに見られるシンコーペーションを多用した譜割り、メロディーラインの妙には唸らされっぱなしです。
タイトルどおり、歌詞から曲調アレンジ全てにファッショナブルな香りが立ち込める「ファッショナブル・スキャンダル」。”ジゴロのような生き方が時にはしてみたいもの”なんて ドキッとさせられる歌詞は、幾分過激さを感じさせつつもまるで1本の映画を見ているかのような気分にさせられます。 フェイドアウトしていきながら、さりげなく1音下がる後奏にも注目です。

怪しさ全開、軽いジャズ風味でお洒落なアレンジが光る「セプテンバー・ナイツ」。♪側にいてくれた時は わからなかったものが 今♪の高音で撥ねるようなメロディーは嵌ると クセになります。
ムーディー炸裂!タンゴまで飛び出すとは?!な「夜が逃げてく」。絡みつくような色気は京本さんならでは。
濃いナンバーが続いた後の清涼剤、気だるくゆるやかな調べにほっとさせられる「5回目のBell」。京本さんの声質とボサノヴァ調との相性の良さを改めて実感させられます。

密かにお得意の撥ねるメロディーが耳に残る「涙のシルエット」。大人の色香が漂うこのアルバム中、唯一少年ぽさを感じる1曲です。
浮気な男への哀しい女心を綴った「夜風にBlue」。♪夜風にBLUE 肩は寒いけど と軽快なサビのメロディー語り手の気の強さを際立たせます。
甘〜いテナーサックスの調べと気だるさ漂うメロディーにようこそラウンジ京本へ、と思わず言ってしまいそうな「How Much I Love You」。字余り的なメロディーラインの 自然さ美しさには定評がある(?)京本さんですが、サビの♪今君を笑わせるジョークも浮かばないよ♪の例に漏れず絶妙な流れ具合で、全体的な心地よさも手伝い素直に名曲だなと思わせてくれます。
サビの掛け合いや♪割れたグラス にじむ痛み など全編に70年代歌謡曲テイストが漂う「絹の手袋」。
しっとりとした、哀愁を帯びたメロディーにピコピコとデジタル音が嵌る、演歌(時代劇)とポップスの世界が見事に融合した「ひと夜花'86」。

尚、このアルバムの主な曲を収録したミュージック・ビデオ「ファッショナブル・スキャンダル」では、目と耳の両方で夜の世界を堪能することが出来ます。
特にコンサートの楽屋風景が楽しめる「5回目のBell」と息を呑むような美しいポニーテールの華麗な美剣士姿が拝める「ひと夜花」はお薦めです。

1Ambivalence
2ファッショナブル・スキャンダル
3セプテンバーナイツ
4恋が逃げてく
55回目のBell
6涙のシルエット
7夜風にBlue
8How Much I Love You
9絹の手袋
10ひと夜花'86

作詞作曲:京本政樹 
編曲:1〜5:井上 鑑/6.9:難波正司/7.8:椎名和夫/10:南 剛史

1986年8月21日

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