● 京本政樹ライブ「苦悩〜Peine〜」昼の部
―2004年8月20日 ZEPP TOKYO―  ●


スターダスト・ハイウェイ
Lady(苦悩〜Peine〜)
風のセーラ
<MC>
黄昏色の街
ファッショナブル・スキャンダル
<MC>

メドレー
〜I can't Say…〜ジンにまぎれて〜じらされて…今夜〜セプテンバー・ナイツ〜I'm in Blue〜
<MC>
三日月のエチュード
Love is Afternoon

<MC>
密会
陽炎の街〜Peine〜
Still in Love

——アンコール——
たったひとつのLOVE−I Can't Let You Go−
<MC>
薄桜記

注:セットリストは、メモを取ったわけではなく記憶を基にしているため、誤りがありましたらご容赦ください。

老若男女。そんな言葉がピタリと当て嵌まるくらい、幅広い客層で埋められた客席の間を「苦悩〜Peine〜」のCDが大音量で流れる。
日本一広いライブハウスには、一見不似合いな、やや大きめのパイプ椅子が並べられ、心持ちゆったりと腰掛けた人々が落ち着かない様子で、久しぶり或いは初めての開演を今か今かと待ちわびる。
普段、馴染んでいるライブ前の空気とは明らかに違う雰囲気に、ちょっぴり不思議な感覚を憶えながら、何気なく覗いた手元の時計は午後2時45分。
「15分押しかぁ…」そう思った瞬間、場内に流れていた音楽がピタリと止み、暗闇の中ステージの上に人が現れる気配がした。

バックバンドのメンバーがそれぞれ持ち場につくと同時に、ステージ袖にふわりと白いものが見えドキドキしたのも束の間。静かな足音を響かせ、本日の主役がステージ中央に置かれたマイクの前に立つ。
どこからともなく、けれどどこか躊躇いがちに沸き起こる拍手。
いよいよ始まるんだな……、一瞬緊張で身を固くした耳に爽やかなアコースティック・ギターのストロークが聞こえてくる。

『スターダスト・ハイウェイ』
え、この曲は……まさか?と疑う耳に ♪夢にみるような出会いで… と京本さんのちょっぴり固めの歌声が!
予想もしなかった、けれど嬉しすぎる選曲に気がつけば、嬉しい〜〜と小さく叫んでいた。軽やかなメロディーと夏らしい爽快なサウンドが会場いっぱいに響く。明るいライトに照らされ、真っ白なタンクトップとジャケットに真っ白なパンツ、と全身真っ白で決めた京本さんが、これまた真っ白な手でエレキ・ギターをかき鳴らしながら歌う姿に、あちこちから感激の声があがる。
♪飛ばしてスターダストハイウェイ〜トゥナイト〜♪サビの部分で客席に向かって手招きするように、片手を差し出す京本さんにつられ、ステージに向かって♪スターダストハイウェイとノアさんのコーラスに合わせて右手を振り上げる。隣の友人に驚いたように振り返られ、何だか急に恥ずかしくなって、慌てて手を引っ込める。
ふと周りをこっそり窺がうと、「立っていいのかな?」「手拍子しなくちゃいけないのかな?」という風な、喜びととまどいが入り混じった顔がいくつも見える。立ち上がりたくてうずうずする気持ちをぐっと堪え、再び見上げたステージの上の京本さんの横顔が、綺麗だけれどびっくりするほど硬い。
こんな京本さん見たことない、というくらい緊張している様子が、不謹慎だけど可愛くて微笑ましくなる。

あっという間に1曲目が終わり、間髪入れずに『LADY』のイントロが流れ、そのまま『風のセーラ』へと流れ込む。
少しずつ大きくなる手拍子。膝が自然とリズムを取り出す。でも、まだまだ京本さんもファンも、「ずっとこんな感じなの?」「もっと楽しもうよ」ステージの上と下での探り合いが続く。

「こんにちは、京本政樹です」
3曲が終わったところで、一息入れた京本さんが笑顔で挨拶。世間話でもするように、ラフな感じで近況などを話す京本さんの緑の目が眩しい。
風邪薬を飲みすぎたおかげでやたら喉が渇くという京本さん。ライブの間中、水の入ったコップを取りに後ろを向く度、必ず「ちょっとすいません」と断りを入れる律儀さが何ともらしくて笑ってしまう。

そうして、『黄昏色の街』をしっとりと歌い上げ、間髪入れずに京本さんがさっと身構えると同時に大谷さんの、力強く華麗なピアノが歌い出す。

『ファッショナブル・スキャンダル』
見た目の派手さはないけれど、しっかりお腹にくるドラムとベースにさりげない小技を効かせたギター。やっぱり生演奏は迫力が違う。京本さんの一挙手一投足も見逃せないけれど、バックミュージシャンも見たい!何とも贅沢なジレンマ。
♪ファッショナブル・スキャンダル♪リズムに合わせ、京本さんが両手を腰の周りで踊るように動かす。めちゃくちゃカッコいいのに、何故かその動きが酔拳を彷彿させてしまう。マイクスタンドに並べたピックを、ビシッと音がしそうなくらい鋭い仕草で投げる。そのあまりに決まりすぎな手つき、投げ終えた瞬間の表情は、一度見たらもう忘れられないカッコよさ。

再びトークタイム。
これまでの歴史を振り返る京本さんが、必殺の音楽を作っていたことに触れたところで、すかさず後ろから『哀しみ色の…』のフレーズを奏でるギターの音が。それに併せて、思いっきりトーンを落として「やるしかねぇ」と呟く京本さん。うわー!生・やるしかだよ〜〜(><)と思わず心はあの頃へタイムスリップ。
そのまま歌ってくれるかなーという客席の期待を見透かしたかのように、「って歌いませんけどね」と悪戯っぽく笑う様子がホントに少年のようでお茶目。
しばらくして、今度は「高校教師」が話題になると、あのピアノのイントロを大谷さんが奏でるのをバックに「湖賀クン、僕は…」と藤村先生になりきってのサービスに、またまた場内から笑いと拍手の渦が巻き起こる。
そうやって、少しずつ客席の緊張をほぐしていったところで、昔ライブに足を運んでくれたファンの為に今日はこんなメドレーを用意してみました!という紹介で始まったのは……。

『メドレー〜I can't Say…〜ジンにまぎれて〜じらされて…今夜〜
セプテンバー・ナイツ〜I'm in Blue〜』

80年代ディスコ風味+90年代クラブシーンを思わせる、ダンサブルなナンバーに変身した『I can't Say…』
もう、我慢できない!!椅子を蹴って立ち上がり、頭の上で大きく手拍子を取りながら跳ねると、会場のあちこちからも立ち上がる姿が目に入る。
マイクを持った京本さんがステージを右に左へと移動する。それとともに左右のファンから歓声が上がる。少しずつ確実に上がってゆくボルテージの中、流れてきたのはビートの効いたナンバー。うきゃー、これはっ!!嬉しさのあまり、いつの間にか拳を思いっきり振り上げていた。
『ジンにまぎれて』に続いて流れてきたのは、
♪あえない時を気にしてた♪ 『じらされて…今夜』サビの部分の畳み掛けるような疾走感がたまらない。感激に浸る間もなく続けて『セプテンバー・ナイツ』殆ど涙モノのナンバーに盛り上がるファンを見て、バックバンドの面々の顔も綻んでくる。特に、最初から客席を乗せようと人一倍大きな手拍子を取り続けていたノアさんの動きが更に激しくなる。そうして軽やかなリズムとともに流れてきた『I'm in Blue』
♪ah ah ah I'm in Blue♪の部分を客席に歌わせたくて、マイクを向ける京本さん。しかし、テレがあるのか、それとも古い曲だから知らないファンも多いのか、なかなか思うような合唱にならない。「まだまだ躊躇いがあるな。簡単だからすぐ覚えられます」と自らフレーズを歌い、客席に再びマイクを向ける。今度はさっきよりも大きな歌声に嬉しそうに微笑みながら、もっともっと、という風に大きく手で煽る。そんな京本さんにすっかり乗せられ、ばらばらだった会場が少しずつひとつになっていく。なんて楽しい瞬間!!

「ようやく昔のカンが戻ってきました」という言葉を裏付けるように、最初に比べるとすっかり笑顔が柔らかくなった京本さん。
こういうアップテンポな曲もやっていたけど、昔からバラードが好きだったという思い出を語り、今日のためにとアルバムに入れました、という言葉できっとあの曲だな。という期待が会場中に広がる。それを裏切ることなく流れてきたのは、やはりこの曲。

『三日月のエチュード』
アコースティックギターの調べに乗り、哀しくも美しいメロディーが心にすーっと沁みていく。囁きかけるように歌う京本さんの声はもちろん、♪トゥルトゥル〜というノアさんの透き通るように繊細な最後のリフレインが耳に心地よい。

『Love is Afternoon』
スポットライトに照らし出されたシルエットの美しさと、胸が痛くなるほど切ない歌声に、会場中がうっとりと聴き惚れる中、情感たっぷりに歌い上げた京本さんが、「どうぞ」と左手をすっとノアさんへと差し出す。主役交代。ライトを全身に浴びたノアさんの、透明感溢れるファルセットの美しさ!

『密会』
数ある京本さんの名曲の中でも特に名曲の誉れが高いこのナンバー。CD(LP)では、全てのパートを京本さんが歌ってますが、本当は男女2パートに分かれている曲、ということで、この日の為に用意されたスペシャルバージョン。
男性部を京本さん、女性部をノアさんが、それぞれ歌詞の人物になり切って歌うという何とも粋な演出が嬉しい。京本さんならではの小粋でコミカルな小芝居を織り交ぜ、3度上をハモるノアさんとのコーラスの絶妙さ、声質の相性の良さにしみじみと月日の流れを感じ、胸が熱くなる。

『陽炎の街〜peine〜』
ライブ前から話題だった特注ギター。登場するならこの曲か?という予想と期待どおり、一旦袖に消えた京本さんが大きなギターとともに再登場。斬新なギターデザインに目を奪われると同時に、先ほどまで着ていた上着が消え、白いタンクトップから延びる腕の白さにびっくり!!
見せ付けるようにギターをかき鳴らし、思いっきりフェイクを効かせて歌う姿に頭のネジが完全に2、3本飛んで行く。何が仕掛けてあるのか、12弦ギターほどもあるボディから、時折緑や赤の光線が飛び出す。
1コーラス終わったところで、お約束のメンバー紹介。「ドラムス、XX!」とシャウトする姿はどこからどう見ても完全にミュージシャン!
歌い終えた京本さんが、ギターを抱えステージ下手に走ってくる。ギンギンに弾きまくっていた手が一瞬止まり、にやりと得意げな顔をした刹那。さっと目にも止まらぬ速さでボディから刀を引き抜き、くるくると回した!!まさか、こんな仕掛けがあろうとはっ!?
相変わらず見事な刀捌きでするっと鞘(?)に収め、締めの演奏を終えると、ギターを掲げて見せてくれるのかと思いきや、そのまま何とも大事そうにギターを抱えたたたたたと袖に消えてしまった。一瞬、呆気に取られたけれど、慌てて走っていく姿がまるで忍者のように愛らしくて自然と頬が緩む。

『Still in Love』
ラストはきっとこの曲で。ライブ告知を聞いた時から、恐らく多くのファンが願っていた通り、暗くなったステージに厳かな低音が響き、 ♪あの時は強がり言えたけれど……♪どこからともなく京本さんの歌声が。目を凝らすとステージ奥から、再び真っ白な衣装に身を包んだ京本さんが歌いながら一歩一歩前へと歩いてくる。固唾を呑んで見つめる人、嬉しそうに一緒に口ずさむ人、感激に目を潤ませる人、どの顔も皆輝いている。でも、これが終るともう終わりなんだな、そう思うとたまらなく寂しい。 ♪Still in Love あなたへの愛は〜♪ずっとこのリフレインが続けばいいのに。ついわがままなことを願ってしまう。しっとりと歌い上げ、後奏が流れる中、両手を胸の前で組み合わせ、本当に深々とお辞儀をすると、そのまま袖へと消えていく。主役が去ったステージに向かって、大きな拍手がいつまでも続いていた。


『たったひとつのLOVE−I Can't Let You Go−』
本編での白から一転して、華やかな紫と赤の花柄のシャツを纏っての登場。その昔、ライブを頻繁にやっていた頃、よくやっていたとの紹介にもしや……と高まる期待。
期せずして流れた、思いっきりビートを効かせたドラムに絡みつくようなギター。まさか、これが聴けるとはっ!!冗談でも何でもなく、「生きててよかった〜(><)」そう思った瞬間だった。先程バラードを歌っていた人と同一人物とは思えない、見事にロッカー・マサキと化した京本さんが、ステージ上を所狭しと走りまくる。それに合わせて、最初からずっと京本さんを追っていたカメラも走る走る。
♪スーローモーション と歌いながらのけぞる姿に弾ける笑顔。♪離れない 離さない♪ 完全にノリノリ状態の京本さんに客席も我と年を忘れてノリまくる。前半、なかなか総立ちにならない客席に「最後には立たせてみせる」との公約どおり、♪I Can't Let You Go〜♪とシャウトし終えた時には、文字通り場内がライブハウスと化していた。

『薄桜記』
夢のように楽しかった時はあっという間に過ぎ去り、気がつけばいよいよ本当に最後の曲。先程の熱演でまだあがる息を整えながら、必死に話す様子が何だか微笑ましい。
インストアライブでも披露してくれた、あの紫のギターをつま弾き出すと、それまで沸いていた場内がしーんと静まり返る。♪毎年この時期になると♪ 静かだけれど伸びのある歌声が会場いっぱいに響く。
♪何故に何故に忘れられない♪ 本当に一度聴いたら耳に離れないメロディーが、CDの何倍もの心地よさ、感激を伴って身体中に沁み込んでくる。
やっぱり来てよかった、心地よい流れに身を任せながら素直にそう思った。と同時に今、この場にいる幸せをしみじみと噛み締める。


まだ終って欲しくない、会場中の祈るような思いも虚しく、最後の一音を歌い終えた本日の主役はステージ上手、中央、下手と順番に深々と頭を下げ、客席にとびっきりの笑顔を残し、すっと爽やかに消えて行った。

2004年8月20日

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