● 翡翠の気持ちがわかる夜  ●

”翡翠の気持ちがわかる夜”。粋で洒落れているけれど翡翠の気持ちって何だろう?? という疑問が沸き起こる、不思議なタイトルの3枚目。
いまや京本さんの音楽には欠かせない存在である、大谷和夫氏と初めてタッグを組んだこのアルバムは、 前2作と比べ、一聴した時の派手さはやや劣るものの、その分聴き込むほどにじわじわと 出汁がきいてくるように、何とも言えない深い味が沁みだして来る、まさに翡翠の気持ち(よさ)がわかる 1枚です。

それぞれの楽曲紹介の前に、今回はジャケットにまつわるエピソードをひとつ。
これまでもアルバムの歌詞カードに幻想的な挿絵を自ら描かれていた京本さん。
しかし、このアルバムリリース直前の1985年5月8日深夜。映画撮影中の事故でかかと陥没骨折の大怪我を負いました。 その事故直後の病室で、痛みをこらえつつ描かれたのが今回の挿絵です。
怪我の為、複雑な絵が描けない代わりに、と苦悶の表情から零れる涙と右足から流れる鮮やかな赤い色で 事故の状況を表現した京本さんの力作、こちらも合わせて必見です。


映画音楽を思わせるストリングスのたおやかな調べから一転、マイナー調のメロディーが刻むビート感が クセになる「海岸線ストーリー」。当時の大アイドル田原俊彦を意識した、というだけあって サビの♪逢わなければよかった 罪だねふたり の部分が特に曲調・歌い方ともにトシちゃんそのもの。
エコーが利いたシンセサイザーとクラップハンドの組み合わせが絶妙な「指先かむよなジェラシー」。 ベースとボーカル両方で体感できる独特のビート感と、出だしの♪時には オトコも欲しがるものさ  のすっとファルセットに変わる瞬間の心地よさは、何度聴いてもたまりません。

やや泣きの入ったギターと、全体的に絡みつくようなメロディー、掛け合いの女性コーラスが思いっきり夜を 感じさせる「東京恋離夜 Lonely Night」。
4ビートに乗せたライト・ジャズのスウィング感と甘い歌声にタイトル通りうっとりと 流されてしまいそうになる「流されて…」。

大人の歌謡曲、という表現がピタリとくる「口づけさえも」。京本さんらしい 素直なのにコロコロと転がるメロディーが気持ちよく、そんな歌声にさりげなく溶け込む、何気に華やかなバックと コーラスも聞き逃せません。
男と女の愛の形の違いを見事に表現した「ため息のリプライズ」。決して派手な曲調では ないのに、印象的なイントロ、サビのコーラスの入れ方、ここぞという 時に入るチョッパー風のベースのカッコよさは、まさにため息モノ。

いつになく柔らかい歌声が優しいメロディーによく馴染む「Love Is a Tenderness」。甘いサックスの音色が、より一層 切なさをそそります。
個人的このアルバム一押し曲「ひとりよがりの恋」。ゆったりと3連のロッカーバラードで奏でられる、 メロディーラインの美しさ・心地よさにほっと心が和みます。前曲同様、テナーサックスの甘〜い調べが 柔らかな声音によく合います。

印象的なシンセのリフとBメロの♪やさしいひとね あなたというメロディーが耳に残る「心に吹く風」。
しんみりしたメロディーと囁くような歌声が切ない「しのび哀」。オープニングの映画音楽風な アレンジは、この曲のオマージュだった、という仕掛けが何とも心憎く、やられた!と唸りながらも そのお洒落な遊び心が嬉しい1曲です。

1海岸線ストーリー
2指先かむよなジェラシー
3東京恋離夜 Lonely Night
4流されて…
5口づけさえも
6ため息のリプライズ
7Love Is a Tenderness
8ひとりよがりの恋
9心に吹く風
10しのび哀

作詞作曲:京本政樹 編曲:1.4〜7.9.10:大谷和夫/2.3.8:藤崎良

1985年6月21日

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