● 僕が愛を伝えてゆく  ●

6年ぶりのアルバム発売、16年ぶりの真夏のライブ、シングル発売、クリスマスのディナーショーと充実しまくりの ラインナップでファンの耳と目を釘付けにした2004年から始まったシンガーソングライター京本政樹復活プロジェクト。
今年は役者活動に専念?、と思った周囲の意表を付く形で発表されたアルバムは、これからも音楽活動を継続してほしい、というファンの声に応えるかのように、 かゆいところに手が届く選曲の充実の13曲がぎっしり。

ファンの間でも特に人気の高い2,3曲めを始めとする、京本さんが表立って音楽活動をしていなかった時期に発表された数々の名曲や、 活動再開後に発表されたシングルを加えたベスト盤的な意味合いが濃い中、新たに書き下ろされた3曲の新曲が 何とも嬉しく、全曲新ヴォーカルな点同様、京本さんらしい拘りが伺えます。
新アレンジが施されたサウンドは、リズムパートがより全面に押し出され、どれも耳に馴染みやすく 聴きながら身体が自然にリズムを取ってしまう躍動感に溢れ、反面バラード系では生の楽器がもつ音色をとても大事にした印象が伺える、全体的にメリハリがよく効いた仕上がりです。

バラードからハードなロックまで、実に色んな曲調の楽曲が詰まった13曲ですが、1見バラバラなように見えて通して聴くと まるでひとつのストーリーのようになっている構成にも唸らされる、これを聴くとミュージシャン・京本の全てが わかると言っても過言ではない1枚です。


『I LOVE YOU〜ずっと君だけ好きだった〜』
華やかなホーンアレンジをふんだんに取り入れ、レトロゴージャスな雰囲気だったシングルとは打って変わり、打ち込みを主体とした軽快な 仕上がりで真夏、というよりは初夏の爽やかなイメージが漂います。全体的にサラッとした中に、こそっとこぶしを利かせたボーカル も新しいアレンジによく馴染み、ウキウキと心が軽くなるナンバーです。

『まるで悲しみが雨のように口づける』
隠れた名曲として、ファンの間でも高い人気のこの曲。全体のアレンジ・雰囲気は当時のままながら、より強調されたリズムセクション、印象的なおかずの部分が 心地よくより一層メリハリの利いた仕上がりに、低音から高音まで余すところなく、ころころと転がるメロディーの美しさが改めて耳に残ります。シングルでは柔らかくそっと撫でるような感じだったボーカルが、柔らかさは残したまましっかりと 情感を加えて歌われている点にも注目です。

『かげろうの街U』
2曲目同様、これも劇的な変化はないものの、さりげなく強調されたリズム態、おかずににんまりしてしまうナンバーです。 特にAメロのバックで流れるギターのアルペジオがより強調されて耳に残るようになっているのが、この部分がとにかく 好きだった身には嬉しい限り。元々の曲のよさはもちろん、抜く部分と感情を込める部分を見事に使い分けたボーカル が聴き心地のよさを煽ってくれます。

『牙狼(GARO)〜僕が愛を伝えてゆく〜』
アルバムタイトルにして、個人的このアルバムイチオシ曲。同名ドラマの主題歌用に書き下ろした この曲は、幻想的な作り込んだ雰囲気が立ち込める、今までにない1曲です。
ギターとキーボードが上手く絡み合うアレンジに、淡々とけれど一語一語まるでかみ締めるかのように 歌われるボーカルががっちりと嵌り、いつになく歌詞のひとつひとつが耳に残ります。
特にサビのボーカル、コーラス、印象的なキーボード、ドラムスが一体となったアンサンブルの妙は一度嵌ると抜け出せない、 何とも不思議な魅力に溢れています。
♪悲しみはいつか消せるはず〜 の後ろで流れる重厚なコーラスと煌びやかでもの悲しい ピアノのメロディーの美しさが切なく、何気なく聴いているとつい聞き逃してしまうようでいて、実はじわじわと染み込んでくる曲者さが たまりません。盛り上げながら、さりげなく最後はメジャーコードになっている部分も、希望を感じさせ、タイトルの意味と連動しているよう な気にさせてくれます。

『身勝手なkiss〜最初から泣いていた〜』
4曲目とは違った意味で、こちらも思いっきり作品世界に入り込んだ1曲。シングルより更に磨きがかかった艶っぽさと遊び心で聴き手を一段と 妖しい世界に引き込んでくれます。聴きながら、つい色んな表情を思い浮かべずにはいられない、悶絶ぶりはまさに千両役者の本領発揮!といった ところでしょうか。密かに回数が増えている甘すぎる吐息にも注目です。

『も一度ヨコハマ』
「よこはまたそがれ」「伊勢佐木町ブルース」「ブルーライト・ヨコハマ」「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」「追いかけてヨコハマ」「ヨコハマ・チーク」etc.昔から数ある ご当地ソングの中でも、群を抜いて舞台になることが多い横浜。そんな数々の名曲・ヒット曲に触発されたのか、はたまた『薄桜記』同様、皆が桜の歌を作るのなら・・という 持ち前の負けず嫌い魂に火がついたのか、京本さん初のご当地ソング。
冒頭のいかにも、というギター&ハイハットを皮切りにメロディー、歌詞、リズム感等全編にこれでもか!というくらい漂う70年代後半〜80年代歌謡曲な雰囲気が実に いい味を出しています。泥臭い感じもするけれど、一度嵌るとどうにも抜け出せない京本フレーズがあちこちに満載です。
特にサビの♪震えてる〜 チャララーと合いの手 のように入るギターのフレーズの音色、ハモリ具合が何とも京本さんらしくクセになります。

『薄桜記(さくらうた)'05』
今やミュージシャン京本を語る上で、欠かすことのできなくなってしまった名曲が'05と銘打ち三度登場です。
大きな部分ではシングルと同じアレンジながら、新たに再録されたと思われるピアノ、アコースティックギター、ドラムス のバランスを押さえ、更にフレージングが滑らかになることにより、しっとりと落ち着いた印象を与え、『苦悩〜Peine〜』、シングルバージョンに 比べ格段に安定したヴォーカルの良さと歌の世界を際立たせてくれます。何度聴いても、じっくり聴き入ってしまう楽曲の良さ・存在感の大きさは名曲揃いの この中にあっても健在であることにも驚かされます。

『いとしくて・・・』
今回のアルバム中イチオシ!というくらいにその良さを再認識させてくれた1曲。シンプルなアレンジに乗せた、やや枯れた味のある歌声と優しいメロディーが何とも言えない哀愁を帯び、優しさと人を愛する切なさ、辛さがひしひしと伝わってきます。
サビの♪ただ あなたのこと〜 や、♪一度きりの過ちも などに見られる、この曲の特徴でもある、ここぞという時に上がるのではなく、ぐっと下がって下からすくい上げるメロディーが連続することによる、大きな丸い円がゆっくりと転がるような リズム感が心地よく、甘い低音域の声が切なさを一層駆り立てます。
完全に楽器と同化した感の美しく、力強いコーラスと密かに渋くてカッコいいベースラインなど、全編聴きどころ満載な大人のバラードです。

『I Wish〜この同じ夜のどこかで〜』
冒頭のい〜い感じに枯れた泣きのギターから始まる、気だるさに乗せた開放感溢れるメロディーが美しく、真夏の青ではなく、やや色が薄くなった水色の空に鰯雲がすーっとたなびく情景が浮かんできそうな、秋色に溢れた1曲。
ともすれば地味な印象は否めませんが、素直に見せかけて随所に仕掛けられた7thコードがとてもお洒落な旋律にほっとさせられる、爽やかで不思議なナンバーです。

『たったひとつのLove〜I Can't Let You Go〜』
ロッカー政樹炸裂!な人気のあのナンバーが、より一段とバンド色を濃くして更にパワーアップ。これまでにないくらいノリノリな勢いに満ち溢れたボーカル&コーラスとバンドが一体となった心地よさがたまりません。
この曲の聴き所は何といっても、裏旋律からバッキング、リズム隊に同化した音の絨毯的コードの嵐等、よくぞここまで、というくらいに1人で何役もこなす ピアノアレンジ、これに尽きます。特にここぞというところで散りばめられたグリッサンドや終盤のトレモロのカッコよさは必聴。また、新たに加えられたホーンセクションや間奏のギターソロなど、ド派手な華やかさにわくわくしっぱなしです。
個人的には、ラストの♪GO〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ の勢いに任せたブチ切り方は、一度味わうとやめられない楽しさです。


『香りが消えた夜』
イントロのゴツゴツしたギターのソリッドすぎる音色から、これよこれ!と叫びだしたくなる、これまたロック色が濃いナンバー。前曲の隠れた主役がピアノであるならば、こちらはリードからバッキングまで様々な色で楽しませてくれるギターと、実はものすごく凝っているベースです。特に間奏のバッキングに被さるように 入ってくるビブラートを増したリードのフレーズのカッコよさがとにかくツボ。タイトさを増したドラムスと併せて聴き所です。
一段と艶っぽさと緩急がついたボーカルが緻密なバンドにガッチリ噛み合い、前曲同様わくわくしっぱなしの1曲です。タイトル同様、何度聴いてもお洒落な歌詞の言葉選びの上手さには脱帽。

『ロンリーハート』
嵐のような激しいナンバーから一転、アコースティックギターとストリングスのみの生音の良さを活かしたサウンドと優しい調べにほっとさせられる1曲です。同様に美しいアコースティックナンバーの名曲『三日月のエチュード』が高音を活かしたつくりであるのに対し、こちらは低音の魅力満載なほっこりとした暖かさが包み込んでくれます。
ノアさんの高音のコーラスとの対比も美しく、思わず心が洗われるような、歌詞の内容ともども迫り来る終局への寂しさが募る切ないナンバーです。

『白い夜〜薄桜記(さくらうた)より〜』
丸く温かみのある、けれど寂しさが漂いまくりのアコースティックギターのフレーズに、ノアさんの美しいスキャットが絡むイントロが、あまりに前曲からの流れに嵌りすぎる『薄桜記』の歌詞違いバージョン。
とても悲しい曲なのに、生の楽器が醸し出す温もりがとても優しく(特にギターの音色の甘さは絶品!)、ほっこりと穏やかな気持ちになれる1曲です。しんしんと白い雪が降り積もる情景を バックに繰り広げられる物語が浮かんでくるような、『薄桜記』とはまた一味違う、情感に溢れたボーカルに改めて表現力の幅広さを実感させられます。
寒い冬の夜にじっくりと聴きたい、ロマンティックな冬の抒情詩です。


1I LOVE YOU〜ずっと君だけ好きだった〜
2まるで悲しみが雨のように口づける
3かげろうの街U
4牙狼(GARO)〜僕が愛を伝えてゆく〜
5身勝手なkiss〜最初から泣いていた〜
6も一度ヨコハマ
7薄桜記(さくらうた)'05
8いとしくて・・・
9I Wish〜この同じ夜のどこかで〜
10たったひとつのLove〜I Can't Let You Go〜
11香りが消えた夜
12ロンリーハート
13白い夜〜薄桜記(さくらうた)より〜

作詞作曲:京本政樹、作曲:小川紅彦(2,3)
 編曲:山本はるきち(1〜4)、大谷和夫(5〜10,12)、京本政樹(1,5,8)、岩本正樹(11)

2005年11月23日

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