● 太閤記〜天下を獲った男・秀吉  ●

豊臣秀吉。農家の倅から出発し、時の人・織田信長に仕え次第に頭角を現し、信長亡きあと悲願でもあった天下を統一し、関白太政大臣となり、最後は太閤にまで 上りつめた、信長、家康と並ぶ戦国・安土桃山時代の三英傑の1人。
歴史の教科書はもちろん、大河ドラマや時代劇でもこれまでに登場した回数は数知れず。お茶の間に最も馴染みの深い武将の1人です。
テレビ朝日の火曜時代劇(毎週火曜20時)枠3作目として取り上げられたのが、この太閤秀吉。
21世紀に入り、低迷する一方の時代劇を何とか盛り返そう、と主役の秀吉に中村橋之助、信長にテレ朝の時代劇ではすっかりお馴染みとなった村上弘明を配し、その他中条きよし、村井国男、西岡徳馬、天宮良、特別ゲストとして藤田まことら かつて娯楽時代劇が盛んだった頃に活躍した面々が顔を揃えました。主要キャストのみならず、脇役にも時代劇ファンなら知らぬ人はいないと言われる、福本清三を始め時代劇の端役に欠かせない顔触れが並び初回は2時間スペシャルという力の入れよう。 この並々ならぬ意気込みは、やたら目出度い仕様のキンキラキンなタイトルバックからもひしひしと感じられます。
しかしながらかつての勢いを取り返すことは叶わず。全6話(うち初回と最終回は2時間スペシャル)で終了となりました。

ストーリー自体は、秀吉の長い生涯を6回で纏めるというのもあり、これまでの作品同様、有名エピソードを追っていく展開ながら、若き藤吉郎がお市の方に惚れるというエピソードが取り入れられています。
全ての役者が一同に会するシーンは残念ながら見られませんでしたが、藤田まこと、中条きよし、村上弘明、京本政樹、そして中村橋之助と仕事人5人が揃うという、必殺!ファンには感無量のキャスティング。
CGに頼らない合戦シーンや、今川義元等キャラクターによってはかなりデフォルメされた武将も見受けられますが、豪華俳優陣達の文字通り身体を張った演技と時代劇ならではのお決まり的な楽しさが随所に溢れ、時代劇がお茶の間の娯楽として 定着していた頃の楽しさを思い起こさせてくれます。全6話という短い尺での放送となってしまったため、全体的にかなり駆け足となってしまいましたが、エピソードによっては見ごたえのある逸話もあっただけに、せめて全12話 くらいで見たかったと痛切に思います。


さて、テレビ朝日の時代劇には1994年の『殿様風来坊隠れ旅』以来の出演となった京本さんは、第3〜5回の3回に渡り登場。京本さんが演じたのは、これまた同じく1994年の長時間時代劇『織田信長』以来2度目となる足利義昭。
信長の申し出により、岐阜の地へとやって来た義昭。公家趣味で知られる義昭らしく、室町幕府最後の将軍でありながら立ち居振る舞いは公家そのもの。烏帽子姿が実に美しいです。駕篭の御簾を上げた瞬間、伏し目をそっと上げる瞬間の表情の美しさは まさに絶品。
やがて待ち受ける自らの運命の過酷さも知らず、信長に対しまるで子供のようにはしゃいで見せる姿が何とも憎めず、可愛らしさすら感じさせます。個人的には御所に上がり、藤吉郎に対し厭味を言うも意に介さぬ返答を受け、軽蔑しきった顔つきで横を向く一連のシーンもお薦めです。
と、初登場時はそんな浮かれ気味な義昭でしたが、第四回では、影でこそこそ信長を陥れる画策をしていたのがバレ、怒り心頭し抜刀した信長に縋って許しを請うも足蹴にされてしまいます。しかし、それでも懲りない義昭様。信長憎しの一心で今度は信長との不和に悩む光秀をそそのかし、本能寺の変へと導く首謀者の1人と なる、というこれまでとは違った義昭像が描かれました。
足利義昭といえば、室町幕府の事実上の終焉とともに出番も終了するのが常でしたが、今回は本能寺の変に絡むという設定にしたため、落ちぶれて下ろし髪になる、というファンにはたまらない姿が見られることとなりました。
この光秀に耳打ちするシーンは、美しさと妖しさと人の業の深さ恐ろしさに溢れ、絶妙なやつれ具合といい、兎にも角にも必見です。

久しぶりの連続時代劇への出演。しかも、必殺!以来未だに親交厚い村上さんとの共演、ということで非常に楽しみにしていましたが、見どころは出演シーンすべて、と言っても過言ではないくらい、今回も実に様々な表情、所作で楽しませてくれました。
気位の高い公家気取りの将軍様らしく、少し高めの声で「怒りよった」などと人を高みから見下すかと思えば、自身が危ういと悟ると一転、殆ど涙交じりに懇願したりと表情のみならず、台詞回しでもたっぷり楽しめます。
また、登場するごとに変わる衣装も見逃せません。碧青、赤、白の地に金糸模様と煌びやかな着物がどれも実によく似合い、これだけでも相当楽しめます。
立ち回りこそないものの、何気ない所作や立ち居振る舞い、時代劇でしか見られない表情からも、やはり時代劇こそが最も京本さんが輝く場であることを改めて実感させられます。
残念ながら役の上では、相容れない二人を演じた京本さんと村上さんでしたが、撮影時は旧交を温める様子を京本さん自らホームページで紹介してくれたり、とドラマ以外でも非常に楽しめた数ヶ月でした。



主要キャスト
羽柴秀吉中村橋之助ねね星野真理
織田信長村上弘明明智光秀風間トオル
前田又左衛門甲本雅裕お市相田翔子
丹羽長秀長谷川初範蜂須賀小六的場浩司
林秀貞中条きよし千宗易藤田まこと

2006年10月31日〜12月12日

Copyright (c) 2012 shion All rights reserved.