● 必殺仕事人意外伝
「主水、第七騎兵隊と闘う」大利根ウエスタン月夜  ●

必殺仕事人Vシリーズ初回スペシャル。Vシリーズより新メンバーとなる、花屋の政と組紐屋の竜、テレビシリーズ初お目見えとなった作品です。

天保14(1843)年・暮、ヤクザがはびこる下総・海上郡。農家の娘として、平凡な暮らしを営んでいたお鹿(水前寺清子)は、突然踏み込んできたやくざに家を破壊され、祖母を斬り殺されてしまう。母・お松(樹木希林)とともに江戸へとやってきた2人の目的はただひとつ。祖母の恨みを晴らしてくれる仕事人を探すこと。
2人が仕事人を探しているということにつけ込み、祖母殺しを隠蔽するため、下総のやくざ達がお松を狙い現れる。が、寸でのところで突然現れた、顔も姿もわからない2人の男により救われる。同席していたおりくが言うには、彼らこそ本物の仕事人だという。
一方、おりくの呼び出しで仕事を受けに現れた加代と主水は、不意に現れた若い男—竜と政—に命を狙われかける。その片割れが自分の店子と知り、驚く加代をよそに、主水は2人の正体を知っていた。この仕事は自分達のモノだと主張する2人に対し、未だに裏家業に戻ることにふんぎりがつかない主水。
だが、その主水の迷いも頼み人であるお鹿一家が、やくざとつるんだ下総国の役人に惨殺されたことにより一変する。かくして、主水、おりく、加代、順之助、そして「一緒にやるのはこれっきりだ」という条件で加わった竜と政に、お鹿の恋人・次郎衛門(西郷輝彦)の7人は、船で水路を下総へと向かう。
ところが、折りしもその夜は世にも珍しい皆既月食。世紀の天体ショーに伴う超科学現象に巻き込まれた彼らが流れ着いたのは……なんと、開拓時代のメリケン・西部地方。そこでは、保安官とインディアンが激しい攻防を繰り広げる日々だった!?

本放送開始以来、全国各地や近年はCSなどで、それこそ数え切れないほど再放送されている「必殺仕事人V」。けれど、この初回スペシャルはその特異性も手伝ってか、殆ど再放送されたことがない、また地域によっては、本放送時にすらOAされなかったところもある、まさに幻の1作です。
娯楽色が強い仕事人Vシリーズの中でも、ここまでやる?というくらい、遊び心に溢れた奇想天外なストーリーと、お鹿一家を始めとする、豪華・多彩なゲストで大いに楽しませてくれます。

さて、前年の”必殺まつり”公演でのお披露目以来、遂に組紐屋の竜が本格登場です。まだ初々しさ、微かなあどけなさが残る表情と、すっきり楚々とした切れ長の目、きゅっと結ばれた紅い唇が何とも印象的です。
特に最初の登場となった、日本橋でお松を人知れず救うシーンでは、 すべて無言ということもあり、殆ど生き人形のような美しさ。
お遊び的要素が濃い中にも、「面(つら)つき合わせりゃ、どっちかが死ぬことになるぜ」 といったように仕事人らしいハードな部分が随所にきちんと織り込まれている点は見逃せません。特に前半で早くも見られる、最初の仕事シーンや一触即発!状態での主水とのやりとりで魅せる、目力の凄さ・妖艶さはまさに、これぞ竜!!という色香がばっちり。また、あの竜独特の全体的に抑えた乾いた感じの声からも、この作品に賭ける京本さんの意気込みが伝わってくるようです。

とにかく、見どころはすべて、といった感が強いこの作品ですが、その中でも密かな見どころといえばココ。
インディアン達に頼まれ、保安官達と戦うことになった主水達。いざ、対決の朝、銃を手に向かってくる保安官達の前に颯爽と現れた白馬の騎士ならぬ竜!赤と黒の衣装と白い馬のコントラストが目にも鮮やかで、きりりと馬に跨る姿が絵になります。
しかし、これ実はストーリーとは直接関係のない場面(何しろ、肝心の闘いになったら馬に乗ってません)なんですよね。 第2話で魅せてくれる、竜の女装&女形姿とともに、謎なシーンですが(笑)、京本さんが馬を乗りこなせるということを知った、スタッフのファンサービスだったのかもしれません。理由はどうあれ、どちらも視聴者側には嬉しいシーンです。

その内容から、硬派な必殺ファンには「ふざけすぎ」とする意見もあったりする、初回スペシャル。確かにファンの目から見ても、おいおいおいと突っ込みたくなるシーンもありますが(苦笑)、ここまで娯楽に徹した遊び心満載さが、逆に潔くも感じます。楽しませながらも、ここぞという場面ではちゃんと必殺らしさを忘れていない「大利根ウエスタン月夜」。いつの日か再放送、もしくは必殺仕事人VシリーズDVD化などで、陽の目を見る日が来てほしいものです。
※尚、この作品は2007年6月6日キングレコードより念願のDVDが発売されました。お近くのCD店やアマゾン等で購入可能です。

1985年1月4日

Copyright (c) 2005 shion All rights reserved.