● 大型時代劇スペシャル 新撰組・池田屋の血闘  ●

「忠臣蔵」と並び、時代劇ファンのみならず歴史ファンの心を掴んで離さず、今尚根強く熱い人気を誇り、 白黒映画の時代から21世紀の今日に至るまで数え切れないほど映像化されてきた、時代劇の定番中の定番「新撰組」。
今回は、京本ファンにとっては「大江戸捜査網」でおなじみのGカンパニーが今度はTBSと組み、 新撰組の中でも一際有名な池田屋事件にスポットを当て、京に上った新撰組が池田屋事件に 至るまで、を近藤勇を始めとする隊士達それぞれのエピソードを 織り交ぜながら、事件そのもの及びその人となりを描いています。


幕末動乱の最中、無政府状態に陥っていた京都で我が物顔に振舞う芹沢鴨一派に業を煮やした 近藤勇(里見浩太郎)は、副長・土方歳三(地井武男)らと協議し芹沢の粛清を決意。 沖田総司(野村宏伸)、山南敬助(本田博太郎)らとともに、ある雨の夜、お梅と同衾中の芹沢を襲撃、始末した。
粛清後、近藤を局長とし新しい組織として強固な結束を図る新撰組は、市井より新たな隊士を募る。折りしも 長州藩を中心とする倒幕派との争いは激しさを増し、市中警護を強くしていたところ、筑前藩御用達商人・桝屋喜右衛門宅にて 多数の鉄砲・弾薬を発見。主人の枡屋喜右衛門は、本名を古高俊太郎といい、商いの裏で長州、肥後、土佐などの倒幕派を 援助していた要注意人物。拷問の末、古高から孝明天皇を長州へ強奪する計画を聞き出した近藤は、会津藩・松平容保(田中健) に報告、支持を要請する。情報収集の末、6月5日、祇園祭の宵宮の日に浪士達が会合を開くことを察知した 近藤は隊士を集め、同じく出動を要請した会津藩の到着を待つ。しかし、約束の戌の刻限をすぎても姿を現さない 会津藩士たちに痺れを切らし、遂に近藤は隊を二手に分け、自らは沖田、永倉、藤堂平助(沖田浩之)、原田左之助(成瀬 を率い、池田屋へと向かった・・・。


主役である近藤勇役に里見浩太郎、鬼の副長に地井武男というベテランを据え、主要隊士に野村宏伸、京本政樹、沖田浩之、 本田博太郎ら中堅から若手を配し、その他にも田中健、黒木瞳、高田純司、畠田理恵、船越英一郎ら豪華な顔ぶれが ズラリ。
冒頭からクライマックスの池田屋まで度々見られる、激しい立ち回りと近藤とすずを中心とした各人の人間味溢れる エピソードが上手く織り交ぜられ、最初から最後まで心地よい緊張感とともにじっくり楽しめるまさに スペシャルな93分です。

この作品では、劇中音楽をBOOWY、THE BLUE HEARTS、黒夢、ジュディー&マリー、GLAYなどのアルバムを手がけた ことで知られる、元プラスチックスの佐久間正英氏、エンディング・テーマをTWINZERが担当。
シンセサイザーを多用した印象的なメロディーの重々しい迫力が斬新、かつ全篇に渡りドラマを盛り上げています。
また、短い中に各人の性格や人となりを窺わせる台詞がしばしば登場し、各登場人物をより身近に感じさせてくれます。 個人的に、近藤の心遣いを拒むすずを説得するため沖田が言った言葉には、あまりに彼らしく、 それでいて強く言われるよりは余程説得力があり、思わず、なるほど上手いなぁ〜、と感心してしまいました。


この作品で京本さんが演じたのは、新撰組副長助勤・永倉新八。新撰組隊士で京本さんに似合う、といえば 多くの方が沖田総司を思い浮かべることでしょう。天才的な腕前を持つ薄命の美剣士、とくれば確かにビジュアル的にも ぴったりです。が、ごく個人的には、血気にはやる面を持つ永倉は、密かに沖田以上に嵌り役なのでは?と思います。 というのも、この永倉なんと剣の腕は沖田をも凌ぐものであったことが、書物にも残されているほどの剣の達人なのです。 常々立ち回りが大好き、と公言し鍛錬を重ね、様々な作品で華麗な立ち回りを披露されている京本さんには もってこいの役だと思いませんか?

いつもよりやや濃い目の肌にキリリとハチマキを巻き、常に険しい表情ときつい眼差しが何とも凛々しく、 持ち前のすっきりとした美しさに力強さが加わった男っぷりに惚れ惚れしてしまいます。 全体的に声を張るシーンが多いのですが、中でも芹沢粛清の後、新しい隊士を募る場面での「次」という掛け声の勇ましさ には、聞いていて思わずぴーんと背筋が伸びるほど気持ちがイイ。
また、密かに注目なのが座姿、背中のラインの美しさです。主要隊士が座するシーンでは、どっしりとした近藤の貫禄溢れる 姿と対照的に、ぴしりと伸ばされた背中や肩のラインの美しさに是非注目してみてください。

しかし、それ以上に何と言ってもたまらないのは、やはりクライマックスでの池田屋での大立ち回り。
鬼気迫る形相で激しく斬りかかる様は、まるでそこだけ早回しを したかのようなスピード感に溢れ、しっかり目を凝らしていないと細かな動きを見失ってしまうほど。
僅か数分の間に上、横、時には下からとこれでもか!と色んな手を次々と披露しながら、しっかりと決めも見せてくれる あたりは、まさに本領発揮といった感じで、主役の里見さんの流石、と言える力強くい立ち回りとともに、私のような立ち回り大好き人間にとってはわくわくしどおしの数分間です。
欲を言えば、近藤、沖田に比べ見せ場が少ないのがファンとしてはちょっぴり残念です。


自著『META・時代劇』で新撰組をやるなら、土方歳三に挑戦してみたいと言われていた京本さん。 若さ溢れる凛々しい永倉の次は、いつの日か京本さんらしい拘りに溢れた、鬼の副長・土方で 胸を熱くさせてくれることを願ってやみません。

1992年10月2日

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