● 陽はまた昇る  ●

幕末から明治維新という激動の時代をを生き抜いた新撰組隊士・中島登(なかじまのぼり)。その彼の活躍・生き様を描いた時代小説、津本陽『幕末剣客伝』(講談社文庫)。
これをフジテレビが金曜エンターテインメント枠でドラマ化。脚本を当時『もう誰も愛さない』等を手がけ、以降ブームとなったジェットコースタードラマの火付け役ともいえる吉本昌弘氏が担当。主役の中島役に村上弘明さん、綾部に雇われ中島の暗殺を企てる浪士・加山舟平役に京本さん、とあの必殺!以来 となった竜・政コンビ共演となった念願の作品でしたが、不運なことに放送直前に渡辺 謙さんが白血病を告白・入院。渡辺さんを励ますために急遽、渡辺さん主演の『鍵師2』に放送を差し替え。 当初の予定より遅れること数ヶ月。ようやく放送されたものの、関東圏のみの深夜放映という憂き目を味わうことになりました。 その後、地方によっては細々と再放送されたところもあるものの、ゴールデンでの放送が流れてしまった幻の作品です。


時は1872年、東海道は浜松宿。次郎長親分こと清水次郎長(中尾 彬)一派のはねっ返り小政(桜 金造)の狼藉に町人たちが困っているところに突然現れた1人の背の高い士。 あっという間に小政達を蹴散らした男は、元新撰組隊士の中島登(村上弘明)だった。助けたのが縁で鰻屋の娘・ およね(安永亜衣)の家に居候することになった中島は、店の常連で今は代書屋をしている元彰義隊士の大島清慎(川野太郎)と再開する。
町人達の頼みで用心棒となった中島の元に、次郎長親分が小政の始末を依頼しにやって来るが、断る中島に惚れ込んだ親分から得た金で 大島と飲みに出かけた先で、今度は同じ元新撰組隊士の安富才助(清水アキラ)と再会。すっかり意気投合した3人は、今の状況に悩みながらも浜松で平和な日々を送っていた。

そんなある日、釣りに出かけた先で1人の眼光鋭い浪人に出会う。只ならぬ気配を感じた大島、才助の機転でおよね姉弟は事なきを得るが、男・加山舟平(京本政樹)と向き合った中島は、 久しぶりに膝が震える興奮を味わったのだった。
ほどなくして、江戸に残した妻子に会いに旅立った才助が何者かに殺られる事件が発生。数日前に大島から聞いた、新撰組の元隊士狩が現実だと知った中島は、およねらの制止を振り切り、江戸へ仇討ちに。

江戸に到着した中島は、池田屋騒動の際に自らが死に追いやったと思っていた、かつての恋人・小春(墨田ユキ)に再会。今は北海道開拓使に収まっている、元新撰組隊士・綾部十郎(西田 健)の妻となった小春の 姿に愕然とする中島。実は、綾部はかつて組のあり方に疑問を抱き、秘密を持ち逃げしようとしたところを中島に見つかり、隊を追われたことから新撰組に深い恨みを抱いていたのだった。

偶然出会った姿三四郎の家に居候しながら、撃剣会の賞金稼ぎで生計を立て、チャンスを窺う中島の元に、浜松から自称・子分となった小政、中島を慕うおよねがそれぞれやってくる。
人目を忍んで綾部の動向を伝えてくる小春に、およねは仇討ちを止めてくれるよう頼む。けれども、中島を愛するが故、「彼に死んで欲しいとおもてます。そうすれば、あの人との思い出がうちだけの ものになります」と告げる小春。
綾部失脚を目論む司法卿・江藤新平(長谷川初範)の動向を察知した加山は、形勢逆転と中島をおびき出すため、小春を始末するこを提案。無残な姿となり、三四郎の家の前に転がる小春。中島の腕の中「その手に掴むのは未来なんと違います やろか。あんた自身の未来なんと」と初めて生きて欲しいことを告げ、息絶える小春に固く誓った中島は、雨の中綾部の屋敷へと向かうのだった。


殆ど、全編紹介してしまいましたが、痛快時代劇と銘打つとおり、時折現在の浜松の様子を織り交ぜ展開するストーリーは、笑いとシリアスが半々な「必殺!」シリーズとはまた少し違う娯楽色の 強い作品に仕上がっています。
とはいえ、激動の時代を生きた中島を始めとする人々が抱えた様々な思いが生き生きと描かれ、要所要所に配されたベテラン俳優達の味のある演技が楽しめます。

京本さんが演じたのは、ストーリーでも紹介したとおり、剣の立つ浪人・加山舟平。綾部に雇われてはいるものの、小春に見破られたとおり忠誠を尽くす気はさらさらなく、 自分より強いものと対決するのが生きがい、といった感じの一匹狼。しけを垂らしたヘアスタイルに、漆黒の着物の裏地は合わせ目から覗く色からもわかるとおり赤。
ニヒルな笑みを浮かべ、着物の裾を肌蹴させて白い足を絶妙なチラリズムで覗かせながら歩く様は、思いっきりかつての竜を彷彿させます。
同様に村上さん演じる、中島も黒い着物で 夜道を激走する様は、数年後の政そのもの。
竜さんより更に口数が少なく、凄みがありますが、雄弁な無表情は健在、というか磨きがかかっているのが嬉しい限りです。
立ち回りのシーンが少ないのが、やや残念ですが存在感の大きさはピカ一。触れたら火傷をしそうな雰囲気がたまりません。

ファンにとっては、必殺!以来の共演が見られる、それだけで嬉しいのですが、唐突に現代になったり、「ちびまる子ちゃん」のような突っ込み調のナレーションが やや気になり、もう少し本格的な時代劇にしてほしかった、そんな贅沢なことを思ってしまう部分も(^^ゞ。
しかし、それより何より勿体無かったのが、クライマックスのシーン。遂にサシで遣り合う2人が同時に切りかかった瞬間、 中島の刃に倒れた加山の胸から噴き出す血が、あまりに勢いがありすぎて、いけないと思いつつ笑ってしまいました。
続く絶命の瞬間の表情が、何とも言えずよかったのがせめてもの救いです。
せっかくの対決シーン、音楽も映像もあれだけ盛り上げておいて、それはないでしょ!と心から声を大にして言いたいです。 ラストのタイトルロールで 流れる同じシーンがモノクロで、とてもかっこよく決まっているだけに、余計あの演出が惜しまれます(><)。

1996年3月30日

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