江戸は神田、明神下の岡っ引き・銭形平次の活躍を描いた捕物帖の決定版、野村胡堂作「銭形平次捕物控」。
1935年に『銭形平次捕物控
振袖源太』で映画化されて以来、幾度となく映画やドラマで映像化され、多くのファンを獲得してきました。その中でも、”銭形平次といえば、この人”というくらい最も有名なのが、今回
とりあげる大川橋蔵版『銭形平次』。
昭和41年5月4日のスタートから昭和59年4月の最終回まで、18年の長きに渡り放映され、その数なんと888回という金字塔を打ち立てた、テレビ史上に残る名作時代劇です。
ちなみにこの888という数字。制作していたフジテレビのチャンネル数が8で、水曜日の午後8時から放送されていたことにちなみ、888回をもって終了することに
したそうです。
♪男だったらひとつに賭ける〜 か〜けても〜つれた謎を解く〜
まさにこの歌のとおり、人情に厚く罪を憎んで人を憎まず。どんな時でも凛々しく颯爽と悪人を懲らしめる平次親分。
その姿は今見ても本当に惚れ惚れするくらい
カッコよく、またひとつひとつの仕草がとても綺麗です。
そんな男の中の男、平次親分を軸に、飄々としたキャラクターが魅力の子分、がらっ八こと八五郎(林家珍平)。
一見意地悪だけれど、ちょっとドジで人情もろいところが何とも憎めない、ライバル万七親分(遠藤太津朗)、
沈着冷静に見えて、平次同様熱い心を胸に持つ、同心・矢吹(森次晃嗣)に
皆が集う料理屋・夢屋の面々と個性溢れる魅力的なメンバーが勢ぞろい。
加えて特筆すべきは、毎回のドラマの面白さ、です。
推理小説のような謎解きから、何ともほろりと
させる人情話があったかと思えば、あっと驚く派手な仕掛けにわくわくしたり、時には江戸市中で銃撃戦を
繰り広げたりと、毎回とにかく期待を裏切らない内容には、流石888回は伊達ではないと納得させられます。
さて、前置きがかなり長くなりましたが、
京本さんは魚屋善太(さかなやぜんた)役として、788〜867話まで、と最終回・888話の計80話に出演されました。
今更言うまでもなく、この作品で京本さんが師と慕い「橋蔵先生との出逢いがなければ、今の自分はなかった」とまで言い切る恩師・大川橋蔵さんとの
最初で最後の運命的な共演を果たしました。
この作品出演以降と前では、あの独特のメイクはもちろん、着こなしや台詞回し、時代劇特有の様々な所作など、色んな面で大きな変化が見られることからも、
与えた影響(教わったもの)の大きさが窺われます。
ちょっぴり長めの髷に豆しぼりをねじり鉢巻風に巻き、白字で魚清と入った黒い半纏を羽織り、白い木股から
すらりと伸びたこれまた真っ白な足が何とも眩しいです。
ちなみにこのいでたち、最初はずっとこのスタイルだったのが、出演が長引くにつれ、半纏が綺麗な水色に
変わったり、冬になるとほぼ毎回違う着流し姿など、一介の魚屋とは思えないお洒落振りを見せてくれ、
恐らく京本さんがこれまでに出演された、数多い連続時代劇の中では群を抜く出番の多さとともに、そちらの面でも大いに楽しませてくれます。
大きな声と爽やかな笑顔でいつも元気いっぱいな善太のいちばんの魅力は、なんといってもあの一生懸命さ。
市中を駆けずり回る姿から、張り込み、八五郎や親分と和気藹々としている時でさえ、もう全身から
元気オーラが出まくりです。善太同様、まだまだ時代劇役者としては駆け出しだった、当時の京本さんの
初々しさ、一所懸命さが、台詞や立ち居振る舞いの端々からひしひしと伝わってきます。
落ち込んだ時でも、この姿を見ればたちどころに元気が出る!くらいの
溌剌さがたまりません。
また、ひとつひとつの表情がもうとにかく可愛い!
たまに唇を尖らせて拗ねている時など、思わずジタバタしたくなるほどの愛らしさです。
そんな善太のもうひとつの魅力は、とにかく弱いこと(笑)。情報を得るためや人質を助けようと忍び込んだ先で逆に捕まる、なんてのは朝飯前。
尾行をしていても途中で撒かれてしまったり、時には悪人に知り合いがやられそうになっても、恐々見てるだけということも。
何の武器ももたない魚屋さんなので、当たり前と言えば当たり前なのですが、しかし、そこが逆に何とも言えない
魅力です。
やせっぽっちで弱っちいくせに、口だけはとにかく達者な善太。毎回のように繰り広げられる、八五郎こと
八兄ぃとのやりとりや、夢屋での大口を叩く姿なども密かに楽しい見どころのひとつです。
そんな善太もシリーズ終盤では、八五郎役の林家珍平さんの怪我もあってか、怪我をした八兄ぃの代わりに遂に
十手を預かる身にまで成長します。その初登場時の初々しさとは比べ物にならない、驚くほどの成長ぶりには、まるで我が子の成長を
見届けるようで、思わずほろりときてしまいます。
とにかく随所に初々しく若さいっぱいの魅力がつまりまくった、全篇見どころ満載なシリーズの中でも特にお薦めは、この3本。
善太初登場にして、いきなりの主役(!)で最初から最後まで目が離せない、788話「藤娘の謎」
可愛らしい旅姿と、怪我をしたせいで珍しくしおらしい様子が何ともたまらない、830話「みちのく御用旅」
騙されているとも知らずに、健気に恋する娘の世話を焼いた挙句、頭に風車を挿し市中をスキップ姿で駆け回る姿から、見ごたえたっぷりな大立ち回りに劇中歌も聴ける、という
ファン必見の848話「自慢にならぬ初手柄」
そして、上記3本とは別にもうひとつ、これだけは外せないのが感動のラスト888話。
美空ひばりさんを始め、平次ゆかりの豪華ゲストが多数出演し、京本さんも魚屋善太役でレギュラー出演時から、一回りもふた回りも成長した
姿をたっぷり見せてくれています。
見ごたえ十分な本編はもちろん、何と言っても圧巻はエンドロール。ラストカットを撮り終えた直後から、大勢のスタッフ、ファンが拍手で見守る中、東映撮影所内を主役の大川橋蔵さんとお静役の
香山美子さんを先頭に出演者一同が練り歩く姿が映し出され、その感無量な様子に改めて18年という歳月の重さが伝わってくるようで、じーんと胸が熱くなります。
ともかく、色んな意味で時代劇役者・京本政樹の原点といえる「銭形平次」。再放送はもちろん、いつかDVD化される日が
くることを願ってやみません。
あのクールな仕事人からは
決して想像もつかない、元気いっぱいやんちゃ坊主な善太、大好きです!
主要キャスト |
銭形平次 | 大川橋蔵 | | 万七親分 | 遠藤太津朗 |
お静 | 香山美子 | | 留造 | 有光 豊 |
八五郎 | 林家珍平 | | おくみ | 桂木 文 |
魚屋善太 | 京本政樹 | | おさと | 島村美妃 |
おきよ | 市毛良枝 | | 矢吹圭一郎 | 森次晃嗣 |
松吉 | 鎌倉俊明 |