● 坂道の女  ●

『世にも奇妙な物語』。
1989年に深夜枠で放送された「奇妙な出来事」が1990年春の番組改編に際し、現在のタイトルに改称し、木曜夜20時〜20時54分のゴールデンタイムに進出。
ストーリーテラーにタモリを迎え、当時としては珍しかった正味15分の3本だてオムニバス形式と斬新な内容が圧倒的な支持を得、 1992年2月のシリーズ終了まで実に175本を放送。それ以降は、春や秋などの季節ごとの特別編として毎回3〜5話が放送され、いずれも好評。現在も尚、続くフジテレビが誇る長寿番組です。

京本さんは第1シリーズの26話『坂道の女』に主演されました。原作は同名の阿刀田高の短編小説(『マッチ箱の人生』講談社文庫 収録)。
ちなみに同日に放送されたのは鶴見辰吾主演『屋上風景』、斉藤慶子主演『だれかに似た人』。初期シリーズの特徴でもある、ホラー色の濃い組み合わせの かなりこわい回でした。


女性雑誌編集者の河野秀之(京本政樹)は、ある夜原稿を取りに大学の先輩でもある作家の遠藤和生(岡本富士太)のマンションを訪ねる。深夜バスを降り、メモを頼りに遠藤の自宅を探す河野だが、筋を一本間違えたのかなかなかあたりに人家らしき ものはなく、ただ霧雨がしのつくように降るばかり。どことなく薄気味悪ささえ漂う中、河野は近くに誰かがいる気配を感じる。が、雨に濡れた風景は無人のまま。そんな彼の耳に「おかあさーん」という小さな女の子の声が聞こえ、再び周囲を見回すと、 前方から白いレインコートを着た女(津島令子)が「ゆきこーゆきこー」と子供の名前を連呼しながら駆けて来た。ようやく現れた人影にほっとしたように声をかける河野だったが、女は彼の存在すら気づかない様子でそのまま駆け抜けて行ってしまう。

諦めた河野はようやく目指す家を見つけ、原稿を受け取る。そのまま遠藤と話すうち、先ほどの女性が以前、とあるホテルに原稿を取りに行った際、入口でぶつかった女性であることを思い出す。そして、そのことをここへ来る途中で起きた不思議な出来事とともに遠藤に話すと、 遠藤の顔色が急に変わり、数日前に起きた事件について語りだした。
彼の話によると、一週間前の同じように雨が降る深夜、河野が不思議な体験をしたその坂道で幼い女の子が車にはねられて死んでしまったのだという。そして、何故そんな深夜に幼い子が1人でそんなところにいたのか、驚愕の事実を語り終えたその時———。


80年代後半の苦しい時期を乗り越え、様々なドラマへの出演、連ドラや単発でも次々と主演作が続く中、人気番組での主演はファンにとっても嬉しい出来事でした。
グレー系のスーツにかっちりとネクタイを締め、この時期の特徴でもある、メイクが薄い、髪型がかなりすっきり爽やかスタイルである、ということに加え、この作品では全編怯えまくる京本さんが見られる、というかなり美味しいポイントが。背中を丸めおどおどした表情がたまらなくキュートな一方で、さりげなく手にしたメモをどんどん握りしめていく、という細かな部分にニヤリとさせられます。また、全編河野のモノローグで進んでいくのも嬉しい限り。
短い時間の中でころころ変化しまくりな表情にも注目です。が、なんと言ってもいちばんのポイントはラストの絶叫、これに尽きます。

と、短いながら見どころ満載、飽きさせない作りになっているのですが、いかんせん上に書いたように怖いんです。直接的な描写はもちろん、効果的に入れられる小物や照明がものすごく恐怖をそそります。なので、ホラー系が苦手な方はかなり注意が必要です。これを書くためにじっくり見返したのはいいですが、しばらく毎晩夢見が悪くて大変でした(^^ゞ
せっかくの長寿番組。今の京本さんが演じる『世にも奇妙〜』の世界を見たい気もしますが、またあの怖さを味わうのかと思うと……ちょっと自信がありません(苦笑)。

ところで、初期のシリーズではストーリーテラーであるタモリがエキストラとして出演することが多々ありましたが、この作品でもバスの運転手として出演されています。見逃した方はチェックしてみてくださいね。

1990年8月23日

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