●● マルタの女 ●●
80年代前半、ビューティーペア以来の第二次女子プロレスブームの火付け役となったクラッシュギャルズ(ライオネス飛鳥と長与千種のコンビ)。
ブロマイドにレコードデビュー、各地に親衛隊発足とアイドルさながらの活躍ぶりで、6年間の活動期間に延べ600万人もの観客動員を記録。
敵役の極悪同盟とともに、2005年に解散した日本女子プロレスの歴史に輝かしい一時代を築きました。
極悪同盟、その名の通りダンプ松本、ブル中野ら悪役レスラー達が女子プロ界のヒーロー・クラッシュギャルズを倒すべく84年に結成。
強烈なデビルメイクと派手な大技、レフェリーさえも味方につける悪党ぶりで敵役にも関わらずヒーローさながらの人気を博し、クラッシュギャルズとの髪切りデスマッチなど数々の名勝負を繰り広げ
ました。
女子プロ黄金時代を支えた極悪同盟の中心として、日本中を沸かせたダンプ松本さんも1988年に惜しまれながらも引退。タレントに転進し、バラエティーやドラマなど活躍の場を広げていった
中で制作されたのが、今回取り上げる『マルタの女 デブで可愛い女の子・たったひとつの泣きどころ』です。
『マルタの女』ものすごいタイトルですが、これは女子プロレスラーとして標準よりはかなり大きな体格の松本さんと当時大ヒットした、伊丹十三監督の『マルサの女』をもじってのもの。
大きな体格とプロレス時の強面から、一見怖そうなイメージの松本さんですが、素顔はこのドラマのヒロインのように純でとても温かい心の持ち主だそうで。
当時、たまたまトーク番組でレスラー時代、強烈な悪役であるが故、ヒーローレスラーのファンからはかなり憎まれ、罵詈雑言を浴びせられたり、石を投げられたりしたことも
あったこと。それでも自分が好きで選んだ道だから、耐えることが出来たけれど、母親が試合を見に来た際に、クラッシュギャルズの控え室を訪ね娘の非礼を詫びている姿を見た時、
本当にやめたくなったことを涙ながらに語っているのを見て、普通のスポーツ以上に過酷な世界で、またプロレスという特殊な環境故に背負わねばならなかったあまりに大きな苦労と努力に思わずもらい泣きした記憶があります。
さて、前置きが長くなりましたが簡単にストーリーを紹介すると。
有沢雄介(渡辺篤史)は、部長の山下(天田俊明)に頼まれ、山下の姪・姫子(ダンプ松本)を住み込みのお手伝いとして
預かることになった。雄介は先ごろ大阪転勤を命じられ、一家で大阪に移ることにしたが、母・クメ(初井言榮)は住み慣れた家を離れるのを
頑なに拒み、大学生の息子・俊彦(宮田恭男)と残ることになり心配していた矢先に部長から花嫁修業にと頼み込まれ、ふたつ返事で了承したのだった。
一家が大阪へと出発する日、やってきた姫子の想像を絶する巨漢ぶりにあっけにとられる一同。しかし、いざ暮らし始めて見ると、のんきでマイペースな
ところはあるものの、”気は優しくて力持ち”を地でいくような姫子の人柄が気に入り、クメは実の孫のように可愛がり、そんなクメに姫子も
すっかり打ち解けていく。
ある日、ひょんなことから実の家族にさえ疎まれていた姫子の過去を知ったクメは、何かと後ろ向きになりがちな姫子の性格を変えようと、
美容院へと連れ出す。そこで出会った店長・浦野(京本政樹)に一目惚れした姫子は、彼のために美しくなろうと運動を始めたり、
一目会いたくて連日美容室に通うようになる。しかし、姫子を快く思わない店員が、浦野の留守中に冷たい言葉を浴びせ、傷心した姫子は
家を飛び出してしまう。
姫子を預かることが出世の早道と考える雄介は、妻とクメを姫子の実家に連れ戻しに行くが、そこに姫子の姿はなく途方に暮れる2人。
そんな矢先、裏のとし坊が誘拐される事件が発生。しかも、ドジな犯人が雄介の家に間違えて電話をしてきたことから、俊彦が誘拐された
と思い込み蒼くなる一同だったが、姫子の活躍で無事事件は解決、離れかけていた父子の絆も深まりめでたしめでたし。
そして、事件をきっかけに、姫子が憧れていた浦野からも告白され、降って沸いた幸せに薔薇色の日々を送る姫子だったが・・・。
全編コメディー仕様な中に、様々な事件を通して次第に絆を深めていく、クメと姫子の心温まる関係や、離れがちだった家族がひとつにまとまっていく
様子がほのぼのタッチで描かれ、笑ってちょっぴり泣けるとても心温まる作品です。
あまりにベタな展開に、少々こそばゆい気もしますが、登場する人々の優しさにほっと癒される、心がほっこりするドラマです。
この作品で京本さんが演じたのは、姫子が憧れる美容師・浦野春彦。
当時、京本さんのファンだった松本さんの初主演へのプレゼント、ということで猛烈に忙しい合間を縫っての特別出演と
なりました。
憧れの人役だけあって、どこからどう見ても爽やかでカッコよく、浦野店長の笑顔の眩しさ・優しい表情には、姫子ならずともうっとり。
しかし、爽やかな笑顔を見せつつも、転んだ姫子を助けるシーンでは、さりげなく腰を気にしたり、と細かな部分で
笑いを提供してくれるサービス精神ぶりが嬉しい限りです。
モテモテ君な割に、けっこう初心なハートの持ち主らしく、特に姫子への告白シーンでのどぎまぎぶりの可愛らしさは必見です。
出番はそれほど多くはないですが、男性の20代後半といえば、一般的にも少年ぽい瑞々しさと溌剌さを残しつつも、大人の男としての色気も見え始めた、
最も美しく見える時期。どの表情・仕草をとっても掛け値なしに本当に綺麗だな、と思わせてくれます。
当時、少しずつ増え始めたクセのある役とは、また一味違う正統派2枚目若手スターとしての美しくも華やかで爽やかな魅力
に溢れた一本です。
1988年8月4日
Copyright (c) 2006 shion All rights reserved.