●● 眼中の悪魔 ●●
「魔界転生」「忍法帖シリーズ」などで知られる山田風太郎氏の異色ミステリー「眼中の悪魔」のドラマ化。
東京から故郷の病院へと赴任した立花は、地元の富豪である片倉(中尾 彬)を訪ねた。片倉の妻・珠江(山咲千里)とはかつて恋人同士だったが、珠江の異母兄
である定吉(石倉三郎)を救うため、立花を愛しながらも片倉と結婚したいきさつがあった。
仲むつまじく、子宝にも恵まれた片倉夫妻を温かく見守る立花。しかし、そんな平和な事態もある日を境に一変する。珠江を訪ねて来た定吉との様子を
偶然目撃した片倉の中に、とある疑念が芽生え始めたのだ。それ以降も次々と不可解な行動を取る珠江の様子に、片倉の猜疑心は膨らむばかり。定吉と珠江が実の兄妹かどうか調べるよう依頼された立花は、
真相を己の内に仕舞い込み、何とか片倉の猜疑心を
抑えようとしたのだが……。
この作品で京本さんが演じたのは、主人公である立花大平。立花の独白という形で始まるこの物語のストーリーテラーも兼ねておられました。
柔らかくやや憂いを含んだ声音で語られる独白が心地よく、耳にすーっと馴染みつつ見るものを立花の心の中へと誘います。
物静かで時折見せる伏目がちな表情が印象的な立花医師。鞄を小脇に抱え歩く様や、何気ない視線にも物憂げな雰囲気が漂う一方で、当時の京本さんらしい爽やかさが随所に顔を覗かせます。
短く切り揃えられた髪も清々しく、回想シーンやラストの子供と戯れるシーンで見せる笑顔の華やかさが眩しいです。
また、珠江役の山咲さんの気だるい色香は、あまりに妖艶で片倉ならずとも疑心が募らずにはいられないほど。次第に狂気へと
駆り立てられていく片倉の様子と合わせて必見です。
サスペンスという形式を取ってはいるものの、犯人を解明して一件落着というスタイルではなく、それぞれの心理描写に主眼を置き一種の謎解きのように進んでいくこの作品。
静かに少しずつ進んでいく展開が否応なしに先への興味をそそり、じわじわとした恐怖を味わいながらも、見終わった後に何とも不思議な余韻が残る逸品です。
1989年7月17日
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