● 新・部長刑事 アーバンポリス24  ●

大阪朝日放送(ABC)制作、大阪府警公認(応援)、提供大阪ガスという三大看板を引っさげ、関西ローカルにて 1958年9月から2002年3月までの44年間、土曜夜19:30〜のゴールデンタイムに放送回数2159回(!)もの驚異的なロングランを記録した知る人ぞ知る日本最長刑事ドラマ『部長刑事』。

『太陽にほえろ!』『西部警察』『Gメン75』etc.に代表されるように、刑事ドラマと言えば、派手なカーチェイスに銃撃戦、というイメージが 一般的な中、大阪府警を舞台に地道な捜査や刑事ゆえの葛藤、泥臭い人情などをメインに描き、徹底して大阪(関西)に拘った番組作りで根強い人気を誇りました。
開始より30余年は ずっと『部長刑事』というタイトルでキャストも関西色の濃い役者を据えていましたが、90年代に入り『新部長刑事・アーバンポリス24』となってからは、 篠田三郎、勝野 洋、小野寺昭扮する部長刑事は、本庁(東京)から大阪に赴任してくる、という設定に変更。
コテコテの関西色がやや薄れるとともに往年の人気にも翳りが見えてきた 中、再び大阪色で復活を、との声に2つ返事で快諾した京本さんが、めでたく第13代部長刑事に就任の運びとなりました。


相原京介。——部下曰く、ごっつう変わりモンとして知られ、それまでに勤務した各署で数々の伝説を残したつわもの。お洒落にめっちゃ気を遣い、事情によりネクタイは締めないが、ホストが出来るくらいの超美形で目立ちたがりのお調子モノ。煙草とコーヒーが苦手だけれど、南署bPの検挙率を 誇る敏腕刑事。
お洒落に気を遣うとの評判どおり、長髪にノーネクタイでスーツをさらりと着こなし、どこに行くにもたとえ真夏であっても商売道具(本人談)の色とりどりのトレンチコートの裾をさっそうとなびかせる。——

超がつくほど個性的な彼の魅力は、カッコよさと情けなさの絶妙なバランス、これに尽きます。
「大阪府警や!」と決めをきかせて登場し、たちまちのうちに犯人を逮捕する一方で、自らのことをキョンキョンと呼び、最愛の娘・笑子(大沢あかね)に常に頭があがらず、尻に敷かれまくる姿には、部下からも「昼間の京介さんは幻」「相原さんてカッコええのかどうか、わかりませんね」と 呆れられる始末。そして彼の最大の弱点(魅力?)は、極端な高所恐怖症であるということ。毎朝、自身が住むマンションの5階からエレベーターに行く際の見事なまでに這いつくばる様や、勇猛果敢に危ない現場に飛び込んだり、ピシリと犯人や部下にお説教を垂れていたのに、そこが高い場所だったと気づいた途端、手すりにすがりつき 「あかん!怖い〜」とうろたえる姿は、百年の恋も醒めるのでは、と思うくらい情けない。けれども、その落差が何ともお茶目で親しみやすさを誘います。

そんな究極の2枚目半な男・京介に負けず劣らず、上司・部下達にもこれでもか、というくらい強烈な愛すべき面々が勢ぞろい。
絵に描いたような熱血漢で体力だけが取柄だが、同僚の悦子にかける一途さは半端じゃない和田一平(橋本 潤)。8年ローンで購入した自慢のマウンテンバイクで片道3時間もかけて通勤し、お洒落(?)な京介とは対照的に常にTシャツにジャージ姿で腰にはウェストポーチ。その野性的な風貌に合わせたかのように 主食がバナナとミネラルウォーター、という拘りが憎いです。
いつも明るくはきはき思ったことを口にする一方で、厳しい男ばかりの世界で足手まといなりたくない!、ともがく姿がいじらしい川添悦子(松本麻希)。
一見強面で近寄りがたく見えるが、部下からは「満(まん)さん」と慕われる大阪府警特捜1課出海班班長・出海満(渋谷天外)。常に広い心で時に厳しく、クセのありすぎる部下達を見守り、京介の亡父(近藤正臣)と コンビを組んでいたことから、京介の父親代わりも自負する心優しき中年オヤジ。

序盤はこの4名を中心に展開し、42話からは、一平とよきライバルの皮ジャンライダー、京介曰く”北島サブちゃん”こと北山三郎(池田政典)、南署時代から京介の熱烈なファンだった、子持ちの美人刑事・田中礼子(みやなおこ)が出海班へと異動。一気に賑やかになります。
更に結婚・夫の転勤で異動・退職する悦子、礼子の代わりに66話から登場の美人凄腕刑事・立花 咲(杉本 彩)。サラサラヘアーにナイスバディ、腕っ節の強さは天下一品で京介の腕もひとひねりなのに、ミッキーマウスの時計を愛用する可愛らしい一面も。
そして、もう1人忘れてならないのが、番組の華、影の主役と言っても差し支えない京介最愛の人である愛娘・笑子(大沢あかね)。
笑う子と書いて”えみこ”と呼ばせたその名のとおり、 辛いときでも笑顔を絶やさず、何かと頼りない京介に代わり家事一切を取り仕切る頼もしすぎる姿が見ていて本当に気持ちがいいです。あまりに息もぴったりな京介との微笑ましすぎる父娘ぶりには、ドラマを忘れて魅入ってしまうほど。そして2年という長丁場で、子供から少女へと成長していく姿には感動を覚えずにはいられません。


数多い見どころの前に、今回何と言っても特筆すべきなのは、やはりコレ。
コテコテな関西ローカルと言うからには……、そう、この作品では、全篇関西弁を話す京本さんが見られる上に、日頃、見慣れた風景の中に京本さんがいる。これは関西(特に大阪周辺)在住・関西に縁のあるファンにとってはたまりません。
舞台となった大阪府警がある谷町筋界隈や大阪城周辺、梅田・中津近辺にとどまらず、吹田や箕面、千里ニュータウン等の大阪府内はもちろん、京都・嵐山や南紀白浜から兵庫の山奥まで、と近県に足を延ばしたことも。ドラマを見ながら、うわあ、ここって近所のあそこやん!なんて思わず嬉しい悲鳴を あげたファンの方もおられることでしょう。

と、話が横道にそれましたが。改めて見どころを紹介していくと。
個性的なメンバーの中でも、やはり群を抜く存在感の京介を中心に、番組のカラーである泥臭い人情話をベースに、時にしっとり、コミカルにそれぞれの事件を通して人間の弱さ・優しさ・脆さ・幸せ等を描いた作品の数々は、 従来の刑事モノの枠に嵌らない自由なスタイルがぐいぐい見るものを惹きつけ、とにかく面白い!の一語に尽きます。
シリーズ序盤の軽くティッシュ半箱は使えるくらい涙を誘う京介の過去話はもちろん、悦子と父の葛藤、京介父娘の強い愛、一平と三郎対決、京介との些細な喧嘩から中年の悲哀を感じてしまう満さんなど主要メンバーにスポットを当てた話から、個人的に涙が止まらなかった閉店するラーメン屋を舞台に繰り広げられた人情話、プロ顔負けのストーリー展開に驚かされたストーリーコンクール入選作品の数々、 とにかく感無量の最終回etc.どれも一度ならず何度でも見たい!と思わせる内容で挙げだすとキリがありません。
また、京本さんは主演のみならず、劇中音楽、主題歌「いとしくて」(65話〜)を手がけ、更には”武町京子”の名前で脚本も執筆されていました。
これまでにも自身が出演された ドラマでの京本脚本(原案)は、とにかく心の琴線に触れる作品が多く密かに大好きなのですが、このシリーズでも期待を裏切ることなく、というより期待以上の名作・力作ぞろいなのが嬉しい限りです。
特に、渡辺裕之、細川ふみえの豪華ゲストを迎え前・後編の2週にわたり放送された『疑惑』は、世間が京本政樹という俳優に持つイメージを見事に 逆手に取ったストーリーに唸ってしまう、また涙なくしては見られないファン必見の1本です。


出演者・スタッフが一丸となり、従来にない新しい部長刑事を、とにかく良い作品を作ろう!という意気込みが随所に現れるこの作品。各話や各キャラクターの役づくりだけでなく、オープニングやエンディングにも徹底した拘りが見られ、一貫してスタイリッシュを目指したOPと 大阪の町並みや各回のフラッシュバックに郷愁を誘われるED、という対比が心憎いです。

また、それまでの関西ゆかりの役者陣だけでなく、京本さんの幅広い交友関係を駆使した豪華なゲストも大きな見どころです。若かりし頃から数多くの作品で共演し、プライベートでも本当に親しい大先輩・遠藤太津朗さんが義父役で度々出演。 まるで本当の親子かと見まごうほど息の合った演技を披露してくれたほか、初回の井手らっきょに始まり、京介の父と嫁役の近藤正臣、羽野晶紀、 円広志、唐沢寿明、島田紳介、六平直政、名高達男、天宮良、根岸季衣、大村崑、亀山忍、長江健次、鶴田さやかetc.とても挙げきれないほどです。


とにかく見どころは全て、というくらい京本さんの魅力がつまりまくったこの作品。シリアスからコミカルまで本当にこれでもか、というくらい色んな表情が堪能できます。その中でも笑子を始めとする周囲の人間に向けられた笑顔の優しさ・温かさは一度見たら虜になるくらい、見るものを温かい気持ちにさせてくれます。
加えて時折登場した、回想シーンでのいわゆる”おまわりさん”時代では、耳かけヘアーで若返った風貌に、初々しく若さに満ち溢れた笑顔が見られるという特典も。
見た目はとにかくカッコよく、時に大人の渋み・色香も感じられるのに、一皮剥けば子供っぽい一面が顔を覗かせ、その上やたらおしゃべりでめちゃくちゃ気さく、という京本さん ならでは、京本さんにしか出来ない・出せない色が満載です。
2年・89話という長丁場で、最初は若さゆえ”突っ走りの京介”というかつてのあだ名にふさわしく、部下よりも熱くなることもしばしばだったのが、月日が流れるにつれ、落ち着きとこう見えて人一倍苦労を重ねてきた男ならではの 重みが見え隠れし、ちょっとした仕草や表情にも”部長刑事”らしさが窺えるようになってくるのには、じーんと胸にくるものがあり、見逃せないポイントです。
そんな京介の成長とともに、実際の京本さんと共演の方々との打ち解け具合を示すが如く、どんどんアドリブ炸裂となる 台詞の応酬も密かな見どころです。とある回では、当時京本さんが出演されていた、全国ネットの某人気ドラマでの口癖を真似る一平ちゃん、という思わずニヤリなシーンがあったり、また別の回では、京介の熱狂的長嶋信者ぶりだけに留まらず、劇中ギターを抱えて自ら「相原京介とトゥインクルってなー」なんて、役ともご本人ともつかない 言動を見せる、という楽しすぎる一面も覗かせてくれました。


関西ローカル故、出演中は「何故、今更関西ローカルの番組に?」という声を向けられることも多かった京本さん。けれども、関西ローカルだからこそ出来た、いつもの東京主導のドラマでは決して見られないようなシーンの数々。 全篇を通じて根底に流れる空気の暖かさ。それを思うと、本当にこの番組に出演されたことへの嬉しさ・ありがたさ・心からの感謝の気持ちを噛み締めると同時に、こんな魅力的な姿だからこそ、全国のお茶の間で流してほしかった、そう思わずにはいられません。
もし、願いが叶うのなら、いつの日か土曜ワイド劇場あたりで『アーバンポリス24スペシャル』として最も愛すべきキャラクター、相原京介にもう一度会いたい、いつかまた、こんなキャラクターを活き活きと演じる京本さんが見たい、そう願います。



主要キャスト
相原京介京本政樹相原笑子大沢あかね
和田一平橋本 潤田中礼子みやなおこ
川添悦子松本麻希北山三郎池田政典
出海 満渋谷天外立花 咲杉本 彩

1999年5月1日〜2001年3月

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