彼女の名はサナ。雇い主の命令によってしか動けぬ悲しき宿命(さだめ)を背負った女。
戦国時代から現代へタイムスリップしてしまった忍の女、サナ。ひょんなことから彼女を助け、自分の家に住まわせてくれた村田正子を雇い主とし、命に応じ仲間とともに
世間にはびこる悪人どもに天誅をくだす。
闇の仕置人の副題が示すとおり、娯楽時代劇の傑作である必殺!シリーズのテイストを現代にアレンジし、勧善懲悪なストーリーと痛快アクションを盛り込んだこの作品。
設定は現代でも昭和テイスト満載。悪は必ず退治される、というわかりやすい展開が見る者をスカッとさせ、随所に散りばめられた遊び心と確かな演技が笑いと時に涙を誘い、明日への活力と元気をくれる極上のB級ドラマに
仕上がっています。
村田正子(泉ピン子)は、親友の三平弥生(鷲尾真知子)と買い物の途中で通行人に刃物を振りかざす男に遭遇する。人質をとり、周囲の人々を威圧する男に憤慨し、止めに入ろうとした正子はビルの鉄塔の
上に立つ黒いフードを被った女に目を止めた。
次の瞬間、眼にも止まらぬ速さで男の前に降り立った女は、「殺すなら私を殺せ」と呟きながら近づき、男が怯んだすきに人質を救出、あっさり男を片づけ止めを刺そうとしたところを「殺しちゃだめ!」という
正子の叫びにより思い止まり姿を消した。
その帰り道、神社の軒下で行き倒れている女を発見した正子はそのまま家に連れて帰る。手当をすませ、着替えさせようとした正子は、女の背中に印された大きなバッテンマークの傷跡に驚く。サナ(小野ゆり子)と
名乗る女を正子はしばらく預かることにする。
翌日、正子に頼まれ同行したサナが向かった先は古武術介護教室。白袴の師範、松田竜次(京本政樹)に正子はじめ、生徒達はメロメロ。サナはそこで正子の友人らしい、オネエ言葉の男・東條ミツ子(三ツ矢雄二)と出会う。
たまたま実地指導のパートナーにサナを指名した松田は、その身のこなしからサナに武術の心得があることを見抜く。
道場でミツ子から、親友の菅井知世子(茅島成美)の住居である善灯寺で起きたボヤ騒ぎのことを聞いた正子とサナは、寺でDVから逃れて避難している真由美と出会い、
知世子らと供に彼女を助けることに。
一方、突然同居を始めたサナに正子の息子・丈朗(乃木涼介)恭子(白石美帆)夫婦が怒鳴り込んで来る。出て行こうとするサナから身寄りがなく、契約を交わすことで生きのびて来たと聞いた正子は、そばにいてと懇願する。実は、正子には24年前に謎の
少女連続誘拐事件で失踪した娘・ゆかり(南乃彩希)がいたのだった。そして、ゆかりはサナのたった1人の肉親である妹・ユウと瓜二つでもあった。
真由美の夫の行状に業を煮やした正子は、遂にサナに天誅を下すことを命令する。しかし、無事天誅を果たしたにも関わらず、絶望した真由美は自ら命を絶ってしまう。
真由美の死を聞いた正子は、サナの雇主となることを宣言する。そして、世の中を良くするために働いてくれるよう、サナと契約を結ぶ。
それは正子を中心とする闇の仕置き人の始まりでもあった……。
この作品で京本さんが演じたのは、松田流(しょうでんりゅう)十三代目師範の松田竜次。
竜冥館という道場で近所のおばさま達に古武術介護を教えているイケメン先生。白い袴姿も凛々しく武術を習うというよりは、殆ど先生と触れ合うことが目当てなおば様達から
の熱烈ラブコールも爽やかな笑顔でするりとかわし、道場を一歩出ればカーキに金の飾りが施されたブルゾンに身を包み、バー天守閣の片隅で赤ワインのグラスを静かにくゆらす。
サナをも圧倒する腕前を持ちながら、あくまでサポートに徹し、聞き込みや調べ物などもこなす出来る男。
古武術に精通しているだけあって忍のことにも詳しく、道場には九字印の魔除けの書が飾ってあったり、サナの素性にもいち早く気づき、さりげなく助言をする優しさも併せもつ。そんな先生への皆の信頼は厚く、正子や密かに狙っているらしいミツ子はもちろん、サナからも仲間として真っ先に名前を挙げられる存在です。
仕置人という設定と役柄の名前から、どうしても組紐屋の竜を彷彿させますが、竜だけでなく名張の翔や秋草深十郎など随所にこれまでの長い芸歴で培ってきた当たり役が投影されています。
そんな松田先生の見どころは、やはり何と言っても2話以降毎回必ず見られるアクション、という名の立ち回り。時代劇のような派手さはないものの、美しさとキレが同居する魅せどころを心得た動きがたまりません。当初は素手だったのが4話で木刀を手にしてからは、マフラーや鉄パイプ等毎回手を変え品を変えで楽しませてくれます。
7話では遂に日本刀を手にし、派手な大立ち回りこそないものの、お決まりのくるっと回して納刀も披露。刀を肩に「没収」と呟くお茶目な一面も。
そして極めつけは何と言っても最終回。正子にすべてを打ち明け1人きりで悪に立ち向かおうとするサナをマフラー1本で文字通り身体を張って止めに行くシーン。ぐっと口をへの字に結ぶ、時代劇ではお馴染みの表情が久しぶりに見られます。マフラーを駆使し、静と動を巧みに使い分けた力強くしなやかな立ち回りは、どこから見ても
カッコイイの一言。
個人的に最大の見せ場は、サナの刀を拳で受けた瞬間です。表情だけで刺されたことを表現したその顔は、まさにこれぞ京本政樹と言いたくなるほど見事です。
その後の天誅シーンでは、木刀を手にほぼ時代劇と変わらない立ち回りをたっぷりと堪能することがでるサービスぶり。
また、天守閣などでの八巻とのどこまでが台本で、どこからがアドリブなのかが分からないやりとりも楽しいです。日頃はサナと行動を共にすることが多く、絵になる2ショットが多い先生ですが、時にはアラレちゃんばりの丸眼鏡をかけての潜入捜査を行うこともあり、毎回が見どころ満載です。
京本さんだけでなく、このドラマでは役者の個性を活かしたキャスティングが際立つのも見どころのひとつです。
これぞクールビューティーと評したくなる、凛とした美しさとへにゃっと笑った時の柔らかさのギャップがそのまま役柄での魅力につながった主役の小野ゆり子さん。
今更、言うのもおこがましい泉ピン子さんの説得力がありすぎる演技はもちろん。
ミツ子を演じる三ツ矢さんの本職である声優を活かした七色の声音と似合いすぎな女装、八巻を演じる兄弟こと慎吾ちゃんがこれまで磨きに磨いてきた珠玉の芸の数々。
それが毎回、ストーリー展開に違和感なく活かされ、披露されているのが嬉しい限り。特に七話で遂に披露された柳沢慎吾警察24時は必見。最終話でも1人甲子園、とバラエティーでは、途中で遮られてしまうのがお決まりのネタの数々が、これでもか、とたっぷり
見られます。
また、細かなところまで遊び心や細工が行き届いた小物達も密かな見どころです。この先のストーリーを暗示する?こともある、遊び心に満ち溢れた天守閣の小道具や、思わず涎が垂れそうに美味しそうな村田家の食卓とババ3人組が食するおやつの数々。回を追うごとにエスカレートする正子vs恭子の嫁姑対決も楽しく、出番は少ないながらも
最後まで敵か味方かヤキモキさせられた警視庁コンビetc.見どころを挙げだすとキリがないくらいです。
そして、こういった勧善懲悪モノでは、何と言っても悪役が重要ですが、毎回、多彩なゲストが一分の同情の余地もない、見事な悪っぷりで楽しませてくれます。
Dragon Ashが歌う主題歌始め、劇中音楽もドラマにとても良く嵌り、個人的に天誅シーンでかかる音楽にはとてもパワーをもらいました。
「天誅」への出演が決まった後に、博多座での滝沢演舞城の仕事が決定した関係で、当初の全9話が8話となってしまったのが残念でしたが、7話までに積み重ねられた数々の伏線や謎を8話で鮮やかに綺麗にまとめ切ったのはお見事としか言いようがありません。
笑って、泣いて、怒った後にスッキリとした気持ちでまた笑ってほろり。くだらなさの中に心の体操がたっぷり詰まった「天誅」。こんなに楽しく名残惜しかったのは久しぶり、ドラマ本来がもつ楽しさを改めて実感できた作品です。
ゆかりは本当に生きているのか?、依然として謎だらけの松田先生の過去、サナと一之瀬の恋の行方等、まだまだ気になる要素がいっぱいです。
是非とも続編、もしくはスペシャルで愛すべき天誅メンバーにまた会いたいと思います。
主要キャスト |
サナ | 小野ゆり子 | | 村田正子 | 泉ピン子 |
松田竜次 | 京本政樹 | | 八巻 辰 | 柳沢慎吾 |
東條ミツ子 | 三ツ矢雄二 | | 村田恭子 | 白石美穂 |
一之瀬大和 | 竹財輝之助 | | 首藤重吉 | 嶋田久作 |
菅井知世子 | 茅島成美 | | 三平弥生 | 鷲尾真知子 |