● 太陽は沈まない  ●

母親の死因は"医療ミス"なのか?真実を解き明かすべく、巨大病院を相手に戦いを挑む少年が歪んだ社会に傷つき悩みながらも人を愛し、成長していく姿を通して、人間の絆と生きる勇気を問いかける…。
滝沢秀明&松雪泰子主演でラブロマンスと思いきや硬派な医療ミスを扱い、丁寧な作りと見応えある内容で 高視聴率を獲得したこの作品は、レンタル店やDVD販売でも未だに根強い人気を誇っています。

厖大な出演作の中で、現代劇では教師や医者、刑事などエリート役が多い京本さん。特に医師役は 連続モノから映画、2時間ドラマとかなりの数を演じておられます。その数ある医師役の中でも あの黒崎医師と並ぶはまり役といえるのが、今回の『太陽は沈まない』で演じた南 悦司。
黒崎先生が一見冷徹な仮面を被った実は心優しき紳士(ヒーロー)なのに対し、南医師こちらは正真正銘の憎まれ役です。 上司である伊勢谷外科部長(大杉 漣)ともどもその見事な憎まれ役っぷりは、このドラマにおける影の主役の位置を獲得したと言って 差し支えないでしょう。

さて、ここで南医師とは一体どんな人物だったのか簡単に解説すると…。
昭英総合病院に勤務する外科医である彼は、腕利きの医師として病院内でも 一目置かれる存在。しかし、腕の確かさとは裏腹にその人となりは、 全身これプライドの塊なのでは?というくらい気位が高く、基本的に自分以外の人間を全く認めていない節が。 それは上司である伊勢谷外科部長や弁護士に対しても変わらず、とりわけ今回の裁判の相手である真崎家の 人間に対しては顕著です。
その言動はファンの贔屓目を差し引いても、この人とはお近づきになりたくない、と思わせるに充分です(笑)。 しかし、この方とにかく見ていて面白いというか、飽きないと言うか、見どころ・突っ込みどころ満載な言動の数々は見るものを惹きつけてやみません。
取り上げだすとキリがないのですが、中でも真崎家前での泣き落としは、もはやお手の物といった感じで必見です。 これくらいあざとく泣き崩れる姿が似合う人は、彼をおいて他にいません(笑)。その痛々しいまでの泣きっぷりは、メスの置忘れを謝罪する会見で魅せた、 まるで少女と見まごうほどの可憐な、けれどこれ以上ないほど沈痛な表情 とともに一度見たら忘れられないこと請け合いです。

そんな彼の口癖は「わぉ」と「僕は悪くないですよね」。
元は京本さんのアドリブだったという「わぉ」。とにかく至る場面で発せられるそれは声音・表情も実にバリエーションに富んでいます。 その中でも、最終回の”声なしわお”と並んで是非とも取り上げたいのがこれ。
被告人質問において松雪泰子扮する桐野弁護士から執拗な攻撃を受け、次第に支離滅裂な答弁になる南医師。 そんな彼に最後の一押し、とばかりに彼女が放った言葉。
『真崎照子さんのお宅に手を合わせにいらした際、医療ミスで亡くなったのではないという発言をなされてますが。 それはつまり、”自分が犯した 医療ミスで亡くなったのではない”、そう言いたかった』
事件発生後、彼が本当はずっと言いたかった、けれど決して口には出来なかった事件の真相を解く鍵となる問い。 それに対して、上目遣いに見上げた後、視線を下げ考え込む南。その姿に誰もが答えはないと思った刹那、僅かに表情が動き短く低く発せられた「わぉ」
真実を話せないもどかしさ、怒り、諦め、苦しみ、医師として最善を尽くした”僕は悪くない”という彼をずっと支えてきたプライドetc.様々な思いが込められた その声音と表情には、これまでずっと仮面の下にどこか道化を演じてきた彼が唯一、見せた人間らしい”色”がある気がします。 個人的にあの感動(笑)の伊勢谷医師が取った最後の行動、と並ぶもしくはそれ以上の見せ場だと思ってます(^^;;

組織の中における個人の立場の弱さ・辛さ・悲哀、良心の呵責と医師としての業。 彼らが取った行動は決して許されるものではありません。しかし……。 果たして彼らだけが責められるべきなのか。南医師の言動は様々なことを 私たちに問いかけてきます。

お世辞にも”いい人”とは言えないけれど、決して根っからの悪人ではない南医師。そんな微妙なキャラクターを絶妙のバランスでもって 演じたこの作品。人によってはかなり好き嫌いが分かれるかと思いますが、個人的には色んな面で役者としての醍醐味が堪能できて大好きです。

重たい内容ながら、繰り返し何度でも見たくなる、見る度に様々なことを考えさせてくれる、いつまでも色褪せない魅力を持ったドラマです。


主要キャスト
真崎 直滝沢秀明伊勢谷慶蔵大杉 漣
桐野セツ松雪泰子伊勢谷晃子伊藤 蘭
伊勢谷亜美 優香南 悦司京本政樹
真崎史郎尾藤イサオ北山志津子高橋ひとみ
真崎照子竹下景子池澤弁護士鶴見辰吾
真崎祐子佐藤仁美佐々木教授小木茂光

2000年4月13日〜6月22日

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