●● 心霊ドラマスペシャル・吸血幻想 (妻そして女シリーズ) ●●
月曜から金曜日の毎13時30分〜13時45分という放送枠、タイトルの妻そして女シリーズからもわかるように、いわゆる”奥様劇場”お昼の主婦向けドラマです。
しかし、昼ドラにありがちな、ドロドロ〜不倫、嫉妬、主人公を襲う悲劇のオンパレードといったモノとは一味違う、かと言ってホラー映画のように怖くて画面も見られない、
というものでもなく、毎日じわりじわりと小さな恐怖が少しずつ見る側の心に滲んでいく、『世にも奇妙な物語』に近い作風の物語です。
大阪は毎日放送制作のため、主役の京本さん、川島なお美さん、小山明子さんら豪華な顔ぶれに混じり、みやなおこさんなど関西ローカルならでは、な役者さんも登場、流石と思わせるいい味を見せてくれています。
序盤のとある回では、後に『新・部長刑事 アーバンポリス24』で見事な脇役ぶりを見せてくれる一平ちゃん、こと橋本潤さんが元気な若姿を披露してくれているので、一平ちゃんファンな方はチェックしてみてください。
他にもトランペットとファゴットを主体とした音楽が印象的で、特に吸血鬼に変身直後に流れるコミカルなメロディーは、シリアスな展開の中でもクスッと和ませてくれる貴重な存在です。
また、挿入歌「Blue Eyes Memories」を自ら手がけ、劇中流れるのもファンにとっては楽しみのひとつです。
当時京本さんご本人も、脚本が面白く毎回次の本を貰うのが楽しみだった、と語っておられたように、短いながらも少しずつ進んでいく展開の意外さに、次はどうなるんだろう?
と小さな恐怖心とワクワクした気持ちを駆り立てられる作品です。
大森信輔は、1年前結婚式の最中に突然式を取りやめ、恋人(塚本加成子)を置き去りにしてしまって以来、部屋に引き篭り本を読んだりチェスを嗜んだりする日々を送っていた。
幼い頃に父を亡くして以来、何くれとなく信輔の面倒を見てくれていた叔父(須永克彦)は、そんな彼を見かね自身が経営する会社で働くよう手配を整え、明日から出社するよう宣言した。
しかし、信輔はただ怠惰な日々を送っていたわけでなく、彼には重大な秘密があった。というのも、信輔の母・冬子(小山明子)は吸血鬼であり、その血を半分引く彼もまた
成長とともに本物の吸血鬼となりつつある自身の身体に不安を感じていたのだった。
気の進まないながらも会社勤めを始めた信輔だったが、かつて”数学の天才”と言われた頭脳を活かし、株取引で早くも才華を見せ、同僚達を驚かせる。そんな信輔に対し、女子社員の多くが思いを寄せ始め、その中の1人水島奈美子(みやなおこ)は
何かにつけ信輔にまとわりつき、猛アタックをしていた。
一方信輔は、同じ部署の杉山小夜子(川島なお美)に密かに好感を抱き、以前から彼女につきまとっていた後藤を彼女から遠ざけることで親しくなるチャンスを作ることに成功。
親友の奈美子同様密かに信輔に思いを寄せていたさよ子は、嬉しく思いながらも、常にどこか影がつきまとう彼に不安を感じていた。
そんなある夜、社内のボーリング大会の帰り、酔った勢いで迫る奈美子を送っていく羽目になった信輔は、折からの暴風雨により奈美子の部屋で吸血鬼に変身、彼女を襲ってしまう。
翌日、吸血鬼となった自身の姿に怯える奈美子の前に信輔が再び現れ、救いを求めてすがりつく奈美子に「耳鳴りがしないか?」と美しい笑顔で問いかける信輔。
夜ごと人の生き血を求めずにはいられない自身の存在を呪いながらも、小夜子に惹かれる信輔は、次第に吸血鬼として野望を遂行するべく生きる決意を固めていく。
そんな矢先、警部の羽田(河野実)が現れ、信輔は奈美子殺しの容疑者として連行されるが、同じマンションの住人により
アリバイが成立し、釈放されることとなる。
一方、信輔の幼馴染であり、かつては恋人だったこともある、今は大会社の社長となった秀今日子(桂木文)が、小夜子の元を訪ねてくる。
信輔との復縁を願う今日子は、信輔の過去について語り、”貴方には(彼の相手は)無理”と小夜子の不安を煽る。
その後も信輔を諦めきれない今日子は、奈美子の件をネタに今度は信輔との関係を迫り、観念した信輔が彼女の言いなりになると
見せ掛け、デート帰りに今日子を襲ったところを羽田に目撃されてしまう。
奈美子に続き、今日子、羽田と次々と自身の秘密を知った人物を消していく信輔だったが、それと同時に常に罪の意識に苛まれ、
亡霊たちの影に怯えるようになる。そんな彼に何も知らない小夜子はますます惹かれ、遂に信輔と一緒になることを決意した
小夜子は、冬子が住む別荘へと2人で出かけて行ったのだが・・・。
狼男、フランケンシュタインと並ぶヨーロッパ三大怪物のひとつにして、最も有名な吸血鬼。
トランシルヴァニア(現ルーマニア)地方を舞台に、処女の生き血を好む串刺公の異名を持つブラド・ドラキュラ伯爵
でお馴染みの、イギリスの作家ブラム・ストーカーが19世紀に発表した『吸血鬼ドラキュラ』が
きっかけとなり、現在に至るまで、数々の小説(漫画)、映画、ドラマ、舞台等で取り上げられ続けている世界で最も
ポピュラーなホラーヒーロー。
連ドラ初主演となった京本さんが演じたのが、このドラキュラでお馴染みの吸血鬼。
ごく一部の作品を除いて2枚目&明るく楽しい好青年路線を突っ走っていた当時、主役は主役でも吸血鬼!?
と驚きの声があがりましたが、そこは京本さん。期待を裏切らない見事な吸血鬼ぶりを見せてくれています。
白い肌に整った顔立ち、物静かで常に憂いに満ちた表情。思わず惹き込まれそうに美しい反面、その表情・仕草はどこか病的で近寄りがたい雰囲気に溢れ、
気安く触れると大やけどをしそうな、そんな危ない印象を与えます。
暴風雨の中、薄暗がりの部屋で苦悩し転げまわる様子から一転、美しくも恐ろしい笑みを浮かべた口元にキラリと光る白い乱杭歯。
昔読んだ吸血鬼をテーマにした小説の中に、牙さえも美しいという描写がありましたが、青白い光の中に
浮かび上がる変身シーンは、まさにそれを体現してくれたかのような美しさ。
また、滅多に笑わない信輔が、小夜子に対してだけは人間らしい感情(笑顔)を見せる表情の変化も見逃せません。
普段の醒めた、時に苦悩する表情からは想像もつかない、1人の恋する青年らしい仕草・表情の数々には、つい
いけないとわかっていても、彼の恋を応援したくなってしまいます。
揺れ動く信輔の心情に合わせ、随所でもがき苦しみ、また自らが手を下したモノ達の亡霊に怯える姿が
見られるのですが、後年の藤村、黒崎ほどの狂気、アクの強さはなく、普通に生まれていればただの物静かな青年
だったはずが、出自のために苦しまなければならなかった哀しさを感じさせます。
京本さん以外では、母冬子役の小山明子さんの落ち着き払った、貫禄溢れるしとやかさ、美しい所作の数々も
密かな見どころのひとつです。特に、ラストの棺おけの蓋が開いて起き上がったその時に見せる笑顔は必見。
あまりに自分勝手な理論の冬子と信輔の生き方は、その自身ではどうにもならない存在自体の不遇さに同情はしても、人間として彼らを受け入れることはできないけれど、
小夜子に対する想いの深さ、2人が互いを思う気持ちの強さに心を打たれます。
決してハッピーエンドではないですが、これでよかったのかも、と
思わせるラストが清々しくもある、ちょっぴり変わったホラー風味の純愛ストーリーです。
1990年7月30日〜8月10日(全10回)
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