● 高校教師(03)  ●

あの衝撃から10年。再び藤村知樹が帰ってきた!
京本さんの代表作のひとつである「高校教師」10年ぶりの復活です。
前作同様、日向女子高校を舞台に教師と生徒の禁断の愛を描きつつも、今回はそこに依存と共生というテーマを盛り込み、キャストも京本さん以外は 全て一新。単なる前作の続きではなく、新たな『高校教師』のドラマとして製作されました。


優秀なエリート技官だった湖賀 郁巳(藤木直人)は、日向女子高校へ赴任する前日、街のゲームセンターで1人の少女と出会う。 彼女の名前は町田 雛(上戸 彩)。「ただ、一緒に隣で眠ってほしい」と頼まれるまま、郁巳の部屋で朝まで過ごした雛は、翌日新しく数学教師として赴任してきた郁巳の姿に愕然となる。
驚く雛に素っ気無い態度の郁己だったが、やがて2人は、お互いどちらからともなく惹かれ合っていく。だが、郁己には誰にも言えない重大な秘密があった。
一方、雛の親友工藤紅子(ソニン)は、からまれていたところを助けられたのがきっかけで、ホストの悠次(成宮寛貴)と知り合う。しかし、彼は1年前にも同じ日向女子高校の 生徒を貢がせ、自殺に追い込んだ男だった。繁華街巡回中に、女生徒の担任であった手島絵美(真鍋かをり)に問い詰めらた途端、その場に土下座し涙すら見せる悠次。 予期せぬ態度に手島や体育教師の村松(大倉孝二)が呆気にとられる中、藤村だけはそんな彼の背中を冷ややかに見つめていた。


かつて、日本中の女性の反感を買ったと言っても過言でない、藤村知樹。その彼が10年の歳月を経て、再び視聴者の前に姿を現しました。10年前はアイドル的な 人気を誇った彼も、今ではすっかり大人の風格が漂い、学年主任兼生活指導の教師として生徒からは煙たがられ、同僚からも一目置かれる存在に。 ニヒルさと、彼にしか出来ない!と言える気障な仕草に一段と磨きがかかりつつも、ピンクや淡いグリーンのカーディガンが、相変わらずよく似合う姿が当時の面影を彷彿とさせます。

唯一10年前の出来事を知る、あの忌まわしい事件の当事者として、彼の口から10年前の2人のことが 語られるのでは? そして今回も再び何かしでかすのではないか、そんな期待と不安を一身に背負っての初回。
新任の古賀に向かって、すっと右手を差し出しシニカルに微笑みながら発した「学年主任の藤村です」
10年前の彼を知るものなら、思わず耳を疑うこの台詞。まさか、あの藤村が・・・ありえない!?
けれども彼が学年主任であることを裏付けるかのように、次々と教師として模範的な言動を見せる藤村。 「生徒に媚びる必要はない」かつて互いに嫌悪していたはずの新庄と同じ台詞を吐く一方で、 そんな自分を嘲笑い、諦めと怠惰とのうちに本当の自分を忘れてしまったと呟く姿にますます謎が深まり、彼の動向から 目が離せなくなっていきます。

さて、衣装や姿勢など京本さんの細かな役作りにも関わらず、見た目は殆ど変わっていないという声が 圧倒的多数を占めた10年後の藤村。しかし表情、特にふとした時に見せる醒めた笑顔、や何かを考え込んでいる時の 感情の見えない瞳、など細かな部分には月日の流れをしみじみ感じさせます。


視聴覚教室、手島先生との異様ともいえる濃厚なラブシーンなど、過去とつながるキーワード、行動などを巧みに織り交ぜながら、 けれども確かに違う印象を与え続ける藤村。特に、前作であれだけ責められなじられても『悪いのは僕を愛さない女たちじゃないかー!』 という名言を残した彼が、いとも容易く時には簡単にとも思えるくらい、何度も謝罪の言葉を口にする姿には、驚きとともに彼が変わったことを否応無く実感せずにはいられません。
明らかに彼は変わった。それを決定付けたのが第四話。
悠次の策略に嵌っていく紅子に「ロクな人生にならない」と投げかけたものの、「先生はいい人生?」 と切り返され、答えの代わりに僅かに視線を下げた表情に注目です。以前の彼なら間髪入れずに言い返していたはずが、間違いなく自分の人生を悔いていることを 示すあの表情。更に、この時視線を下げる前に一瞬、間が空く点も見逃せません。
そして、この時を境に少しずつ心の内に抱え・隠しもっている思いを古賀に話すようになります。

紅子が勤める風俗店に通いつめるうち、”鋼鉄の仮面”が徐々にひび割れていく様子を示すかのように、 頑なだった表情・声音が柔らかくなっていく藤村。このあたりの心情表現は、見ていて気持ちがいいくらい見事です。 紅子に思わず心がほっとするような優しい笑顔を見せる一方で、恋人になりつつある絵美には、仮面を被ったままどこか複雑な色を 浮かべ続ける。そんな彼の心を知ってか知らずか、藤村の前ではひたすら恋する乙女の笑顔を見せる絵美。 それぞれの表情の違いが何とも切なく、痛ましく思えることも。それでも、絵美の純粋な明るさは、全体的にとても重い このドラマの中にあって、しばしばほっと救われる気持ちにさせてくれます。


全篇すべてが見どころで、取り上げだすとキリがないのですが、最大の見どころはやはりココ。衝撃の10話終盤から最終話。
紅子に無償の愛を注ぐことで自らも救われようとし、また実際に救われかけたかに見えた矢先。遂に彼は自らを罰する行動に出ます。
「狼がきたぞ」そう言って悠次に迫る時に見せた笑顔の凄まじさ。恐らく、この10年で初めて彼が心の底から 嬉しい、と思った瞬間では? そう思わずにはいられない、はっとするほど綺麗で恐ろしい笑み。この後に続くこれぞ藤村!な鬼気迫る言動 と合わせて密かなお気に入りポイントです。

そして、遂に語られる彼がこの10年の間ずっと抱えていた思い・苦しみ。途切れ途切れになりながら、搾り出すように吐き出される 言葉のひとつひとつが胸に深く、フラッシュバックで蘇る彼の過去とともに、重くのしかかってきます。
『そして僕は高校教師になった』 
もしかしたら、2つの「高校教師」というドラマを通して脚本家・野島伸司氏が最も描きたかったのは それぞれの主役2人ではなく、この藤村知樹ではないのか? そんな気がしてなりません。

決して償うことのできない罪を背負い、心の奥底に常に潜む狂気に怯え戦うため、どれが本当の顔かを忘れるまでに鋼鉄の仮面を被り続けた藤村。
そんな彼の相反する2つの心情を象徴していたのが、藤村のテーマとして度々流れた「アルビニーニョのアダージョ」であり、 彼を最も象徴していたのがあの遺影だった。”一分の隙もない、完璧なまでに決めの入った笑顔”。あれこそが、仮面を被った彼がずっと演じ続けてきた藤村知樹そのもの、 そう思えるのは私だけでしょうか。
その遺影に向かって、彼の本当の姿を知って尚、仰げば尊しわが師の恩 と歌ってくれた2人の対照的な教え子。
決して救われるはずのない藤村が、最後の最後に救われた、そう思えて、そのことが嬉しくて、なのに彼は死んでしまった。その事実が哀しくて、でもこれでよかったと 思う気持ちがごちゃ混ぜになり、何度見ても涙が止まりません。

拙い言葉ではとても伝えきれないこの一連の名場面。どうか皆様それぞれの目と耳と心でじっくり味わってください。
衝撃の登場から10年という歳月を経て、自らの物語を完結させた藤村。その強烈さ故、ファンの衝撃はもちろん、演じられた京本さん本人にも 強力なイメージがつくことになりましたが、10年後の今作では見事にそれを覆してくれました。
10年前も今作も、ドラマを見ながら、これだけ色んなことを考えさせてくれた人物は、彼をおいて他にいません。 未だに見返すたびに新しい発見があることに驚くとともに、その奥の深さにはただただ脱帽です。
この作品に出会えた喜びに心のからの感謝を捧げつつ、いつかまた野島ワールドで大暴れする京本さんを見たい!と切に思います。
Forever TOMOKI FUJIMURA!


主要キャスト
湖賀郁巳藤木直人上谷悠次成宮寛貴
町田 雛上戸 彩江沢真美蒼井 優
藤村知樹京本政樹手島絵美真鍋かをり
工藤紅子ソニン村松 保大倉孝二
橘百合子真野あずさ

2003年1月10日〜3月21日

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