『ウルトラマン』『仮面ライダー』『○○レンジャー』シリーズetc.多くの人が子供の頃に一度は見たことがある特撮シリーズ。
しかし、『特撮は子供が見るモノ』という認識や趣向の変化に伴い、成長とともに再び多くの人がそういったヒーローものから去っていきます。そんな風潮を反映してか、かつてはゴールデンタイムで
お茶の間を席捲していた特撮シリーズも、随分前から週末の早朝がすっかり定番となり、子供と一緒に見るうちにイケメンヒーローにお母さんが夢中になってしまった!という
ケースも珍しくない昨今。
そんな早朝の子供向けではなく、大人の為の本格特撮モノを、と製作された牙狼−GARO−。ハイパー・ミッドナイト・アクションドラマと銘打たれたこの作品は、製作総指揮・キャラクターデザインを鬼才・雨宮慶太氏が担当。
魅力的な各キャラクターに加えメタリックな質感を全面に押し出した精密な造型や、最新のVFXを駆使した映画にもひけを取らない美しく迫力溢れる映像、深夜枠を活かした怪奇・際どい描写等が話題を呼び、特撮ファンはもちろん、日頃特撮を見ない層でも嵌る人が続出。
初回はテレビ東京系列での放映のため、視聴できる地域が限られていましたが、DVDの発売やその後CS等で放送される度、新たなファンを獲得し続けています。
尚、今回の解説は私自身がこの作品に入れ込み過ぎてしまい、京本さんの魅力というよりは、作品そのものについて無駄に熱く語っていますので(苦笑)その辺ご了承ください。
御付カオル(肘井美佳)は1人前の画家を目指して絵を描く傍ら、アルバイトに明け暮れる日々を送っていた。ある日、カオルは念願叶って画廊で個展を開くことに。夢への一歩に喜ぶ彼女だったが、最近繰り返し見るある夢に悩まされていた。それは幼い頃、画家であった父が描いた絵本に出てくる黄金の鎧を纏った騎士と怪奇な獣の夢。
彼女が懇意にしている心理カウンセラー・龍崎駈音(京本政樹)に相談するとそれは初めての個展への重圧から来るものだと言う。個展前日、はやる気持ちで画廊にやってきたカオルの前に真っ白なロングコートを着た1人の見知らぬ青年が現れ1枚の絵を買いたいと申し出る。
喜ぶカオルだったが画廊のオーナーは何故か青年に敵意を剥き出しに。実は、オーナーは欲望を利用して人に憑依する魔獣ホラーに憑依されており、白いコートの青年はホラーを狩る使命を帯びた魔戒騎士“牙狼<GARO>”の称号を持つ、冴島鋼牙(小西大樹)だった。
鋼牙の逃げろという忠告を無視したカオルの前でホラーvs牙狼の壮絶な戦いが繰り広げられ、カオルはホラーの返り血を浴びてしまう……。
1話完結で牙狼vs魔獣ホラーの戦いを描く、という至ってシンプルな基本をほぼ忠実に守りながら、各話のストーリーに工夫が凝らされ、鋼牙やカオル、彼らを取り巻く人々のことが少しずつ視聴者にわかるように
巧妙に組み立てられた展開にいつしか引き込まれていきます。
序盤(1〜5話)はまずは挨拶代わりといった感じで様々なホラーとの戦いを通じ、牙狼の強さカッコよさをとことん見せつけ、6話からはもう1人のヒーロー銀牙こと涼邑 零(藤田玲)が登場。
同じ魔戒騎士でありながら、あらゆる面で鋼牙とは対極をなす零が加わることにより、話の幅が広がることに加え、何かにつけて鋼牙を敵視する様子が今後の展開も含め、見るものの興味を掻きたてます。
そして10話で見事試練を乗り越え、黄金騎士となったところで序盤は終了。11話〜15話は途中総集編を挟みつつ、それまでヴェールに覆われていたそれぞれの過去が少しずつ明らかになっていきます。
ここまで来る頃には既に抜けられなくなってしまった人も相当多いのでは?(苦笑)。
そして終盤の16話から一気に物語が動き出すと同時に、それまでに膨らんで破裂しそうになっていた色んな疑問が少しずつ明らかになっていくとともに、鋼牙とカオルの関係も大きく変わっていきます。
そして、ラスト5話はもう次から次へと畳み掛けるような怒涛の勢いで、あっと驚く終幕まで一気に駆け抜けます。
全25話それぞれに見ごたえがあり、どれも素晴らしい出来ですがその中でも特に、とあげるならば21話『魔弾』。
前回の20話で苦闘の末カオルの浄化に成功。物語もひと段落がつき、次の最後の戦いまでのひととき。久々の1話完結形式に戻ったこの回では、第8話『指輪』でホラーに憑依されて
しまった娘の父親が登場。鋼牙にホラー化した娘を殺され、残されたものの悲しみから復讐へと向かう父を森本レオさんが味のある抑えた見事な演技で見せてくれています。
人間を守る『守りし者』としてホラーを狩る魔戒騎士ですが、狩られるホラーも魔獣に憑依されてしまった元は人間。残された家族の悲しみは深く、彼らからすれば鋼牙らもまた、魔戒騎士のの名を借りた殺人鬼に過ぎないのではないか?
哀しく切ないストーリーですが、ヒーローものが必ず抱える矛盾に真っ向から取り組み、何故鋼牙は戦うのか、何故彼は笑わないのか、そして剣と弾丸果たして勝つのはどちらか、ということを視聴者に明示した秀作です。
さて、牙狼の魅力は何と言ってもアクションシーンのカッコよさ。生身の動きとCGを巧みに織り交ぜ、いかにカッコよく迫力のある動きを見せられるか、
ということを追求し尽した感のあるカメラワークの秀逸さは絶品。
動きそのものの激しさ、カッコよさだけでなく、ロングコートが描く軌跡の美しさにも徹底した拘りが感じられ思わず見惚れてしまうほど。特に、7話『銀牙』での初めての鋼牙vs零の戦いの折、階段の上から2人同時に飛び降りるシーンでの黒白のコートの裾が翻る様子はもう無条件に
カッコイイ!!と唸ってしまいます。
回を追うごとに成長していく主役2人のアクションはもちろん、個人的にお薦めはコダマ役のマーク武蔵さん。
銀牙のスーツアクター(いわゆる中の人)も努められているだけあって、ひとつひとつの動きがとにかく綺麗で無駄がなく、流れるように淀みのない一連の動きに
は感嘆の声をあげずにはいられません。手足の先々まで神経が行き届いた仕草、どんな時でも乱れない着地や受身など全てにおいて恐ろしいまでの身体能力の高さを見せつけてくれます。
もう1人出番は少ないですが邪美役の佐藤康恵さんの身体の柔らかさを活かしたアクションも見事です。18話『界符』でのvsコダマ、vs鋼牙との戦いでは、
邪美が持つ魔道士の旗の赤い色が描く鮮やかな軌跡が、動きの美しさ・激しさに華やかな彩を加えとても見ごたえがあります。
また、ハリウッド顔負けの洗練された映像が美しいオープニングや、全て二文字の漢字で統一された各話のタイトル、毎回登場する凝りに凝った小物や衣装等、細部にいたるまで
徹底したこだわりが窺えます。
そして、アクションと並ぶもうひとつの魅力は鋼牙を始めとする各キャラクター。
『大人の為の特撮』と銘打っていることからもわかるように、この作品の主人公は単なるヒーロー=正義の味方ではなく、また、最初は半人前だった主人公が戦いを通じ真のヒーローとなっていくような明るく健康的な成長物語でもありません。
黄金騎士である鋼牙は、昨今の特撮ヒーローの必須条件ともいえるイケメンぶりは文句のつけようがなく、魔戒騎士としての能力は秀でていますが、普段は凡そ人間らしい感情がない無愛想を絵に描いたような男で自らホラーを狩ること以外は興味がない、と断言するほど。しかし、そんな鋼牙が
カオルと出会うことにより、自身でも気づかぬまま徐々に変わっていき、また、表の無愛想な顔とは裏腹に内では不器用ながら非常に熱い思いを秘めている、ということが明らかになっていく過程を見ていくうち、とてつもなく愛おしくなってきます。11話『遊戯』のラストで初めてくすり、と笑いを漏らしたシーンはカオルならずとも、「あの鋼牙が
笑った!」と大きな感動を覚えます。
そして最終回、新たな任地に赴く鋼牙にこれまたイタリアへと旅立つカオルが渡した一冊の絵本。その最終ページを見た鋼牙が見せたモノ。
物語最大の鍵となる絵本のラストに何が描いてあったのか?、は最後まで見る側に明かされることはありませんが、ずっと物語を見てきた1人1人に何が描かれていたのか伝わってきます。
恐らく作った側はこれが一番撮りたかったのでは?というくらい見事なシーンです。
DVD最終巻でこのシーンに関する逸話が語られているのですが、個人的に涙なくしては読めません(苦笑)。
ヒロインのカオルも鋼牙に負けず劣らず魅力的。最初は明るく元気な女の子、といった印象が強く、物語のカラーからどうしても暗く怖くなりがちなこの作品に華やかな灯りをともしてくれる貴重な存在です。
何故いつもホラーに襲われるかわからず、憎まれ口を叩きながらも「守ってくれるよね」と鋼牙にすがっていただけの彼女が、様々な試練を乗り越えて成長し、いつしか守られし者から逆に鋼牙を守る存在へと文字通り強くなっていく
姿は清々しく、見るものに大きな感動を与えてくれます。カオルが成長するにつれ、演じる肘井さんの表情がどんどん魅力的になっていくのにも驚かされます。
もう1人忘れてならないのが、途中出場ながら強烈なインパクトと密かに美味しいとこどりで多くのファンを獲得したもう1人のヒーロー、銀牙こと零。
最初はどこのナンパ師だ?と思うような軽さと、胸焼けするくらいの甘党ぶりで見るものを呆れさせてくれた彼ですが、見かけの軽さとは裏腹にとても複雑な人間であることが
次第に明らかになっていきます。鋼牙同様、愛するものを目の前で失った悲しみを抱えながら、鋼牙には倉橋ゴンザ(螢雪次朗)という幼少の頃から彼の傍に仕え、時に守り
常に誰よりも深い愛情でもって、影に日向に彼を支え続ける存在がいるのに対し、零は正真正銘の天涯孤独。普段は軽口ばかり叩いている彼が、15話『偶像』のラストで漏らした
「俺の名前は零だけど、ゼロだけど……ちゃんとここにいるから」という呟きには、胸を塞がれる思いになります。
その他にも人間以上に人間らしい魔道士ザルバ&シルヴァ。そんな彼らに家族以上の絆を感じている鋼牙と零。それぞれの組み合わせ同士や魔道士同士のやりとりが楽しく、なくてはならない存在です。
個人的にザルバとの別れと再会のシーンは、零のさりげないアピールも含めて忘れられない名シーンのひとつです。
と、すっかり前置きが長くなりましたが。雨宮氏との深い交友関係から、特別友情出演の肩書きで出演された京本さんが演じたのはカオルを常に見守る謎のカウンセラー龍崎駈音(りゅうざきかるね)。
印象的な名前の多いこの作品にあって一際印象的で不思議な響きの名をもつ彼は、数々のベストセラーを出版しテレビにも出演する著名人。カオルをデータ収集の名目でアルバイトとして雇う傍ら、
彼女の心理カウンセラーとして様々な相談に乗り、カオルからも絶大な信頼を得ています。常にカオルを優しく指南する柔和な笑顔は美しく、登場回数は少ないながら何とも言えない神秘的な雰囲気が漂います。
一体彼は何者なのか?魔戒に関することなら知らないことはない、
と思われるザルバにさえその存在は知られておらず、13話の各人物紹介で「
コイツは初めて見る顔だな」と言われるほど。
最初からあの京本さんが演じているのだから只者ではないはず、という期待の目で見てしまうのですが、明るいクリニック室内で優雅に紅茶を入れる手つきや、思わず見惚れてしまうような美貌には一点の曇りもなく。抜けるような青空が
やけに似合う爽やかさ。
しかし、このまま優しいカウンセラーで終わってしまうのか、
と少々残念に思った19話。去って行ったカオルにかけた電話がつながらない、と知った時に見せる表情の変化は必見。ついに来たーーー!と小躍りしたくなるくらい徐々に確かに増していく凄みは流石です。
ここからはもう本領発揮。それまでの仮面をかなぐり捨て、遂に冴島邸を訪ねてくるシーンでは、背中からもう悪のオーラがびんびんに漂い、冷え冷えするくらいの悪ぶりを見せ付けてくれます。
前半の慈愛に満ち溢れた笑顔も素敵ですが、個人的にお薦めは23話『心滅』。
鋼牙、零をあっさり倒し2人を見下ろす駆音(あえて本当の名前は伏せておきます)は、「何故とどめを(刺さないのですか)」と問われ、
「最強の力を手にいいれた後の楽しみに取っておくんだよ」と言い放つシーン。
その憎憎しいまでに冷たい声音、一瞬見せる勝ち誇った表情、これぞ京本政樹という
凄さを見せつけてくれます。もちろん、その直前の力強さに溢れながらも京本さんらしい美しい所作が味わえる立ち回りも見逃せません。が、贅沢を言えばこのシーン、駆音が強すぎて
一瞬で終わってしまうのが残念でなりません。設定上、仕方がないこととはいえ、せめて最終回では鎧を召還する前の姿で鋼牙と死闘を演じるシーンを見たかった!
もし、魔戒の契約を結んでいる雨宮監督作品に再び出演する際には、是非とも監督曰く”まだまだ動けることがわかった”京本さんが画面狭しと暴れまわる姿が見られることを願ってます。
物語の上でも非常に重要な役を担ってくれた京本さんですが、この作品ではエンディングテーマも担当。今までにない詩と曲でGAROの世界を見事に表現してくれています。
オープニングはディープ・パープルかエアエロスミスばりのごつごつしたギターサウンドがとにかくカッコよく、後半からの歌詞つきも含めて牙狼の強さを表現したテーマになっているのに対し、
エンディングは鋼牙の内面を切なく歌い上げるという対比が心憎いばかり。また、終盤ではドラマから発生したGAROプロジェクトのメンバーが歌うという嬉しい演出でも楽しませてくれています。
最後に、私はこれまで特撮について熱く語る京本さんは好きだけれども、特撮ドラマそのものには興味がなく。この作品に出演を知った時も当地ではOAされないのも手伝い、大顰蹙覚悟で言ってしまえばあまり嬉しさを
感じていませんでした。しかし、視聴可能地域の方のご好意とDVDのおかげで本放送より遅れて鑑賞してみたら……。あまりの面白さ、見たこともないくらい凄い映像、演じる役者さん達の素晴らしさにただただ圧倒され、気がつけば
ありえないくらい嵌ってしまいました(^^ゞ
最終回のラスト、エンディングロールで”ガロを作った人たち”とまるで大作映画のように製作に携わった方々の名前が次々と流れるのを見た瞬間、言いようのない熱い思いが込み上げてくるのをどうしても
止められませんでした。この作品に出会えたこと、この作品に京本さんが携わってくれたことを本当に嬉しく思います。
主要キャスト |
冴島鋼牙 | 小西大樹 | | 御月カオル | 肘井美佳 |
倉橋ゴンザ | 蛍雪次朗 | | 涼邑 零 | 藤田 玲 |
冴島大河 | 渡辺裕之 | | コダマ | マーク武蔵 |
邪美 | 佐藤泰恵 | | ガルム | 吉野公佳 |
ザルバ(声) | 景山ヒロノブ | | 龍崎駈音 | 京本政樹 |