●●　愛と友情のブギウギ 　●●

2002年の開始以来、密かに根強い人気を誇るＮＨＫの”よるドラ”４年目となる2005年度最初の作品。
主婦に元気を！をモチーフに、社宅に住むうだつのあがらない亭主を持つダメ主婦５人組が、ひょんなことから始めたアカペラグループを通じ、それぞれの家族をも巻き込んで成長していく姿を、時に感動を交えながらユーモアたっぷりに描いた、家族みんなで楽しめるドラマです。


いつも明るく元気だけれど暴走しがちな紅谷あかり（片平なぎさ）は、夫・至（石黒賢）と２人の子供とともにオーゾラタイヤの小さな社宅で暮らす平凡な主婦。至は、かつて営業企画に携わっていたが、今は苦情処理課に追いやられたいわゆる窓際族。いつか企画に復帰することを願いつつも、同僚の経理課勤務・水野光彦（羽場裕一）、総務課・大月拓郎（柳沢慎吾）、同じ苦情処理係の問題児・桜井武男（京本政樹）、経理課・野々草正宗（小林隆）とともに 中庭の５バカと呼ばれる日陰の存在に甘んじていた。
そんな彼らの妻である、あかり、水野葵（麻生祐未）、大月黄菜子（河合美智子）、桜井桃江（広岡由里子）、野々草ミドリ（岩崎ひろみ）も夫同様、社宅で黒岩部長夫人（五大路子）にいびられる毎日。
ある日、彼らにとっての天敵・黒岩部長（田中要次）の部長昇進祝いが社宅で開かれ、あかり達ダメ主婦５人組は余興で「買い物ブギ」を歌うことに。しかし、これが図らずも絶妙なＮＧワードの連発となり、主賓である部長の不興を買い会が中止になってしまう。
夫の首さえ危うい事態に、元気印のあかりですらも落ち込んだ矢先、今度はオーゾラタイヤ会長（淡島千景）の退院祝パーティーが開かれることを聞いたあかりは、渋る４人を強引に引きずり込みアカペラグループを結成。名誉挽回に燃え、練習を開始したが……。


主役の片平なぎささんを筆頭に、そのまま２時間ドラマの大作が作れそうなほど豪華な顔ぶれが揃ったこの作品は、それぞれの個性だけでなく、凝りに凝った脚本・演出が視聴者を大いに惹き付けました。
まず、５家族の名前が示すように、それぞれを赤・青・黄・桃・緑に色分け。性格設定はもちろん、彼女たちの小道具であるバイクから各家庭の家具に至るまですべて色分し、このインテリアが回を追うごとにさりげなくますます赤だらけ、青だらけになっているという徹底ぶり。殆ど○○戦隊レンジャーのようなノリが楽しいです。
また、各家族の特徴がこれでもか、というくらい色濃く際立たされ、しかもどれもが「あ、こういう人いるいる！」と思わせずにはいられない設定に、つい自分や身近な人物を重ね合わせずにはいられません。
そして、極めつけは劇中何度も流されたブギウギ５が歌うアカペラ・コーラス。特訓を重ねたその歌声の力強さと、どこか素人臭さ初々しさが残るハーモニーは、聴く人の心を捉え「私も歌ってみたい」と思わせるに充分です。


さて、ほぼ１年ぶりのよるドラ出演となった京本さん。前回の神様役から一転、今回は冴えない普通のサラリーマン役での出演となりました。放送前は、日頃圧倒的にエリート役が多い京本さんが、一体どんな普通のしかもダメ平社員を！？との興味を掻き立てられましたが、蓋を開けてみてビックリ仰天。想像を遥かに超えた楽しさで、６週間ひたすら飽きることなく楽しませてくれました。


いつも不機嫌で口にする言葉は「手羽先」だの「イカ飯が食いたい」「謝る？何だそれ」etc.殆ど単語に毛が生えた程度のぶっきらぼうな武男さん。常にムスッとした投げやりな態度で、何かというと殴ろうとしては仲間の４人に抑えられている姿は、とても大人とは思えない大きな綺麗過ぎる駄々っ子です。
一見能面なようなに見える武男さんですが、口数は少なくとも視線と瞬きでとてつもなく雄弁に機嫌を物語る、ひとつとして同じものがない表情の豊富さに目を奪われます。
特にやや下唇を突き出してムッとしている表情は絶品。わがままな甘えん坊そのものです。また、当初は不機嫌大王だったはずの彼が、ドラマが進み仲間とともに人として成長（？）していくにつれ、柔らかな表情を浮かべるようになり、最後には眩しすぎる笑顔を見せてくれる過程は痛快さと感慨がいっぱいです。
次から次へと突飛な言動で問題を起こし、気がつけば彼を中心に物語がどんどん進んでいく様は、殆ど影の主役かと思わせるほどです。

更に表情だけでなく、さりげなく常におや？と思わせる動きや細かな仕草にも注目です。他人に無関心なようでいて、実は皆が話している間にキョロキョロと目線だけで様子を伺っていたり、さりげなくこめかみを押さえてみたり、皆が慌ててる中１人だけ平然と腕組みしているかと思えば、桃江さんの家出で毎日メロンパンを食べる羽目に陥った時に 袋ごと齧ってみたり、と次は何をやってくれるんだろう、と思うと片時も目が離せません。
これだけでも相当楽しいのに、中盤以降は「こ、ここはホントにＮＨＫですかっ」と突っ込みたくなるような、ファンにとってはニヤリとさせられてしまうシーンの数々も外せない名場面のひとつです。
加えて気心の知れた共演者との絶妙のコンビネーション等、とにかく見どころを挙げだすとキリがありません。
ひたすらワガママで協調性がない武男さん、しかしそんな彼が実は誰も叶わないくらいの愛妻家であり、また密かに仲間想いの心の優しい人である、ということも大きな魅力でした。

ほのぼのとした調子で進んでいく展開とスパイスの効いたアドリブ炸裂な台詞の応酬に、思いっきり笑い、時にハラハラ、最後はうるうるグッと来てしまう、 見るものを元気にさせてくれる作品です。
またひとつ新たな京本さんの一面をたっぷりと覗かせてもらった、元気印なブギウギ。『ちょっと待って神様』同様DVD化を切望するとともに、また”よるドラ”で大暴れしてくれる日を楽しみにしたいと思います。

主要キャスト
紅谷あかり	片平なぎさ		紅谷　至	石黒　賢
水野　葵	麻生祐未		水野光彦	羽場裕一
大月黄菜子	河合美智子		大月拓郎	柳沢慎吾
桜井桃江	広岡由里子		桜井武男	京本政樹
野々草ミドリ	岩崎ひろみ		野々草正夫	小林　隆
紅谷墨子	白川由美		大空宇多江	淡島千影
黒岩一馬	田中要次		黒岩美佐子	五大路子