● 公園通りで会いましょう  ●

NHKが2000年に迎えた放送開始75周年事業の一環として、NHK放送センターの駐車場の一角を改造し、1999年12月31日にオープンしたテント式の特設オープンスタジオ”みんなの広場”。
その広場を利用した公開番組『公園通りで会いましょう』。毎週1名をウィークリーゲストとして据え、そのゲストに馴染みがあったり、ゲストが会いたい人物を日替わりで招きトークやライブセッションなどを行い、ウィークリー・日替わりゲストの 時に隠れた魅力をお茶の間に紹介。平日の昼間という時間帯にも 関わらず、他では見られない独自の濃い内容から人気を集め、2000年4月〜2004年3月に会場であったみんなの広場が恒常施設”みんなの広場ふれあいホール”に移行するまで続きました。

京本さんは2002年11月11日から一週間ウィークリーゲストとして出演。
普段のバラエティー番組では、番組の性格上や他出演者との兼ね合いもあり、なかなかじっくり話を聞ける機会が ありませんが、この一週間は多方面からゲストを招き、多彩な趣味を持つ京本さんならでは、な濃く・深〜い話・パフォーマンスが 連日展開されました。

月曜日
ライトブラウンのジャケットに黒のパンツ、ジャケットの下はダークブラウンと白のストライブのシャツ、首元から黒いスカーフを覗かせた秋らしいスタイル。
冒頭、「旅路」の歌詞を朗読する姿が素敵です。司会の小田切アナが「人生の深いところを切り取ったよう」と表現されたように、改めて歌詞だけを聞くとその深さにしみじみと 己の人生を振り返ってしまいます。
初日のゲストは、京本さんと言えばこの方、というくらい公私に渡り深く長〜いお付き合いの森田健作さん。
のっけから青春ドラマに欠かせない、海に向かってバカヤロー!と怒鳴るシーンを小田切アナ、京本さん、森田さんの順で披露。意外と上手な小田切アナに「コントでよくある感じ」と すかさず突っ込みを入れる京本さん。なるほどそうかも・・と周囲を納得させた上で迫力満点の怒鳴り声を披露し、大きな拍手を浴びていました。やっぱり役者は違うなーと感心しましたが、その道のプロはもっと凄かった。 石を投げる仕草を加え、遠くを見つめて「バカヤロー!」と叫んだポーズの決まりっぷりとその声の響きの良さには、参りましたーと言いたくなるほど。自信満々だった(?)京本さんがしきりに「石を投げるのを入れないとダメだったんだ」、と悔しそうにしている姿が愛らしく笑えます。
すっかり場が和んだ後は、森田さんの子供時代の話や2人の様々なエピソードを交えたマシンガントークの嵐。森田さんの持論「出すぎた杭は打たれない」「ホトトギス、私が鳴きましょうホーホケキョ」を始め、とにかく前向きな話を沢山聞くうち、いつの間にかこちらも 色んなことを頑張ってみようかな、という気にさせられます。ラストの「努力は決して嘘をつかない」。酸いも甘いも体験された森田さんの実体験を交えた話に、本当にそうだなと深く頷いてしまいました。

火曜日
2日目は茶色のレザーコートに黒いパンツ、首元にはグレーのマフラーで登場。
この日は京本さんが是非ともお会いしたかった俳優の米倉斉加年(よねくらまさかね)さん。
絵本作家としての顔も持つ米倉さん。まずはステージ上に展示された2人の作品を見ながら、それぞれの作品について語るのですが、これがとにかく濃いのです。 特に「絵を見るとその筆遣いひとつひとつに作者がそれを描いた時間・空間を共有できる」という京本さんの言葉には、そういう見方・共鳴の仕方もあるのか、とひたすら感動。 また学生時代、書店でたまたま見かけた米倉さんの「タケル」という絵本に惹かれ、模写したというエピソードも披露。
前日の気心の知れた間柄ならではのハイテンションではなく、この日は米倉さんの人柄も手伝ってか全体的に温かくて終始和やかな雰囲気で進行。普段はなかなか聞けない、クリエイターとしての 様々な考えを語ってくれた貴重な1日です。絵の世界から時代劇での鬘や所作、着物の話などにも発展。歌舞伎や時代劇を例に古いものの良さを活かしつつ新しいものを作ることの大切さを語る姿が、普段の京本さんの活動と重なります。 そんな京本さんに自身の戦時中での体験を交え共感し、中盤、米倉さんが「京本さんは自分の身体をキャンバスにして分化せずにやっているところが素敵で面白く、現代的でとっても好き」とおっしゃってくださったのがとても嬉しいです。
最後は米倉さんの作品「大人になれなかった弟たちに…」をお2人で朗読。これは、米倉さんの実体験を綴った絵本なのですが、今では想像するすら難しい戦争の悲惨さを弟の死を通して伝えてくれる作品として、中学国語の教科書にも採用されています。
朗読は初めての京本さん、緊張すると言いながらも米倉さんと交互に見事な朗読を披露してくれました。飾り気のない静かな語り口がとても聞きやすく、戦争の悲惨さ、大切な人を失う悲しみがダイレクトに伝わりいたたまれない気持ちになりました。
特に「弟は死にました。病名はありません。栄養失調です……。」 静かにこう語られた時、その声音と語られた内容の重さに、思わずテレビの前で涙が零れました。

水曜日
3日目はそれまでとは打って変わり、客席に小田切アナと並んで座っての登場。ワインレッドのレザーコートに今日は白いマフラーが映えます。
この日のテーマは音楽。京本さんはシンガーソングライターでもある、という話を軽くされ、そんな京本さんがとても惚れているグループ、BEGINに提供した曲『優しい言葉』の生演奏で幕開けです。
後年、京本さん自身もシングルでセルフカバーされていますが、元はBEGINの為にと書いただけあって、ボサノバタッチの優しいフレーズが比嘉さんのやや枯れた泣きの入った声質にとてもよく合い、伸びのある滑らかなビブラートが とても心地よくうっとりしてしまいます。
そんな彼らのステージを見つめる京本さんの、いつになく神妙な表情がちょっぴり可愛らしい。
『高校教師』放映当時、真田広之さんとカラオケに行った際、真田さんがBEGINを連れて来たのがきっかけで意気投合。京本さんがシンガーソングライターであることを知る真田さんより曲を書いてもらえば?との軽い薦めで、 「書きましょう」「お願いします」となったものの、ホントに書いてくれるのか半信半疑だった彼らの予想を裏切り、何と一週間後に『優しい言葉』をプレゼントされ驚いたエピソードを披露。京本さんはどんな曲でも書ける、という 話から実は必殺!の音楽を作っていたことなども披露。
その後はホスト役2人はじっくり椅子に座り、BEGINのミニコンサートを堪能することに。合間合間にトークを挟み『島唄』『島人ぬ宝』、田端義夫さんの『旅の終わりに聞く歌は』の3曲を披露。それまでBEGINの名前とヒット曲の さわりは知っていても、じっくり聴く機会がなかったのですが、こんなにも心地の良い音楽があったのか、と思うほどどの曲もすーっと耳に馴染んでいきます。
続いては森山良子さんとの合作で大ヒットした『涙そうそう』。初めてラジオから流れるこの曲を耳にした時に感動した、という京本さん。一緒にと誘われ満面の笑みで小走りに加わり、7年ぶりにBEGINとの共演です。
単純に比較してしまえば、抜群の歌唱力を誇る比嘉さんには適いませんが、京本さんらしい味のある歌いっぷり、そして何より本当に楽しそうに気持ちよさそうに歌う姿に惚れ惚れしてしまいます。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、ラストは京本さんが無理矢理(笑)BEGINに提供した『I MISS YOU』。右足を上に組み、少し斜に構えて座り、右手で軽くリズムを取りながら一緒に歌う京本さん。「久しぶりだねぇ」と言いながら、この日のを一番 楽しんでいたのは他でもない京本さんご自身では?と思わせるくらい、ゆったりと楽しそうな表情です。後半は2人によるハモリも披露。セルフカバーされたアルバムバージョンとは違う、♪いきなりの涙 の部分の下メロがとてもお洒落。最後は渋い「I MISS YOU」の台詞つき。 身も心もすっかり癒された、とても贅沢なひとときでした。

木曜日
4日目はダークグレーのジャケットにライトグレーの細かなチェック柄のシャツで登場。この日のテーマは特撮。ゲストは映画監督の石井てるよし氏。
ゲストの登場の前に、なんと京本さんが出演された「ウルトラマンティガ」48話『月からの逃亡者』の1シーンが流れ、これには京本さんも「NHKで流すんですか?」と 驚きの突っ込みを笑顔で。
連日マシンガントーク炸裂の中でも、特に熱く語ったこの日。まずはウルトラマンとの出会いから、俳優になった後、時代劇の現場でかつてウルトラマンシリーズで活躍した 役者さん達に出会い、当時の話を聞くうちにいつしか嵌ってしまった、というお馴染みのエピソードを披露。
『ウルトラマンティガ』出演に際し、現場では誰よりも詳しく、思い入れもポリシーもある京本さんがやって来る、ということでヒーロー像はお任せにしよう、ということしたところ、 ギャラはいいから衣装をブルーの特注(このシリーズのウルトラ隊員は白です)にして欲しいと頼んだことや、とにかく見てのとおり普段からカッコイイため、どう撮っても主役のウルトラ隊員よりカッコよくなってしまうのを防ぐ苦肉の策として、常にカメラを退いた状態で 撮ったetc.驚きの裏話が明かされました。また、何もないところでそれこそ子供が怪獣ごっこをするように、光線の出ない銃を撃つ、など特撮現場ならではの演技上の京本さん曰く”楽しい苦労”話が次々と明かされ、そのあまりに地味〜な様子を想像するだけで楽しくなってきます。
その後は、いかにして自分が凄いと思うものを作るか、という特撮にかける思いを身振り手振りを交え、わかりやすく語るお2人。見たことのないリアルを見せたい、という石井監督の言葉がとても印象的でした。
とにかく熱い、深い話の数々にひたすら感心するばかりですが、その中でも圧巻は、人間の一番重要な部分以外を全て取り払ってできたのがウルトラマンのデザインである、という話です。他にも造形という視点から見たウルトラマンの顔についての考察等、ここではとても書ききれない くらい目からウロコな話が盛りだくさんな内容に、小田切アナならずとも目を白黒させて感心しきりでした。 この日を境に私自身の特撮に対する見方がガラリと変わったくらい、特撮って凄い、奥が深い、面白い!と思わせてくれた45分です。

金曜日
いよいよ最終日。最後はもうこれしかない、一週間全部コレでもOK!なくらい待ち焦がれた時代劇です。
冒頭、いきなり薄暗い会場に響き渡る物悲しい尺八の音。赤い番傘で姿を隠した男がぱっと傘を放り投げると同時に数人の男たちが斬りかかり、立ち回りを披露。 その年の春に上演された『イシマツ 踊る東海道』の紫バージョンのいでたちでの登場です。ご本人曰く「本職」スタイルのあまりのカッコよさに、親分役で登場した小田切アナが啖呵を切る際、思わず「てめぇウチの者を可愛がって……(中略)ホント、カッコいいなちくしょう」 と口走ってしまったほど。その小田切アナ、斬られた拍子に転んで着物が肌蹴てしまい、横で直してもらったため「僕が間を持たさないといけないじゃないですか」と苦笑いしながらも、気合の入った表情で「公園通りで会いましょう」と時代劇口調での幕開けに場内が沸きました。
さて、この日のゲストは銭形平次の万七親分などで知られる名優・遠藤太津朗さん。
敬愛の意味を込め、京本さんが「オッサン」と呼ぶほど若い頃からずっと京本さんを可愛がり、何くれとなく面倒を見てくださった遠藤さんならでは、の知られざるエピソードが続々と明かされます。 故・大川橋蔵さんとの思い出や、駆け出し時代の生意気な武勇伝など、ファンにはたまらない話がてんこ盛り。長いお付き合いだけあって、お互い話のネタには尽きずどちらかが何かの話題を始めると、すかさずもう一方が「そんなこともあったなぁ。そうそう、あの時…」といった調子で話に花が咲く中、突然小田切アナの着物が左前であることに気づいた京本さんが、「それ、左前です」と指摘する一幕も。
京本さんのお宝である、駆け出し時代に遠藤さんからプレゼントされた”署名入りの木刀”のエピソードはもちろん、ふとした時に見せる、さりげない遠藤さんへの気遣いと遠藤さんが京本さんに注ぐ眼差しの優しさ温かさにとても感動しました。 そんな遠藤さんが「若いころからほんと努力家。あれには気ぃようしたね」とはんなりとした口調でしみじみと語る姿は、まるで我が子の成長を喜ぶ親のようで、そこに言い知れぬ深い愛情が窺われ何度見てもホロリときてしまいます。
厳しい遠藤さんにそこまで言わせる京本さんの努力家ぶりがファンとして嬉しく、頭の下がる思いです。
また、さりげなくすっと差し出す手つきや、椅子に腰掛けた背筋がすっきり伸びた姿勢の美しさ等、細かな所作が時代劇モードになっているのは流石。お手本にしたいくらい綺麗な座姿に、思わず見ている方も背筋を伸ばしてみたり(笑)。
長年名脇役として、数え切れない役を演じてこられた遠藤さんが 語る、脇役としての信念や役を演じる上で欠かせないこと、などどれを取っても実のありすぎる内容で、何度見ても「いい話だなぁ」と感じ入るくらい大好きなお薦めの回です。
最近はなかなかお2人での共演が見られないのが残念ですが、遠藤さんがお元気なうちにもう一度時代劇で共演する姿を見たいと切に思います。

2002年11月11日〜11月15日

Copyright (c) 2007 shion All rights reserved.