●● 修羅之介斬魔剣〜妖魔伝説〜 ●●
待望の!という言葉がまさにピタリな京本さん初の主演時代劇。
江戸初期、南倉藩が戦国の世より所有する”銀竜剣”を巡り、キリスト教解禁のため江戸幕府転覆を目論む伊達政宗(中村敦夫)と北条氏再興を目指す出雲の阿国(戸川京子)一座、との間で三つ巴の争いが勃発。南倉藩・真夕姫(今村理恵)を偶然助けたことによりその争いに巻き込まれた比類なき剣技を持つ美貌の剣士・榊修羅之介(京本政樹)。
秘剣を巡る争いに、それぞれが抱える業と欲望が複雑に絡み合い、もつれ合いながら展開するストーリーにハイテクSFXを駆使した”ノンストップ・チャンバラムービー”。
この作品の見どころはやはり、何と言っても京本さんの華麗な殺陣!これに尽きます。冒頭から最後まで、これでもか!というくらい次々と色んな手・立ち回りをたっぷり堪能できます。
持ち前の刀捌きの鋭さ正確さに加えて、その動きのしなやかさ・隙のなさは、流石!と唸ってしまいます。派手な斬り返しは言わずがもな、細かな動きのひとつひとつまで、無駄がなく、要所要所での見せ場を心得た決め、などあげだしたらきりがありません。どの立ち回りもそれぞれに見どころがありお薦めですが、特にクライマックスでの拳法技相手に立ち回るシーンは圧巻です。
また、同じ邪剣士(高野拳磁)との対決では、かつての自分の得物で窮地に陥る、というシーンも。「必殺」以来、まさに気心の知れたスタッフと京本さん、ならではの遊び心に思わずニヤリとさせられます。
京本さん曰く「平成の居眠狂四郎」という言葉がまさにピタリと嵌る修羅之介は、優しい笑顔から何気ないちょっとした仕草まで、妖しいまでの美しさと今にも匂いたちそうな色気がたっぷり。
総髪を後ろで緩く束ね、紫地に白の死鎌紋(しかまもん)が散りばめられた着流し姿は、常にどこか気だるさが漂い、やや抑えた感じの口調とニヒルな笑みが”大人の男”を感じさせます。
あの京都松竹映画のスタッフが結集しただけあり、光と影の効果的な演出による映像の美しさも隠れた魅力のひとつです。中盤の濡れ場や阿国一派とのシーンでは、この光と影のコントラストをたっぷり使い、仕草はもちろん身体の角度から物憂げな表情、白い足の見せ方(笑)まで、見事に計算され尽した京本さんのぞくぞくする美しさを堪能できます。
京本さんをモデルに描いたという鳴海 丈氏の同名小説を映画化したこの作品。スタッフや共演者にも京本さんと縁の深い方々が名を連ねる中、冒頭に登場する当時のアマチュア相撲世界チャンピオン、エマニュエル・ヤーブロー氏にも注目したいところ。205cm・280キロと小錦氏も真っ青な巨漢を活かして暴れまくる様と、その巨漢を真っ二つにしてしまう修羅之介の剣技は、これから始まる物語への期待をいやが上にも感じさせてくれます。
色んな意味で、京本さんの魅力がたっぷりつまりまくった修羅之介、そろそろ続編をまた見たいものです。その時にはあの惚れ惚れする殺陣とともに、今回あまり描かれなかった、冒頭や中盤で登場する回想シーンでの事件について、じっくり解き明かしてほしいものです。
最後に、ラストに流れる冴木涼介氏が歌う「まるで悲しみが…」も映画ともども聞き逃せないポイントです。サビから始まる印象的なメロディーが美しいこの曲では、低音から高音まで氏の柔らかな声質を堪能できます。特にBメロではファルセットに変わるギリギリ、という男性の歌声で最も美味しい部分を効果的に使った名曲です。
1996年11月9日
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