● 家なき子 みなし子すずの哀しい旅  ●

1994年4月16日〜7月2日に放送され、「同情するなら金をくれ!」の台詞で大ブームを巻き起こしたドラマ『家なき子』の映画版。人気テレビドラマの映画化は、1990年代後半にテレビ、映画ともに大ヒットした「踊る大捜査線」以降すっかり定番となりましたが、そのはしりともいえる作品です。
本作では、同じ年の7〜9月に放送された『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』で注目を集めたKinki Kidsデビュー前の堂本光一が出演し、話題となりました。


人々が浮かれるクリスマス・イブ。お腹を空かせて弱っているリュウのために、街頭で売られているクリスマスケーキを盗んだすず。
あわや警察へ突き出されそうになったところに、見知らぬ男がケーキ代を払いその場を収める。そのまま男の車に乗せられたすずは、車内に多くの自分と似たような年頃の少年少女がいるのを見て、男に不信感を抱く。

すず達が連れて行かれた先はサーカス団の一座だった。すずは園田京子(小柳ルミ子)・真弓(西田彩香)母子と再会する。京子はこのサーカース団の団長である、すず達を連れて来た男・磯貝誠一(斉藤洋介)のパートナーとして暮らしていた。 相変わらずあからさまな敵意をすずに向ける京子と真弓。
ある日、いじめられていたすずの窮地を同じサーカス団に所属する堀口稔(堂本光一)という少年が救ったことがきっかけとなり、二人は会話を交わすようになる。しかし、稔に思いを寄せる真弓はそれが 気に入らず、すずに対するいじめは益々エスカレートする。稔は同じサーカス団に所属する妹・恵(桜井貴子)と空中ブランコ乗りとして活躍していたが、ある日の練習で恵が倒れてしまう。恵は生まれつき心臓が弱く、このままでは長くは生きられないことを聞き、すずは稔と彼の実の父親である南条勝久(古尾谷雅人) へ恵の手術費用を出してくれるよう頼みに行く。しかし、次の国政選挙を目指す南条は、自分には息子などいないと突っぱねてしまう。
傷心の稔に為すすべもないすずは、ただ稔の為に一緒に涙をこぼすしかなかった。

すずと稔が打ち解けていることが面白くない真弓は、すずを呼び出し仲間とともに傷めつけ監禁してしまう。心配するリュウにすずは黒崎医師(京本政樹)を連れてくるよう命ずる。
黒崎が必ず来ることを信じ、恵を励ましながらすずは稔とともに空中ブランコの練習に明け暮れるのだった。
一方、磯貝から南条が稔の父であることを聞いた京子は、南条に急接近。磯貝をバケモノ呼ばわりし別れさせてくれるよう頼む。その様子を見て荒れる磯貝。
それぞれの思いを胸に刻一刻と近づいてくるサーカスの初日。
果たしてすずと稔の空中ブランコは無事、成功するのか。黒崎は恵を救うことが出来るのか!?


この作品で京本さんが演じたのはテレビシリーズと同じく謎の天才医師・黒崎和彦。
テレビシリーズ同様、優しさとニヒルなクールさが同居した魅力は健在。コートの裾をなびかせてリュウとともに登場した瞬間から黒崎ワールドに引き込まれます。
映画版での見どころは何と言っても、白衣を羽織るシーン。え、何それと思った方は騙されたと思って一度見てみてください。こんなカッコイイ着方が世の中にあるのか、と驚くこと請け合いです。
白衣を襟の部分を掴み「子供は向こうへ行ってろ」とすずに言いながらバサッとそのまま後ろに白衣を振りおろすと同時に両手はもう袖に通っている!一体どうやって着たの!?と言いたくなるような鮮やかな着方です。 実はこれ、京本さんが少年時代愛してやまなかったドラマ『柔道一直線』の主人公・一条直也に憧れるあまり、恰好から仕草、技まですべてマネをしたくて練習を重ねた末にマスターした賜物なのです。今回の出演にあたり、せっかくだから白衣を一直線風に着よう、ということで披露してくれました。その直前の、すずから手術代としてもらったダイヤのネックレスを左手だけで掴み、ポケットに入れる仕草と併せて、見事なケレン味に溢れた芝居は必見です。
また、この作品ではデビュー作となった『男たちの旅路・車輪の一歩』以来、京本さん、斉藤洋介さん、古尾谷雅人さんの3人が15年ぶりに共演することになりました。残念ながら3人揃ってのシーンはないですが、各人のここまでの歳月を思うと感慨深いものがあります。

哀しい旅の副題に象徴されるように、登場人物のうち誰ひとり幸せになれない中、変わらぬリュウのとても犬と思えない豊かな表現力に癒されるとともに涙を誘われます。

最後にテレビドラマシリーズ同様、映画版でも主題歌となった『空と君とのあいだに』。名曲は色褪せない、の言葉どおり、哀しくも力強い、それでいて包み込むような優しさに溢れたメロディーと詞は、今聴いても心に深く響きます。

1994年12月17日公開

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