● 行動隊長伝・血盟  ●

初の仁侠映画に挑戦!ということでどんな京本さんが見られるのか、撮影中からかなり期待しておりました。正確にはヤクザ役は「殺し屋パズズ」で経験済みなんですけどね(^^;、まぁあちらはヤクザの抗争とかそういうものを描いた作品ではないので、今回が初挑戦と言っても差し支えないでしょう。

幼い頃から家族同然に育った3人の男(本多啓介・石津勝利・御木本靖成)たちの絆・ヤクザ世界でのし上がって行く過程で起こる、それぞれの葛藤を描いたこの作品は、斬った張った、惚れたが中心の従来のヤクザ映画とはややかけ離れた、かなり異色の出来になっています。
今回、京本さんが演じたのは石津勝利という主役3人の中間的存在。
自身が作り上げた鬼道会の頭として、ヤクザ世界で天下を取ろうとする本多。そんな彼を心底慕い、親父(本多)のためには命を張る覚悟でひたすら突き進む御木本。一方、本多の片腕として鬼道会を支えつつ、弟分の御木本を何かと気にかけ他の組員達に睨みを利かせる石津。これは難しい。演じるのはもちろん、役そのものについても非常に語りにくいです。何故なら、上下2人はそれぞれの役割・キャラクターが明確なのに対し、石津は言わばバランスを取る存在。目立ちすぎても退き過ぎてもいけないという微妙なポジションです。けれど、そういう状況だからこそ京本流が光るというもの。

ところで皆様は、ヤクザと聞くとどんなイメージをお持ちでしょうか。一般的に「仁義なき戦い」や「極道の妻たち」シリーズなどの任侠モノに登場するヤクザといえば、まず目つき・人相が限りなく悪い。次いでガタイがデカイ。更に声が大きい・声に凄みがある。他にもありますが大まかな特徴としてはこれら3点があげられるのではないでしょうか。今回主役を演じる竹内 力さんなどはこれにピタリと当て嵌るタイプです。これまでにも「ミナミの帝王」シリーズなど数多くのヤクザ役をこなしており、ヤクザ映画ならお手の物といった印象を受けます。
対して、このイメージから最もかけ離れたところにいるのが我等が京本さんです。容姿端麗で圧倒的に線が細く、声もどちらかというとソフトとくれば、そこからヤクザを想像する人はまずいないでしょう。今までオファーがなかったことも頷けます。そんな京本さんが今回、一体どんなヤクザっぷりを魅せてくれたのか、紐解いていきましょう。

まず、今作の見どころとも言うべき最大の特徴は、”瞬きをしない京本政樹”これです(笑)。
何それ、という突っ込みが入ること必至ですが(^^ゞ、実は京本さんて現代劇では瞬きの回数がものすごく多いのです。しかも、1回の瞬きが尋常でないくらい速いです。これが色んな表情を生み出す元にもなっているわけですが、この映画ではそれを封印することにより、従来の眼力とはひと味違った、静かで凄みのある表情を作り出しています。それが最も顕著に現れるのが冒頭のシーン。
囚われた御木本を本多とともに迎えに来た石津は、黒田組のヤクザに「殺されたいんか!どこの組のモンや!」とドスで頬を斬られます。見ているこちらが思わず顔を背けたくなるようなこの瞬間、石津は目を見開くわけでもなく、ひたすら無表情に眉ひとすじ動かさず、斬られるがままに任せるのですが、それがとにかく怖い。なまじ顔立ちが美しい分、まるで闘犬に睨まれた獲物のごとく見るものをその眼に惹き付けます。そして流れた血をぺろり、と舐めた瞬間目にも留まらぬ速さで、隠し持っていた長ドスで斬りかかる仕草・表情が、先刻までの静かさとの対比でものすごい迫力があります。この静かなる無表情は、たびたび見られるのですが、格別目つきを悪くするわけでもないのに、それ以上の凄みを醸し出します。

次に、声について。これは先程の表情にも同じことが言えますが、静と動の見事な使い分けによりヤクザ映画においては、弱点にもなりうるソフトな声質を逆に活かしています。それにしても、ここぞという時に発せられるドスの利いた怒声には驚かされました。「馬鹿野郎!」とどなった次の瞬間には普通の声音に戻る。これ、なかなか出来そうで出来ませんよ。しかもヤクザ口調の基本(笑)である巻き舌もかなり堂に入ってます。
声で外せないのがやはり、冒頭のこのシーン。
予告編でもちらりと流れた、相手に馬乗りになって長ドスを突きつけ一言「痛いよ」。
この時、普通に「いたいよ」ではなく、「いたいよお?」と僅かに語尾が上がり調子になっている点に注目です。聞いた瞬間、背筋が寒くなるくらい「痛い」気がしました。
これ、本当に斬られた時の痛み・怖さを知ってる人間でないと言えない言葉だと思うのですが、いかがでしょう?しかも、まるで悪魔の囁きのようなあの声音。「痛いぜ?」とドスを利かせて言われるより遙かに効果があります。これまでのヤクザ映画なら「うぉりゃぁぁ!ぶっ殺すぞ」などの罵声を浴びせるところに「いたいよお?」ですよ。台本なのか京本さんのアドリブなのかわかりませんが、まさに恐るべし!です。

とここまで京本ヤクザの凄みばかりを取り上げてきましたが、個人的に冒頭のシーン以外でのお気に入りはここ。
靖成の身代わりとして、出頭する梶谷を見送る石津が「梶谷よぉ、水虫こじらすんじゃねえぞ」とタバコを渡し、梶谷が「バッチリ中のモンにうつしてきやす」と返すシーン。子分の返事を聞いた石津は一瞬だけふっと笑顔を見せるのですがその表情がたまらなくイイです。梶谷自らが言い出したこととはいえ、身代わりとなって塀の中へと旅立つ子分に対するねぎらいの気持ちと、恐らく心の中に隠しもっているであろう謝罪の気持ちがないまぜになった何とも言えない柔らかな笑み。一見冷酷な石津の隠れた人間臭さが見えた感じがして、とても好きです。
同様に、ラストシーンの靖成の言葉を聞いた瞬間の石津の表情も隠れた名シーンのひとつだと思います。恐らく以前の京本さんなら思いっきり目を見開いたであろう、あのシーン。
僅かに動いた表情に驚きと、でもどこかその答えを予期していた、そんな2つの相反する思いを見るとともに、役者としての京本さんの成長をしみじみ感じました。ってお前、何様?状態ですみません。いや、こんな表情が出来ることがすごく嬉しかったんです、ハイ(平謝り)。
何かが吹っ切れ清々しさが漂う御木本、思わず涙を零した本多とは対照的なそれは、まさにこの映画における石津の役割と通じるものがある気がします。

とひたすら偉そうなことばかり書きましたが(大汗)。「血盟」間違いなくお薦めです。
派手な刺青とアクセサリーが異様なまでに似合う(笑)、これまでのヤクザの常識を覆した京本ヤクザの今後に期待しつつ、そろそろ筆をおきたいと思います。

2003年10月24日

Copyright (c) 2005 shion All rights reserved.