●● 夜の終わる時 ●●
明けない夜はないが、この夜はいつ終わるのだろう。
警察を舞台に人間の弱さと哀しさを切々と描いた、日本推理作家協会賞受賞作『夜の終る時』（結城昌治著・双葉社刊）をドラマ化。 舞台を原作の昭和３０年代から現代に移し、主役の岸谷五郎、余貴美子を始め、西岡徳馬、寺田農ら実力派のベテランに中堅・若手俳優を 加えサスペンス特別企画と銘打った意欲作です。
富士見署の菅井（岸谷五郎）は強行班係の最前線で、叩き上げとしていくつもの功績を残してきたベテラン刑事。そんな菅井と長年苦楽を供にしてきた 腰木主任（寺田農）らは、課長として短期間のみ本庁から派遣されてくる、若手エリートのキャリア組に陰々たる不満を募らせていた。
ある日、菅井は恐喝事件で逮捕状が出ている元暴力団員の関口（樽沢勇紀）を取り逃してしまう。綿密な計画を立てての捕り物だっただけに、誰かが 警察の情報を漏らしたのでは？という疑惑が署内に流れる。徳持刑事（根本博成）は関口と学生時代から親交があったことから、事件への関与を疑われるが、 その徳持がホテルの一室で全裸死体となって発見される事件が発生。
恋人の千秋（余貴美子）から、千秋の夫で強盗犯の宮坂（平井賢治）を悪の道に連れ込んだのは関口、と聞かされた菅井らは関口の犯行を確信。 仲間割れした関口が徳持を殺害、逃走したとの見方を強め、全力を挙げて関口を確保。身柄を拘束するが、関口は別の犯行は自白したものの 徳持殺害は頑として否定するばかり。
そんな中、関口の弟分である千葉（ウド鈴木）が好物のどら焼きを差し入れに富士見署にやって来る。 が、どら焼きを食べ始めた途端、関口は口から泡を吹いて昏倒。そのまま帰らぬ人となる。
その数日後、今度は千葉の死体が発見される。関口の殺害に使われたのはスコポラミンという毒物で、それは 以前看護師が自殺した事件の折、富士見署で押収したまま未返却になっていたものだった。
千葉を関口を殺害したのは誰か。捜査は混沌とし、若手署員の間からは人一倍正義感が強かった徳持の潔白を主張する声が上がり始める。
やがて、安田刑事（鳥羽潤）は、一連の事件から浮かび上がる犯人像や徳持が殺害された日の行動から、とある人物に疑いの目を向け始める……。
２時間ドラマの中には、撮影はされたものの様々な事情から放映まで時間がかかってしまう作品が時にありますが、これもそんな作品のひとつ。 実際の撮影は、劇中の日付でもわかるように２年前の２００５年春。実に２年半以上の歳月を経ての放映となりました。しかし、そのおかげと 言ってはアレですが、劇的に髪型が変わった今となっては、音楽活動を再開を機にほんのりアレンジしたスタイルを再び見られるという嬉しい おまけがつきました。
さて、この作品で京本さんが演じたのは菅井の同僚・瀬尾刑事。所轄の刑事ということで、どの登場人物もグレーや黒、ベージュなどの地味な スーツ。京本さん演じる瀬尾もダークグレーのスーツですが、中に着ているワイシャツが１人グレーでお洒落。 スーツが無地orストライプと変わるのに合わせて、ネクタイも水玉、ストライプ、無地とさり気なく変えているのもポイントです。
友情出演、ということで出番は少なめ、かと思いきや意外と多く、相原京介を彷彿させる仕草がちらほら見えたり、耳かけヘアーなのが嬉しいです。 が、何と言っても見所は、おでこを全開にして走り回る姿が随所に見られるということ。歯を食いしばり必死の形相で走る姿がカッコよすぎな中、 終盤、千絵のアパートの階段を駆け下りる際、ほんのちょっぴりおっかなびっくり、という感じでがに股気味に降りてくるシーンは必見。 非常階段を猛スピードで降りるのはやっぱり怖いよね、と緊迫した場面にも関わらず微笑ましい気持ちにさせてくれます。
また、前半の山場ではボーリングをする、というサービスショットのようなシーンも。容疑者より大きく映っている上に、ちゃんと赤いボーリングシューズを履いているのも 見逃せません。
時代劇で特に顕著な綺麗な立ち居振る舞いは今回も健在。随所に立ち姿の美しさを披露してくれてますが、ラストの犯人を乗せたパトカーを見送るシーンでは、立ち姿のみならず 肩のラインの美しさに思わずはっとなるほど。個人的に、クライマックスの大立ち回りで犯人に殴られ転がるシーンでの、ネクタイの軌跡の鮮やかさに京本さんらしさを 感じてしまいました。
全体的に説明的な台詞を省き、特に前半は畳み掛けるようにシーンが続く為、どうなるのかハラハラドキドキさせられっぱなしの展開はなかなか見ごたえがありです。
原作から４０年近く後の時代に舞台を移しても、さり気ない台詞に当世の刑事気質が窺え、違和感を感じさせない仕上がりです。が、２時間という短い枠では犯人の心の闇の 本当の奥底までは描ききれなかった感が拭えないのが惜しまれます。
また、物語の鍵といえるシーンの後ろで何故か日大生と思しき一団がエールの気勢をあげていたり、クライマックスで何度も挿入される見事すぎる日本海の荒波やあまりに大仰な絶叫等、やや不可解なシーン が散見したのが残念でした。
いつの場合も犯罪者とは身勝手なものですが、この作品では特にそれが顕著に表現されており、それ故に人間の哀しさをしみじみと感じさせられます。
警察を舞台に人間の弱さと哀しさを切々と描いた、日本推理作家協会賞受賞作『夜の終る時』（結城昌治著・双葉社刊）をドラマ化。 舞台を原作の昭和３０年代から現代に移し、主役の岸谷五郎、余貴美子を始め、西岡徳馬、寺田農ら実力派のベテランに中堅・若手俳優を 加えサスペンス特別企画と銘打った意欲作です。
富士見署の菅井（岸谷五郎）は強行班係の最前線で、叩き上げとしていくつもの功績を残してきたベテラン刑事。そんな菅井と長年苦楽を供にしてきた 腰木主任（寺田農）らは、課長として短期間のみ本庁から派遣されてくる、若手エリートのキャリア組に陰々たる不満を募らせていた。
ある日、菅井は恐喝事件で逮捕状が出ている元暴力団員の関口（樽沢勇紀）を取り逃してしまう。綿密な計画を立てての捕り物だっただけに、誰かが 警察の情報を漏らしたのでは？という疑惑が署内に流れる。徳持刑事（根本博成）は関口と学生時代から親交があったことから、事件への関与を疑われるが、 その徳持がホテルの一室で全裸死体となって発見される事件が発生。
恋人の千秋（余貴美子）から、千秋の夫で強盗犯の宮坂（平井賢治）を悪の道に連れ込んだのは関口、と聞かされた菅井らは関口の犯行を確信。 仲間割れした関口が徳持を殺害、逃走したとの見方を強め、全力を挙げて関口を確保。身柄を拘束するが、関口は別の犯行は自白したものの 徳持殺害は頑として否定するばかり。
そんな中、関口の弟分である千葉（ウド鈴木）が好物のどら焼きを差し入れに富士見署にやって来る。 が、どら焼きを食べ始めた途端、関口は口から泡を吹いて昏倒。そのまま帰らぬ人となる。
その数日後、今度は千葉の死体が発見される。関口の殺害に使われたのはスコポラミンという毒物で、それは 以前看護師が自殺した事件の折、富士見署で押収したまま未返却になっていたものだった。
千葉を関口を殺害したのは誰か。捜査は混沌とし、若手署員の間からは人一倍正義感が強かった徳持の潔白を主張する声が上がり始める。
やがて、安田刑事（鳥羽潤）は、一連の事件から浮かび上がる犯人像や徳持が殺害された日の行動から、とある人物に疑いの目を向け始める……。
２時間ドラマの中には、撮影はされたものの様々な事情から放映まで時間がかかってしまう作品が時にありますが、これもそんな作品のひとつ。 実際の撮影は、劇中の日付でもわかるように２年前の２００５年春。実に２年半以上の歳月を経ての放映となりました。しかし、そのおかげと 言ってはアレですが、劇的に髪型が変わった今となっては、音楽活動を再開を機にほんのりアレンジしたスタイルを再び見られるという嬉しい おまけがつきました。
さて、この作品で京本さんが演じたのは菅井の同僚・瀬尾刑事。所轄の刑事ということで、どの登場人物もグレーや黒、ベージュなどの地味な スーツ。京本さん演じる瀬尾もダークグレーのスーツですが、中に着ているワイシャツが１人グレーでお洒落。 スーツが無地orストライプと変わるのに合わせて、ネクタイも水玉、ストライプ、無地とさり気なく変えているのもポイントです。
友情出演、ということで出番は少なめ、かと思いきや意外と多く、相原京介を彷彿させる仕草がちらほら見えたり、耳かけヘアーなのが嬉しいです。 が、何と言っても見所は、おでこを全開にして走り回る姿が随所に見られるということ。歯を食いしばり必死の形相で走る姿がカッコよすぎな中、 終盤、千絵のアパートの階段を駆け下りる際、ほんのちょっぴりおっかなびっくり、という感じでがに股気味に降りてくるシーンは必見。 非常階段を猛スピードで降りるのはやっぱり怖いよね、と緊迫した場面にも関わらず微笑ましい気持ちにさせてくれます。
また、前半の山場ではボーリングをする、というサービスショットのようなシーンも。容疑者より大きく映っている上に、ちゃんと赤いボーリングシューズを履いているのも 見逃せません。
時代劇で特に顕著な綺麗な立ち居振る舞いは今回も健在。随所に立ち姿の美しさを披露してくれてますが、ラストの犯人を乗せたパトカーを見送るシーンでは、立ち姿のみならず 肩のラインの美しさに思わずはっとなるほど。個人的に、クライマックスの大立ち回りで犯人に殴られ転がるシーンでの、ネクタイの軌跡の鮮やかさに京本さんらしさを 感じてしまいました。
全体的に説明的な台詞を省き、特に前半は畳み掛けるようにシーンが続く為、どうなるのかハラハラドキドキさせられっぱなしの展開はなかなか見ごたえがありです。
原作から４０年近く後の時代に舞台を移しても、さり気ない台詞に当世の刑事気質が窺え、違和感を感じさせない仕上がりです。が、２時間という短い枠では犯人の心の闇の 本当の奥底までは描ききれなかった感が拭えないのが惜しまれます。
また、物語の鍵といえるシーンの後ろで何故か日大生と思しき一団がエールの気勢をあげていたり、クライマックスで何度も挿入される見事すぎる日本海の荒波やあまりに大仰な絶叫等、やや不可解なシーン が散見したのが残念でした。
いつの場合も犯罪者とは身勝手なものですが、この作品では特にそれが顕著に表現されており、それ故に人間の哀しさをしみじみと感じさせられます。
2007年12月10日
