● 殺人スタント2 落ち武者伝説! 南紀白浜ミステリー殺人ツアー
孤島に甦る復讐の亡霊 額の死文字が暴く完全犯罪の謎  ●

斬られ役、撃たれ役専門の売れない俳優・高見沢与四郎が、ひょんなことから奇人変人の推理作家と知り合ったことがきっかけで、殺人事件に巻き込まれ、解決する様を 描いた大谷羊太郎作『完全犯罪学講義』。
これを原案に高見沢役を三田村邦彦でスタントマンが殺人事件を解決する『殺人スタント』として土曜ワイド劇場でドラマ化。
今回はそのシリーズ第2弾。ミステリーツアーの裏に隠された18年前に起きた事件の怨念を解き明かす様をコミカルタッチで描いています。


長年の悲願だったスタントマン会社を立ち上げ、希望に燃える高見沢与四郎(三田村邦彦)は、経営が軌道に乗るまで経理等の事務を妻の純子(宮崎美子)に依頼。しかし、自身の弁当屋を切り盛りする純子は、与四郎の為に自分の夢である弁当屋を犠牲にしたくない、と拒否。お互い譲らず夫婦げんかに発展してしまう。
そんな折、与四郎の友人であるミステリー作家・月宮麗樹(石井正則)が平家の落人に絡んだミステリーツアーの企画を持ち込んで来る。過去に月宮の口車に乗り、何度も手痛い目に遭わされている与四郎は断ろうとするが、ツアーの目玉である落武者伝説で主役を演じることを知り快諾。初めての主役に喜びを隠せない与四郎は、そのまま月宮と二人で出かけてしまう。 そんな与四郎を喧嘩をした手前、素直に祝福できない純子とは対照的に娘の仁美(星井七瀬)は大喜び。

いよいよ始まったツアー。月宮企画だけに参加者は、右を見ても左を見ても何やら曰くありげな人物ばかり。
コスプレ紛いの恰好でワンマンショーを繰り広げる月宮に半ば呆れていた与四郎は、参加者の中にカメラ片手にはしゃぐ純子の姿を見つけ驚く。
翌日、一行はミステリーの舞台となる水神島へ渡り、与四郎らが落武者伝説を再現した芝居を熱演していると、駐在所員の高津(立川貴博)が現れ、即刻島から立ち去るよう求めた。ツアー責任者の緑川真理子(相本久美子)や宿泊ホテル東京支社長の安西(池田政典)らが事前に許可は取っていると抗議すると、高津は”水神島に近づくな 祟りで人が死ぬ”と 書かれた紙を見せ、これが駐在所に届いたと告げる。水神島には昔からの言い伝えがあり、これまでにも島に来て命を落とした人がいるのだという。
しかし、ツアー客らは誰もまともに高津の言葉を信じようとせず、結局緑川の決断でツアーは続行。芝居を再開した与四郎が崖から転落するシーンを演じ終え、前方に目をやると、そこにはツアー客の1人である山崎(本城丸宏)が 胸に槍を刺されて絶命していた。

結局、ツアーを中止した一行が島から戻ろうとすると船のエンジンが何者かに壊されていることが判明。島に閉じ込められた状態となった一行は、船の中で夜を明かす羽目になる。
翌朝、それぞれが警察の取り調べを受けることになり、第一発見者である与四郎に容疑がかけられる。
憤慨した純子は、緑川とともに手掛かりを探しに島のあちこちを歩き回るうち、与四郎の大切さに気付くのだった。
やがて、第二の事件が発生。海岸で高津の死体が発見され、更に高津はニセ警官で島へ宝さがしに来ただけであったことが判明する。

第二の事件のおかげで疑いが晴れた与四郎は、月宮から今回の事件を解決するよう依頼される。渋々ながら引き受ける羽目になった与四郎は、純子が撮ったビデオから安西と山田が既知の間柄であることを突き止める。早速、安西のマンションを訪ねた与四郎 は、そこで変わり果てた姿となった安西を発見する。しかも、安西の額には赤く”小”の字が記されていた!?

次々と起こる不可解な事件に頭を悩ます与四郎。一方、偶然再開した純子と緑川は親交を深めていく。
そんな中、月宮を交えて仁美の18歳の誕生祝いが開かれた。プレゼントとして贈られた仁美が生まれた日の新聞記事を見た月宮は、 そこに出ている山梨のペンション火災の記事の中に驚くべき発見をする。
火災で亡くなった被害者5人のうち3人がツアー関係者の家族だったのだ。宿泊ホテルのオーナー、馬渕孝江(愛華みれ)とツアー客・戸見山久男(灰地順)さち(森康子)夫妻。 同じツアーの中に18年前に起きた事件の関係者が3人もいたのは偶然なのか、それとも……。事件解決の糸口を求め、戸見山夫妻の元へ向かった与四郎は、そこで思いがけない事柄を打ち明けられる……。


本作のプロデューサー東浦陸夫氏は、かつて同じABCが製作し京本さんが主演した『アーバンポリス』でもプロデューサーを務め、京本さんと親交深い仲です。その東浦氏からの依頼で友情出演した京本さんが 演じたのは、ご本人役。冒頭、「よかったよねぇ、必殺」といきなり現れ、三田村さんと必殺をネタに語り合い、京本ファン、三田村ファンならず必殺!ファンをも楽しませてくれます。
この時の京本さんのいでたちにも注目。ピンクのシャツに黒いパンツの上から白衣を羽織り、胸ポケットからは聴診器を覗かせる、一見何とも不思議なスタイルですが。 『アーバンポリス』放映時、全国放送されていた『はるちゃん5』と『太陽は沈まない』で京本さんが演じていた役柄を彷彿させ、にやりとさせられます。
この時のまず、足元を映し次に後ろから、陽光に照らされた顔を上から、そして全身を下から舐めるようにと捉えていくカメラアングルの変化、決めまくった京本さんの仕草が楽しいです。
更に必殺話をしながら、急に思いついたように 自身の出演作へのスタントを依頼するのですが、そのタイトルが『なにわ刑事(デカ)』。それだけでも充分可笑しい上に、この時のものすごい速さの瞬きから眼を見開き、最高に爽やかな笑顔へと変化する細かすぎる芝居は必見です。
そのなにわ刑事での撮影シーンでは、黒皮の上下に懐かしいワインレッドのトレンチコートを颯爽と靡かせ、決めゼリフを発する姿も披露。関西ローカルの相原京介が遂に全国デビューした瞬間、それだけでも感涙モノなのに、京本ヘアーで同じ衣装の三田村さん、という世にも貴重なモノが見られます。 役になりきるために、と京本ヘアー&衣装のまま、やたら決めまくって家に入って来る三田村さんこと与四郎には爆笑。世間が抱く京本さんのイメージをこれでもか、と再現した遊び心に脱帽です。
冒頭だけかと思いきや、中盤再び同じドラマのスタントシーンが挟まれているのも嬉しい誤算です。「かっこよくね」と与四郎に指示した際の笑顔の眩しさがたまりません。この場面を単なるサービスシーンに留めず、ちゃんと事件解決のヒントに繋げてあるのもお見事。
そんなわけで、トータルの出番は5分にも満たないのですが、短い時間に凝縮されすぎたサービスカット、これぞ京本政樹な表情、仕草の数々に満足感はとてつもなく大きいです。

与四郎と純子の掛け合い漫才のようなやりとり、これでもかとコスプレしまくる月宮の軽妙な語り口が楽しく、全体にテンポよく仕上がっているため、最後まで飽きることなく楽しめます。
また、通常サスペンスモノでは、主人公が犯人を追いつめ独白からの再現シーン、というパターンが多いですが、この作品では少しずつ視聴者にヒントを与え、この人が犯人かな? と目星をつけた 頃にいきなり犯人の独白が始まる、という斬新な手法になっているのも見どころです。
また、クライマックスのスタントマン、という設定を活かしたシーンでのそれまでのコミカルな演技を吹き飛ばす カッコ良さには、ファンならずとも拍手を送りたいです。


2006年7月15日

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