● おとり捜査官・北見志穂4〜狙われた美人刑事!盗撮された私生活〜  ●

1996年2月に最初の触姦から2ヶ月に1話のペースで味姦まで5作品が1年をかけてトクマノベルスより出版された推理小説、山田正紀著『女囮捜査官』シリーズ。
1998年にテレビ朝日が土曜ワイド劇場枠で「おとり捜査官・北見志穂」として製作。 その名のとおり、警視庁捜査一課特別被害者部・北見志穂が様々な猟奇的な事件を解決するために、自らが囮(おとり)となり犯人逮捕に導く様子を描いた作品です。
松下由樹と蟹江敬三のコンビで2014年現在まで実に18作が放映された人気シリーズ。尚、先ごろ放映された第18作「幸福の絶頂美女連続殺人!」(2014年4月5日放映)が、2014年3月末に亡くなられた名優・蟹江敬三さんの遺作となりました。今回、紹介するのはシリーズ4作品目です。


深夜の病院から新生児が何者かにより連れ去られ、程なくして誘拐したとの連絡が入った。警視庁捜査一課の井原主任(小木茂光)、袴田刑事(蟹江敬三)らが被害者である岸上恭三(五森大輔)宅に張り込むも、巧妙な工作により逆探知は難しく。
たまたま非番で風邪のため病院へ行っていた北見志穂(松下由樹)は、緊急呼び出しを受けて捜査会議の場に駆けつける。そこで聞かされた犯人からの要求は”古い紙幣で1億円を用意し、下落合のマンションに住む北見志穂に持って来させろ”というものだった。何で私が!?と 驚愕する北見。翌日、犯人の指示に従い身代金受け渡しのため、水上バスに乗り込んだ北見だったが、警察の行動を見過ごしたかのような犯人の指示に振りまわされ、結局身代金のみを奪われてしまう。落ち込む北見の目に飛び込んで来たのは、若い女性の水死体だった。
犯人が北見の住所や携帯番号等、個人情報を熟知していることから井原らは、北見と犯人と繋がっているのでは? と疑い北見は誘拐捜査から外されてしまう。
水死体の調査へ回された北見は、被害者は大学病院で事務を担当していた百瀬芳子という女性であることを突き止める。 早速、聞き込みに行くと、先日風邪を診察してくれた宮澤佐和子(美保純)と再会し驚く北見。聞き込みや宮澤の証言によると、百瀬には2枚目の交際相手がおり、そのことで悩んでいたという。
彼女のマンションからとある住所と”三百万円たいじする”という謎のメモを発見した北見は、手掛かりを求めて書かれた住所を訪ねてみると、そこは百瀬が付き合っていた瀬木耕助(京本政樹)が 経営する名簿会社だった。

一方、誘拐捜査に行き詰まりを感じた井原は、相棒である袴田に北見の内偵を指示。しかし、程なく北見本人に見つかってしまう。やがて、一課の調査でとあるホームページで北見の写真や携帯番号が公開されていることが明らかに。更に同じホームページの掲示板には、件の誘拐事件とそっくりなストーリーが書き込まれていた。北見らは犯人と思しき書き込みを行う”エス”なる人物を追うのだが……。



この作品で京本さんが演じたのは、あらすじにも登場するように名簿を始めとするマーケティングリサーチを行うベンチャー企業を経営する瀬木耕助。経営不振に陥った会社の立て直しの為に、恋人を使って新生児を誘拐し、身代金を奪った挙句、口封じのために……ではありません。
胎児の名簿売買という怪しげな闇の商売に手は染めてはいたものの、根っからの悪人ではなく。恋人の行動に不審を抱き、もしや……と問い詰めてしまった結果、ほんのはずみで生じた不運から命を落としてしまう羽目に。という、2時間ドラマにおける京本さんの十八番その2。絶対にコイツが 犯人と見せかけながら、実は犯人と不用意に接触したがために殺されてしまう役どころです。
ファンにはすっかりお馴染みなパターンだけあって、京本さんの演技も手慣れたもの。 初登場となる、北見が聞き込みに行った病院でさりげなく佇む立ち居ふるまいからして怪しさ全開。
北見と正式対面のシーンでは、口元だけで笑みを浮かべる、京本さん独特のニヒルな笑顔もばっちり見られます。
個人的には同じシーンでの北見と名刺交換を行った後、対面で応接セットに腰掛けながら名刺をテーブルに置く右手の手つきに注目です。軽く両手で弄びながら、質問に答えつつ名刺の左側を一旦テーブルにつけ、ぴとっという小さな音を立てて置くそのキザすぎる仕草がたまりません。
この当時の京本さんは、長年愛用されてきた宣材写真のように横髪を長くたらし、襟足も長くトップからサイドはほわっと盛り上がった、いわゆるモッサリヘアー全盛期。そんな風貌からキザな仕草を交えつつ「まぁ、ベンチャービジネスですよ」なんて言われると、それだけで胡散臭さ3割増しです。
北見からの「胎児の名簿のことでは?」と鋭い質問に、「え?……ウチはそんな名簿のことなんて知りませんけど」と空とぼけるシーンでは、え、と一瞬驚いた後、次の台詞を言うまでの間の目が泳ぐ細かな表情にも注目です。ここに限らず全体的に登場するシーンそれぞれで、色んな小芝居を見せてくれるため、 さほど出番は多くはないものの退屈しません。
そして、京本さんの真骨頂ともいえる真犯人による回想シーン。不慮の死を遂げるくだりでの次第に感情が高ぶっていく様子や、死を遂げる際の非常に細かな演技も必見です。


2時間ドラマ全盛期だった放映当時。どこかで見たような役柄に、ついまたこんな役を……なんて贅沢なことを思ってしまいましたが。長い年月を経て改めて見返してみると。冒頭の事件発生から、北見らと同様に真犯人に振りまわされながら少しずつ核心へ近づいて行く過程が面白く、一方で犯人の心情もしっかりと描いたとてもよく出来たドラマです。
決して、楽しいストーリーではないけれど、ところどころに挟まれる北見と袴田のやりとりが楽しく、和むとともにもう二度と見られないことに一抹の寂しさを感じます。
子供を求めるあまり、ほぼ気がふれてしまった真犯人の表情とそれを見やる、井原、袴田、北見の痛ましさとやるせなさが混じったような視線に何とも言えない気持ちになります。
京本さんはもちろん、宮澤佐和子を演じた美保純の複雑な女心を見事に表現した演技は見ごたえがあります。


2001年12月22日

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