●● 内田康夫サスペンス「和泉教授夫妻シリーズ3」
夏泊殺人岬 ●●
西村京太郎、山村美紗と並ぶ現代旅情ミステリーの大家・内田康夫。魅力あるキャラクターが活躍する浅見光彦シリーズ、信濃のコロンボシリーズ等
で老若男女を問わず幅広い層に圧倒的な支持を獲得、テレビドラマのシリーズとしても未だに高い人気を誇っています。
そんな内田氏の名物キャラクターとしては、知る人ぞ知る隠れた名キャラクター・大学教授でありながら鋭い推理で事件を解決する和泉直人シリーズ第三弾、『夏泊殺人岬』(講談社刊)。
尚、タイトルでは原作と同じく”和泉教授夫妻シリーズ3”となっていますが、女と愛とミステリー枠では、2002年10月放映の『湯布院殺人事件』に続く2作目の映像化です。
明和大学法学部教授の和泉直人(橋爪功)は、哲学出身ながら、犯罪心理学の分野でユニークな論文を発表し世界的にその名を知られている法律学者。
妻の麻子(いしだあゆみ)と暮らす家に朝子の姪・江藤美香(遠野凪子)を下宿させている。そんな和泉がふとしたことから美香が所属する雅楽部の臨時顧問として、学生を引率し青森県夏泊半島で合宿を行うことになった。
演奏会を控えての、東京から遠く離れた青森での合宿にはしゃぐ学生たちだったが、小湊駅で1人の女子部員が酔っ払いに絡まれ、あわや乱闘というところを和泉により抑えられる。気を取り直して向かった合宿先
椿神社にもその男が現れ、神主の所在を尋ねる。部長の佐々木(室井誠明)が自身の実家であり、佐々木の名を名乗ると「無駄足か」と悔しそうにその場を立ち去った。
ところが男はそのまま帰らず、雅楽部の宿泊先である民宿に宿泊、その夜階段から転げ落ちそのまま帰らぬ人となる。
男の首筋にもがいたようなひっかき傷があり、男の体内から青酸カリが検出されたことから、警察は自殺と他殺両方の面から捜査を開始。
一方、和泉は美香から以前、美香の実家である三重県鈴鹿市の椿大神社、通称椿神社に帰った折、男に呼び止められ神主の名を尋ねられたことを告げる。
男の携帯に写真が残っていたことから、美香は重要参考人として警察に事情聴取を受ける羽目に。同席した和泉がそのあまりに強引な理論に呆れかけたところを、かつての和泉の教え子であり、現在は青森県警本部捜査一課長・石堂光一(京本政樹)が現われ、
2人は無事放免されることに。
石堂の口から男が10年前の5月6日、東京で殺人事件を起こし服役、先月出所したばかりの加部伸次であることが判明。
翌日、宿泊先の従業員・吉野(唐渡亮)が雅楽部の練習に現われ、的確な指導と達人のような龍笛(りゅうてき)の腕を披露し、一同を驚かせる。是非、指導をと請う佐々木、美香、和泉をしかし吉野は頑なに拒む。
その翌日、和泉の元に差出人不明の封書が届く。中には一言「次は学生が死ぬ。早く夏泊を出ろ!」とだけ記されていた。消印から投函されたのは川崎と判明するが、和泉には心当たりがない。
そんな折、美香が行方不明になる事態が発生。手紙の一件を知った警察ともども騒然となる中、美香が吉野と帰宿。龍笛の指導の為、八甲田山に行っていたと知りほっと胸を撫で下ろす一同だった。
その翌日、頑なに拒んでいた吉野が突然指導を受諾。吉野のおかげでめきめき腕を上げる部員達を目にし、今後の指導も頼む和泉だったが、母親の病気の為、明日実家に帰ると告げられる。
吉野が夏泊を後にした朝、秀山(近藤公園)が椿山で死体となって発見される事件が発生。前日の夜に美香を巡りいがみ合っていたことから、三角関係のもつれの果ての犯行と睨み、佐々木が警察に連行される。
佐々木、和泉ともに無罪を主張するが、佐々木が所持していたピルケースに微量の青酸カリが残っていたことが判明。加部殺しの線も浮上してしまう。
頭を抱える和泉の元に、殺された秀山の両親が息子が生前に渡して欲しいと依頼されたビデオテープを持って現れる。早速、再生したテープに映っていたのは……。
やがて、東京へと戻った和泉は独自に調査を開始。吉野と加部を結ぶ意外なつながりを発見。全ての謎を解く鍵が10年前の大事件に隠されていたことを知る。果たして真相は!?
この作品で京本さんが演じたのは、あらすじにも登場する青森県警本部捜査一課長・石堂光一。見た目どおりのエリートながら和泉のかつての教え子で、何とラグビー部員であった彼は試験の度に和泉に泣きつき、卒業試験では1人で追試を受けさせて
もらい何とか卒業出来たという。エリートはありがちですが、ラグビーという京本さんからはちょっと想像もつかない設定が新鮮です。思わずあの細身でタックルされたらひとたまりもないよー。ポ、ポジションは一体どこですか?と画面に現れない部分で想像が膨らんでしまいます。
もう何十年にも渡り超多忙が続く京本さんですが、この作品も忙しい最中でのオファー。「ちょっと遠いけど東北で美味しい蟹料理が食べられる仕事があるんだけど」が誘い文句だったそう。撮影に大忙しな主要キャストを尻目に、多忙な中しっかり蟹料理も堪能しての撮影となりました。
友情出演の為、あまり出番は多くはないですが、今回は最初から最後まで全く怪しい素振りはなく、大恩ある教授に協力するエリート課長として序盤、中盤、ラストと満遍なく爽やかに登場してくれます。
ラグビー部という以外は、特に美味しい設定等はありませんが、登場の瞬間、恩師である和泉に「変わってないな、その髪型」と言われるのが笑えます。実はこれ、和泉役である橋爪さんのアドリブ。京本さんのトレードマークでもある、御馴染みの髪型が警察官僚としては
ちょっと……というクレームが現場でつき、橋爪さんが咄嗟の機転を利かせて発してくれたのがあの台詞。その一言で難色を示していた髪型がOKになった、という。
ベテラン同士付き合いの長いお2人なればこそ、の心温まる(?)エピソードが何ともお二方らしく、思わず嬉しくなってしまう一コマです。
物語自体は、青森の観光名所紹介も盛り込みながらテンポよく進み、また、キーとなる龍笛を始め、篳篥(ひちりき)、笙(しょう)といった一般には馴染みの薄い雅楽器が
全面に渡り登場するのが見どころです。が、犯人の本当の動機が最後まで明らかにされなかったり、見方によっては美香が犯人に淡い恋心を抱くように見えるがその心情が描ききれていない等、やや消化不良な印象が否めないのが惜しまれます。
少々意地悪なコメントになってしまいましたが、京本ファンとしてはハラハラドキドキすることもなく、のんびり爽やかな笑顔を堪能できる1本です。
2003年11月5日
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