● 三毛猫ホームズの結婚披露宴
〜ウェディングベルが鳴る時、密室の花嫁が狙われる!〜  ●

1976年『幽霊列車』でデビュー以来、超人的な多作で数多くの作品を発表し続ける赤川次郎。1978年にカッパノベルスより発表した『三毛猫ホームズの推理』は、猫が主人公というストーリーの奇抜さと読みやすい文体からベストセラーとなり、一躍人気作家の仲間入り。
また、同年に発表した『セーラー服と機関銃』が1981年に薬師丸ひろ子主演の角川映画として映像化され、大ヒット。以降、『探偵物語』『晴れ、ときどき殺人』『愛情物語』と立て続けに角川映画化され、若年層を中心に赤川次郎ブームを巻き起こしました。
数多くの人気シリーズを抱える赤川氏ですが、三毛猫ホームズシリーズは、その中でも最大の人気シリーズ。これまでに長編・短編併せて50作を超える物語が刊行されています。テレビドラマとしては、1979年〜1984年にかけて、土曜ワイド劇場で石立鉄男主演のシリーズが6作品、1989年〜1991年には、三浦浩一主演のシリーズが3作品、陣内孝則主演で1996年と1998年に2作品、2012年には相場雅紀主演で連続ドラマ化と数多くの作品が放送されています。
今回紹介するのは、1989年に火曜スーパーワイド枠で放送された三浦浩一版の第一作目です。


片山義太郎(三浦浩一)は、警視庁捜査一課に勤務する刑事。父親の遺言に従い、警察官となったものの血を見るたび貧血を起こす日々。また、女性恐怖症でもあり、31歳で未だ独身であることを案じた叔母の児島光枝(松尾嘉代)がたびたび見合い話を持ち込むのだが、上手くいったためしがない。
そんな義太郎は両親亡き後、妹の晴美(小林聡美)と飼い猫のホームズとで暮らしている。
片山家においては、家長である義太郎よりも高い地位にあるホームズ。フリフリのよだれ掛け姿でごちそうを食べる姿は愛らしいメスだが、ひとたび事件が発生すると義太郎をワトソン役に名探偵ぶりを発揮する三毛猫である。

ある日、叔母の光枝と義太郎への見合い話がてらレストランで食事をしていた晴美は、兄の親友である白井しんいち(京本政樹)とばったり会う。白井より”今夜7時、六本木アマンドで待つ”というメッセージを受け取った晴美は、デートのお誘いと舞い上がってしまう。
目黒署勤務なのに、義太郎のことを一方的に先輩と呼び、晴美に思いを寄せている石津(宍戸開)と約束があったにも関わらず、白井とのデートに心ときめかせて待ち合わせ場所に行った晴美だったが、当の白井がなかなか姿を見せない。
そこへ現れ、まとわりつく石津を何とか片隅に追いやったところでようやく現れた白井は、傍らに美女を連れており、一気に落胆する晴美に追い打ちをかけるようにフィアンセの伊豆島マサヨ(森山祐子)であることを告げ、義太郎に相談事があるのだと言う。

数日後、白井に会った義太郎は、莫大な遺産を持つマサヨとの結婚に反対する者達から脅迫を受けたり、命を狙われそうになったことを明かし、結婚式当日の警護を頼む。そんな彼らをすぐ近くから曰くありげな男が見つめていた。聞けば、その男・岩本アキフミ(不破万作)も白井の命を狙っている1人だという。 かつて白井の上司だった岩本は、仕事でおかしたミスを隠そうとしたのが発覚し、降格処分を受け、後釜として白井がそのポストに就いたことを恨んでいるらしい。
更に、2人のテーブルに1人の美女が近づいて来て焦るも、彼女は白井の知り合いと知り落胆する義太郎。小坂ヒロ子(石野真子)と名乗った女性はマサヨの親友であり、彼女もまた今回の結婚を快く思っていない1人だと言う。
渋る上司の栗原警視(中条静夫)から、いつもの辞表ちらつかせ作戦により休暇をもぎ取った義太郎は、勝手に同行すると言いはる晴美とホームズと供に北海道へと飛ぶ。
式を前に片山兄妹を歓迎して催された晩さん会に、突如「この結婚は絶対に許さん」と息まく老人が現れる。彼は伊豆島モトジ(織本順吉)と言い、マサヨの父の弟なのだが、事業に失敗して以来、人が変わってしまい一族のやっかい者になっているらしい。乱入した挙句に罵詈雑言を吐き、酔いつぶれてしまった モトジを迎えにマサヨの遠縁にあたる沢口カズオ(本木雅弘)が現れ、再びときめく晴美にヒロ子は何故かそっけない。
義太郎は、そんな自分達を物陰から見つめる若い男の存在に気づく。更に、晩さん会からの帰り道、義太郎と晴美はヒロ子が先ほどモトジを迎えに来たカズオと何やら親しげに話しているのを目撃してしまう。

翌日、会場であるホテルのフロントで、昨夜見かけた若い男が白井の結婚式について問い合わせているのを見た義太郎は不審を抱く。と同時に、沢口が披露宴が行われるホテルの宴会責任者であることを知り、ヒロ子とは打ち合わせをしていただけと知り、ほっとしたのも束の間。ヒロ子とカズオの会話から彼がマサヨと婚約寸前だったことを 知る。そんな義太郎の肩を叩く気配に振りかえってみれば、石津が満面の笑みで立っていた。呆れる義太郎にラーメン屋の大食い企画で北海道旅行を手にしたため、2人を追ってきたのだと言う。

いよいよ結婚式当日、つつがなく式が行われる中、再び乱入してきたモトジを止めようとした青年・脇本タケシ(広岡瞬)が右足を刺されてしまう。実は、彼こそが先日来、こそこそマサヨ達の様子を窺っていた男だったのだ。
すぐに病院へ連れて行こうとする義太郎に、脇本は事を荒立てたくないと披露宴が終わるまで表沙汰にしないよう頼む。何でも自分はマサヨに片思いをしていたが、どうしても彼女の花嫁姿が見たくて式にやって来たため、最後まで彼女の結婚式を見守りたいのだと言う。 そんな彼の姿に心打たれる義太郎。

やがて披露宴が始まり、マサヨがお色直しのために控室へ引き上げた時、悲劇は起きた。何者かに胸を刺され、絶命したのだ。
マサヨの控室は、脇本が休んでいた部屋の隣にあり、事件発生時、脇本のいる部屋のドアは開いていたが、誰も目の前を通っていかなかったと言う。
また、反対側の非常口の鍵を持っていたのはカズオ1人であるが、彼はずっと鍵を持ったままであったことが判明。
一体誰がマサヨをどうやって殺害したのか? 新郎である白井を含め、容疑者は義太郎、晴美、石津を除く披露宴参加者全員。犯行を悟られないため、晴美をマサヨの身代わりに仕立て、ホームズとともに義太郎の推理が始まる。


この作品で京本さんが演じたのは白井しんいち。義太郎の高校時代からの親友であり、アメリカの大学に留学経験を持つ秀才。爽やかな風貌で昔から密かに憧れていた晴美はもちろん、叔母の光枝もひと目見た途端、「いい男ねぇ」と目の色を変える色男っぷり。
ドラマ終盤で岩本から思わぬ祝辞を受け、照れくさそうに小さく笑みを浮かべる様子が京本さんらしいです。 全編に渡り出番が多く、ファンにとっては嬉しい反面、あまりにまっとうに爽やか過ぎて、後の怪しげなオーラ漂いまくりな姿や、ちょこちょこケレン味溢れる小芝居満載な演技を見慣れてしまうと少〜し物足りなく感じてしまう面も。
とはいえ、短髪でふわっと上にセットされた前髪に半開なおでこから凛々しい眉毛が全開な姿は、80年代後半の数年間しか 見られない為、それがたっぷり見られるだけでも貴重な作品です。
また、この当時ならではの姿と言えば、白いタキシードに白いコサージュ姿も眩しい新郎スタイルを披露しているのも嬉しい点です。

火曜スーパーワイドのくくりですが、サスペンスのスリル自体はさほどなく。謎解きも拍子抜けするくらい、あっさりとしたものですが。随所に差し挟まれる片山兄妹や石津のコミカルなやりとりが楽しく、肩の力を抜いてのんびり 楽しめる作品です。
更に特別出演したモックンこと本木雅弘がラストで見せた前年のヒット作「抱きしめたい!」を彷彿とさせるようなおちゃらけっぷりも、すっかり世界のモトキとなってしまった現在では、貴重な1シーンです。


1989年9月26日

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