● 名探偵キャサリン13−京都・宇治川殺人事件−  ●

キャサリンことカメラマン・希麻倫子(かたせ梨乃)が見事な推理で事件を解決してく人気シリーズ第13弾。ミステリー界の女王・故山村美沙氏が デビュー前に江戸川乱歩賞に投稿した処女作「歪んだ階段」。これを2002年に光文社が、「京都・宇治川殺人事件」として刊行。長い間眠っていた名作が、今回初のドラマ化となりました。

希麻倫子は通称キャサリンと呼ばれる売れっ子カメラマン。ある日、ダブル取材で困っていた平安新聞社にお気に入りの小物店・映屋を紹介し、取材にこぎつける。
しかし、取材当日助手の飛田三郎(河相我聞)とともに、店に赴くと”忌中”の張り紙が。嫌な予感に駆られた2人が家を訪ねたところ、店主の野村映子(相本久美子)は飲酒運転で崖から転落事故を起こし死亡していた。
夫で画家の野村昭夫(京本政樹)から、映子は日頃から酒も殆ど飲まず、しかも運転する際は必ずデッキシューズに履き替えていたのに、死体はパンプスを履いたままだった、と聞き倫子は映子の死に疑問を持つ。
早速、狩谷警部(西岡徳馬)を訪ね、事故の再調査を依頼するが、なかなか取り合ってもらえない。
一方、警察は同じ頃に起こった、京南大学教授・瓜生(大林丈史)ひき逃げ事件に使われた車が盗難車であったことから、計画的犯行ではないかと捜査を始めた。
そんな矢先、犯行に使われた盗難車の持ち主である、伏見医大の医師・東千加(渡辺典子)の不倫相手と目される松本医院・院長の妻が絞殺死体で見つかる。
狩谷、倫子それぞれが調査を進めていくうち、2人は両事件に意外なつながりを発見する。果たして、これはただの偶然なのか、それとも?そして映子の事故の真相は?


キャサリンシリーズ6年ぶり2度目の登場です。今回、京本さんが演じたのは、被害者・映子の夫であり、有名な日本画家の野村昭夫。
車椅子にひっそりと座り、物静かな翳りを含んだ表情の野村画伯。愛する妻の突然の死に動揺しながらも、努めて冷静に淡々と事故や亡き妻との思い出について語る姿が切なく、静かなだけに却って悲しみを誘います。


一見とても静かな印象を与えるにもかかわらず、登場した途端、見るものを有無を言わさず惹きつけてしまう圧倒的な存在感は、何気ない視線や動きに、三郎ちゃんならずとも、本当は彼が犯人では……?と思わせてしまうに十分。
更に、画家という役柄上、絵に関連した見どころがたびたびあるのが何とも嬉しいです。特に、水彩画を描くシーンでの見事な指の使い方、筆捌きには思わず魅入ってしまうこと必至。

また、中盤で映子の足取りを確かめるため、祇園の街を訪ね歩くシーンでは、動かない足にも注目です。見るからに大変そうな松葉杖姿と苦悶の表情もさることながら、あの不自然に固まってしまった足の角度が、痛々しいまでの必死な思いを伝えているようで、 とても胸が痛みます。

そして、何といってもいちばんの見どころは、圧巻のクライマックス。あっと驚く殺人の謎解きの面白さと、一言も発することなく表情だけで全ての感情を表現した画伯の凄さを是非、堪能してください。 画伯だけでなく、最後2人だけが残された室内で、写真を見つめる野村を見やる倫子の、やるせなさと彼の妻を思う心に打たれたかのような思いがつまった寂しげな笑顔が、より一層心に響きます。

今までにない役どころと、静かな存在感のある演技で新たな境地を見せてくれた野村画伯。サスペンスとしての面白さもたっぷり味わえる、個人的にかなりお薦めな、見ごたえのあるドラマです。


2003年11月10日

Copyright (c) 2005 shion All rights reserved.