● 仮面法廷  ●

法廷小説の第一人者として名高い和久峻三氏の同名小説(江戸川乱歩賞受賞作:角川文庫、講談社文庫刊)をドラマ化。
製作者側の、映像化への長年の夢が叶ったこの作品は、1977年に始まった「土曜ワイド劇場」10周年記念SP企画、第三弾として放映されました。


巨額の土地売買を巡り、契約当日に突然現れた、売主の妻を名乗る女性がそのまま 契約金を持ち逃げする事件が発生。売主である上村に妻はおらず、妻と名乗る女性と対面した当事者達は、一様に「黒いサングラスをかけた和服の美人だった」と 口を揃えるばかり。困り果てた上村は契約を仲介した不動産会社社長・田川(名古屋 章) とともに、弁護士の大登(鈴木瑞穂)にこの事件の告訴を依頼する。
ところが、それからしばらくして、大登が殺害される事件が発生。被疑者として大登の妻であった美樹(岡江久美子)が逮捕された。
しかし、美樹の供述には辻褄の合わない点が多く、また、大登が田川と面識があったことから、玉木(露口 茂)は先の土地売買に関する事件と関係があるのでは?と睨む。
そんな中、今度は田川が自宅で自殺する事態が発生。事件当日、田川とともに帰宅する黒髪の若い女がいたとの目撃証言から、玉木の前にまたしても謎の女の存在が浮かび上がる。
果たしてこれはただの偶然なのか?それとも……。2つの事件の陰で暗躍する謎の女とは……?


この作品で京本さんが演じたのは、恋人と共謀して偽の不動産売買で大もうけを企んだ挙句、殺人を犯してしまう上村 卓(うえむらたく)。ハイ、今思いっきりネタバレをしてしまいましたが、そう犯人役です。 今でこそ2時間ドラマに京本さんが出演、というと世間では、「また犯人か殺される役でしょ?」という先入観がありますが(^^ゞ、現代劇に本格的に出演し始めたこの頃は、この作品の数ヶ月前に 放映された『渡された場面』での下坂一夫役同様、京本政樹またまた悪役に挑戦!?と話題になるくらい、新鮮な印象でした。

実はこの時期、「塀の中のプレイボール」を始め、やけに”とある扮装をする”系の役の話がきていた京本さん。最初に製作サイドから、『京本さんに是非やって頂きたい、京本さんにしか出来ない』と言われた時点で ピーンとくるものがあった(笑)という予想通り、この作品では事件の重要な鍵を握る”謎の女”として、恐ろしく艶かしい女装姿を披露されています。
当初は、立て続けにこの手の役を演じることによりイメージが固定してしまう、と引き受けるかどうか迷っていた京本さんでしたが、製作サイドの『君がいなければこのドラマが作れない』という一言が決め手となり実現しました。

渋い鴉色や色鮮やかな藤色の着物に「DESIRE」を歌っていた時の中森明菜のような、見事な黒髪の長めのオカッパ頭、黒いサングラスと真っ赤な口紅・マニュキアで登場する”謎の女”こと雪江。 ドラマの中での雪江としての登場シーン自体はすごく少ないのですが、優雅な身のこなしと、匂い立つような色香は一度目にしたら、決して忘れられないくらいの妖艶さ。
特にクライマックスでの上村 卓=謎の女のからくりを玉木に説明され、何とも色っぽく気だるい仕草・口調で「お見事お見事」と言うシーンでは、 そのあまりの見事さにそれ以降、しばらく撮影所内で「お見事お見事」が流行してしまったというエピソードがあるほどです。

もちろん、女装以外の本編でも色々見どころいっぱいです。当時の爽やかなのにどこか翳を持つ、少年ぽさと青年の色気が同居した独特の魅力が、上村 卓という一癖も二癖もある役に 見事に嵌り、笑っているときでさえ、何とも言われぬ寂しく妖しげな雰囲気を醸し出しています。
中でもハッと目を引くのが後半の自供するくだり。時折、親指で唇に触れながら切々と自身の夢を語る姿に、思わずホンモノでは?と思わせてしまうほどの女々しさと 夢破れた悔しさが滲む表情・声音がたまらなくイイです。

土地売買のカラクリと謎の女。自殺に見せかけた密室殺人のトリックなど、推理モノとしての魅力もたっぷり味わえる、丁寧な造りが魅力です。全体としてはやや地味な仕上がりながらも、主役を演じられた 露口さん同様、渋い味のある作品です。

1987年10月10日

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