● 十字路 超エリートと美人OLの失楽園!  ●

土曜ワイド劇場江戸川乱歩傑作選、と題して数ある江戸川乱歩の名作の中でも秀作、との呼び声が高い「十字路」(春陽文庫刊)初のテレビドラマ化作品です。


開発庁局長の伊勢省吾(風間杜夫)は、次期事務次官昇進を控えたエリート。すっかり冷え切った関係の妻・友子(深浦加奈子)と別れ、愛人・沖晴美(芳本美代子)と新しい 生活を始めようとしていた。
そんなある夜、省吾と晴美が密会しているところに旅行に出かけたはずの友子が現れ、もみ合ううち晴美は友子を誤って殺害してしまう。 何としても次官に昇進したい省吾は、自首すると言う晴美を制し、自身がダム化を推進する生まれ故郷の村にある、古井戸を利用した完全犯罪を目論む。
ところが妻の死体を村へと運ぶ途中、十字路で 交通事故に巻き込まれた省吾が交番から戻ると、後部座席に見知らぬ男の死体が転がっていた。
驚く省吾だったが、妻の遺体とともに男の死体も古井戸へと投げ込むことでその場をしのぐ。
数日後、投身自殺を図ったように偽装工作した妻の身元照会のため、警察を訪れた彼の目の前に、古井戸に投げ込んだはずの死体と瓜二つの 男が姿を現した!?


人間の欲望の哀しいまでの深さと、欲望に溺れる人々が引き起こす悲劇をまざまざと描いたこの作品で京本さんが演じたのは、 売れないカメラマン・相馬良介と彼に瓜二つの私立探偵・南の二役。
目指し帽に無精ひげをはやし、やさぐれて酒びたりの日々を送る良介。黒いトレンチコートの裾を風になびかせ、 どこか人を食ったような冷笑を浮かべながら、見事な推理で事件の核心に迫る探偵・南。
見た目はもちろん性格・声音・仕草に至るまで、全てが対照的なのに結局は同じ道を辿ってしまった2人の男、を演じる京本さんの魅力がたっぷり。
特に相馬良介は、モデルとして活躍する妹に強い劣等感を抱く兄の心情を代弁するかのような、 ボサボサ頭に無精ひげ、虚ろな視線と野卑な仕草という京本さんにしてはかなり珍しい、貴重と言ってもよい姿を楽しむことができます。


そして、二役に加えこのドラマのもうひとつの驚きは、なんと演じた二役両方で死んでしまう!こと。2時間ドラマでは、 とかく殺され役が多い京本さんもびっくりの、ジェームズ・ボンドならぬ、”政樹は二度死ぬ”(笑)。
役柄同様、その死に至る経緯から死に顔まで、対照的な2つの死に姿をじっくり堪能してください。

自分の欲望のために、次から次へと罪を重ねた上で尚、幸せを求める省吾。元上司も認める優れた頭脳と腕を持ちながら、 私欲に目がくらんで道を誤る南。欲にまみれた2人の欲と欲とがぶつかり合った末の新たな悲劇。そんな2人の心情を 見事なまでに表現したクライマックスはもちろん、バックに流れるピアノの調べに人間の哀しさ・弱さをしみじみ感じさせるラストシーンが秀逸な、何とも言えない深い味わいを残すドラマです。

1998年9月19日

Copyright (c) 2005 shion All rights reserved.