● 伊豆・天城越え殺人事件!  ●

川端康成の名作『伊豆の踊り子』や石川さゆりのヒット曲「天城越え」で知られる伊豆・天城峠を舞台に起きた殺人事件の謎を追った 深谷 忠記 『踊り子の謎 天城峠殺人交差』 (祥伝社刊)。1992年に高嶋政宏さん主演で土曜ワイド劇場にて一度ドラマ化されましたが、 テレビ東京系”女と愛とミステリー”枠で再びドラマ化されました。今回はフリーカメラマン笹谷美緒を主役に、相方を恋人の黒江から同名の 女友達に設定、熟女2人が知恵とパワーで難事件を解決するストーリーに仕上がっています。


フリーカメラマン笹谷美緒(木の実ナナ)と雑誌編集者の黒江翔子(浅田美代子)は共に独身で長年の親友として、プライベートのみならず仕事でももちつもたれつの仲。
ある日、美緒のかつての弟子・京塚かおり(さとう珠緒)が姉が伊豆へ旅行に出たまま帰らないと相談をもちかけてくる。
姉の麗子(藤貴子)は几帳面な性格で、予定を変更するときなどは必ず連絡を寄越していたのに、と心配するかおりに美緒らは2、3日様子をみることにする。
ところがその翌日、下田の海岸で身元不明の女性の水死体が発見され、美緒ら3人は現場へ急行。しかし、幸か不幸か女性はフリーライターの原木正美(原久美子)と判明。警察で美緒はかつての恋人で、今は正美の夫である若江光志(梨本謙次郎)と再会。また、正美に仕事を依頼していた翔子の上司でもある編集長・石峰裕二(京本政樹)も現場に駆けつける。

下田署の大山部長刑事(竜雷太)は、若江が正美に多額の保険金をかけていたや、仕事に行き詰まっていたこと、事件前夜2人が争っていた目撃情報などから容疑者として連行。若江の人となりを知る美緒は断じて反抗を否定。翔子とともに独自の捜査を開始する。

再び麗子の足取りを追う美緒は、麗子が天城湯ヶ島温泉の渓流荘に恋人と宿泊したことを突き止める。恋人・真奈部(鎌倉太郎)に問いただしたところ、真奈部は専務の娘との結婚を理由に麗子と別れるつもりで会ったと告げる。その矢先、麗子の絞殺死体が天城峠で見つかる。 そして死体の近くで正美の一眼レフも発見。そのフィルムに麗子の殺害現場が収められていたことから、偶然麗子殺害の場面に出くわした正美は口封じの為に殺された、との見方が強まり、麗子との別れ話がこじれていた真奈部に疑いがかけられる。

一方、真奈部と入れ違いに釈放された若江は、正美の遺留品から謎のメールのやりとりを保存したフロッピーを発見。見当がつかない若江は相手にメールを送ってみることを美緒に告げる。が、その翌日何者かに襲われPCごとフロッピーを奪われてしまう。若江を殺害した人物こそが、正美と麗子殺しの犯人と睨んだ 美緒は翔子、かおりと共に再び伊豆へと足を運ぶ。
湯ヶ島で正美が残した取材用の風景写真にカラクリがある、と看破した美緒は、正美の実家を訪ねそこで3年前に起きた轢き逃げ事件に正美が関わっていたことを知る。更に、正美の手帳とメールのやりとりから思いもかけない人物が浮上。真相解明のため、美緒は一計を案じることに……。


冒頭でも紹介したとおり、伊豆、湯ヶ島を舞台とした叙情ミステリーであるこの作品。タイトルにもある天城峠や湯が沢温泉はもちろん、滑沢渓谷や浄蓮の滝など色鮮やかな紅葉に彩られた伊豆の観光名所が 随所に紹介され、ドラマを見ながら旅番組の赴きも楽しむことができます。2時間ドラマならでは、の豪華なベテラン勢の競演とフィルムを効果的に使ったトリックも意外性に富み、また、熟女2人のたくましさが微笑ましい、なかなか楽しめる内容です。

この作品で京本さんが演じたのは、美緒が密かに憧れる雑誌編集長の石峰裕二。
てきぱきと仕事をこなし、美人でモデルの妻と鎌倉に豪邸を構えるが、資産家の娘である妻と上手くいっていない、という噂も手伝ってか、女流作家やモデルなど数多くの女性が狙うモテ男。
美緒曰く「あったかくて大人を感じさせる男」との見立てどおり、優しげな笑顔がよく似合う爽やかスマートな編集長です。
今回も例に漏れず犯人役ですが、いかにも悪なオーラを振り撒くのではなく、犯人とわかるまではとても温かく感じのよい印象を与えてくれます。
出番は普通ですが、前半と後半に集中しているため、最後まで飽きることなく楽しめ、後半の回想シーンではまたまた耳かけヘアーで若返った姿で登場したり、自供のシーンでは薄っすらと無精ひげ姿も披露、とお得感が大きいのが嬉しいです。個人的にはラストの泣きのシーンでの声音もお薦めです。
しかし今回の特徴は何と言ってもその瞬きの回数の多さと速さ、これに尽きます。元々現代劇では瞬きの回数が多めになりがちな京本さんですが、今回は群を抜いていると言える多さです。特に序盤の美緒、翔子との3ショットでは、殆ど瞬きをしない2人との対比が面白いくらい見事。 実際、後半はあまり瞬きをしないことから見ても、いい人の仮面の裏でいつ犯行がばれるのか?、ハラハラする内面を瞬きによって 表現したのかも、と思わせる芸の細かさに驚かされます。

事情があったにせよ次々と犯行を重ねた所業は許しがたいですが、犯行の動機や拘置後の態度などかなり同情を禁じ得ません。冷え切っていた夫婦関係が犯行により絆が深まる、というのはありがちな例ですが、もし彼らに第二の人生を歩むチャンスがあるのなら、どうか次は過ちを犯さず幸せにと思うとともに、夫婦とはどうあるべきか、ということを改めて考えさせてくれます。

2001年12月26日

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