● 美貌のメス 脳神経外科医・津山慶子 ●

24年間続いた”火曜サスペンス劇場”、その後を受けスタートした”ドラマ・コンプレックス”に続く、日本テレビの火曜夜9時からの2時間枠最後となった”火曜ドラマゴールド”。
前枠のドラマ・コンプレックスではミステリーだけでなく、コメディー、ラブストーリーから時代劇、ノンフィクションまで幅広いジャンルでの人間ドラマを描く、という意気込みで2005年11月からスタート。 初回こそ松嶋奈々子主演の『火垂るの墓』で高視聴率を獲得したものの、以降は他番組に流れてしまった視聴者を取り戻すことができず低迷。遂に2006年の10月の番組改編で”火曜ドラマゴールド”へとバトンタッチ。 火サス時代に人気のあったシリーズを復活させる等、テコ入れを図りましたが時代の流れには逆らえず、低迷のまま2007年3月27日を以って終了。 同時に日本テレビでは、1981年以来26年間に渡り続いていた火曜9時からの2時間ドラマ枠が終了することになりました。

今回の『美貌のメス 脳神経外科医・津山慶子』は、藤原紀香さん扮する天才的な腕を持つ美貌の脳神経外科医・津山慶子が、自身の過去と戦いながら現在の医療現場が抱える問題に敢然と立ち向かう様子を 描いたヒューマンドラマです。原作は門田泰明氏による同名タイトル(光文社刊)。好評ならば原作同様この先のシリーズ化、が窺える内容でしたが本体の”火曜ドラマゴールド”そのものが終了してしまったため、津山医師の活躍はこの作品のみとなりました。
また、放送時期が藤原紀香さんの結婚式直前と重なる、というお目出度いタイミングでのお披露目になりました。


アメリカから帰国した津山慶子(藤原紀香)は着任前日、偶然交通事故の現場に居合わせ、不在の本間医師に代わり執刀、”神の手”と噂される見事な腕前を披露する。
そのまま恩人である院長・清野修次郎(宇津井健)に挨拶した津山は、清野より現在の日本の医療が抱える問題を打ち明けられ、この病院でそれを変えていってほしいと頼まれる。
翌日、早速病院改革の一歩として、ナースステーションの飾りつけを行っているところへ副部長の本間達夫(京本政樹)が現われ、津山の行動をたしなめる。「医者に必要なのは威厳ではなく人間性」と説く津山に、しかし本間は「患者に媚を売っても 信頼を得られるとは限らない」と言い放つ。 脳神経外科医として確かな腕を持ち、自他ともに次期院長と目されていた本間は、突然現れた年下のしかも女性である津山に部長の椅子を奪われたことが面白くなく、 治療方針等を巡り事あるごとに津山と対立するのだった。

そんな本間がある日、内科の抗がん剤として効果がある東西製薬の”トパール”を脳神経外科での臨床実験に使用したいと提案。副作用の心配を懸念する津山は異議を唱えたが、 内科部長の原島(螢雪次朗)の賛成により承認、使用されることになった。
投薬対象の患者をリストアップする津山に本間は先日自身が手術した望月真由美(山口愛)に投与したいと主張。渋々ながら同意した津山とともに両親に臨床治療の必要性を訴え了承を得、早速投与が開始された。 しかし、副作用で発熱、肺炎になりかけた真由美を見た津山は、本間の腰ぎんちゃくである後藤(石井正明)に投与の中止を命じた。
必死で真由美の命を救う術を探す津山は”Dワクチン”の存在を知り、無認可ではあったが投与を決めてしまう。

時を同じくして原島の孫・いさむ(阿久津賀紀)、が脳幹部の腫瘍、頭蓋咽頭腫で脳神経外科に移送されてきた。原島は医師として尊敬の念を持ち始めていた津山に執刀を依頼するが、何故か津山は承諾を避ける。 そんな折、病院に”津山は7年前に脳幹部腫瘍手術を行った患者を失明させ、退院後3日目に死亡させた”との怪文書が送られてきた。本間を初め皆が不審の目を向ける中、津山はいさむの手術を引き受けることを決断。 見事に成功するが、その直後からいさむは昏睡状態に陥ってしまう。
更に追い討ちをかけるように、一時は腫瘍が収縮し回復の兆しを見せていた真由美の容態が急変、帰らぬ人となる。無認可の薬を投与したせいだ、と烈しく津山をなじり、査問委員会で糾弾する本間の前に現れたのは……。


親友・藤原紀香さんとの久しぶりの共演となったこの作品で京本さんが演じたのは、高い技術とプライドを持つ一方で野望に燃える脳神経外科医・本間達夫。
昨秋から変えたサラサラストレートな茶髪が白い肌によく映え、すっきりとした印象とともに何とも艶かしい香が漂います。 主演の紀香さんも眩いばかりの美しさですが、この2人が並んだシーンは本当に強力な美のオーラが画面から溢れているので要注意です。
切れ者らしくやることにそつがなく、ワガママで短気な性格故、周囲から煙たがられても仕事では高い信頼を得ている本間。 部下やナースを叱り飛ばす一方で、患者である幼い子供に向ける視線は限りなく優しく、やや掠れ気味の甘い声音で語りかける様子はまさに白衣の王子ならぬ白衣の救い神のよう。
しかし、普段はとにかく怒りっぽい本間先生。些細なことに不機嫌なオーラを撒き散らす様子が殆ど子供のようです。 特に、何度か見られる下唇を一瞬突き出しふっと息を上に吐きつける表情は必見。あっかんべーをする子供と同レベル的な困ったちゃんなのに妙に可愛く見えてしまいます。
功を焦るあまり、自分でも知らぬうちに医師としての道を踏み外していた本間先生。当初はただのワガママエリート的な言動が目立ちますが、次第に彼は彼なりの強い信念の下、 医療に携わっていることが見えてきます。
沢山の出番の中での見所は、ワガママぶりとやはり後半のクライマックス・査問委員会での熱弁。ただの名誉欲に駆られた 悪人ではない、優秀な医師であったが為の苦悩をしっかりと見せてくれています。


最近のドラマには珍しいほど善玉・悪玉がはっきりと別れ、医療現場が抱える問題と医師の在り方を浮き彫りにした意欲作ですが、事件のキーパーソンともいえる後藤医師の描かれ方が あまりにも安易過ぎた点が悔やまれます。

2007年2月13日

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