血液凝固第12因子と習慣流産について

【参考文献】

牧野恒久 杉 俊隆
「Plasma contact system, kallikrein-kinin system and antiphospholipid-protein antibodies in thrombosis and pregnancy」*
*「Journal of Reproductive Immunology」Vol.47 2000 に掲載

※上記論文より血液凝固12因子と習慣流産に関する部分を抜き出し訳してはみましたが、どうもイマイチなので 英語の原文も加えました。但し、下記に対応した部分のみの紹介となりますのでご注意下さい。


 血液凝固12因子、プレカリクレインそして高分子キニノーゲンは内因性血液凝固系における接触因子として知られている。これらタンパク質の欠損症は試験管内では凝固時間の延長を示すにもかかわらず、臨床的な出血は見られない。逆説的に、これらのタンパク質は抗凝固、線溶促進活性を有すると言われている。事実これらの欠損症と反復血栓症との関連が報告されている。また原因不明の習慣流産において、これらタンパク質の欠損症と抗リン脂質抗体が、血液凝固異常としてしばしば発見される。最近、胎児胎盤ユニットにおけるカリクレインーキニンシステム、もしくは接触システムの存在が証明されている。これは接触システムが妊娠において重要な役割を担っていることを示唆している。いくつかの研究では全身性エリテマトーデス、血栓症、そして習慣流産患者に接触タンパクに対する抗体が発見される、と報告されている。しばしばこれらの抗体は、抗リン脂質抗体やループスアンチコアグラントと関連している。接触タンパクは、抗リン脂質抗体症候群患者に発生する抗体に結合するタンパクとして、リストに加えられるかもしれない。

 カリクレイン-キニンシステムは3つの必須血しょうタンパクー凝固12因子、プレカリクレイン、そして高分子キニノーゲンーから成っていて、それらは陰性荷電表面に結びついて互いに作用しあっている。12因子は陰性荷電表面との接触によって活性化されうる。(Griffin et al.,1978; Silverberg et al., 1980; Tankersley et al.,1984).活性化12因子はプレカリクレインをカリクレインに変え、カリクレインは血管に作用し炎症性を有する媒介物質ブラディキニンを開放すべく、高分子キニノーゲンを分解する。また活性化12因子は内因性の凝固系を継続するために11因子を活性化する。

 驚くべきことに12因子欠損症は反復血栓症患者に多い症例として報告されている。(Mannhalter et al.,1992; Halbmayer et al,1992).12因子欠損症は常染色体劣性である。(Halbmayer et al.,1994)。同形接合の12因子活性値1%以下の12因子欠損症は、日常の実験室での検査でしばしばaPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)の著しい延長を伴い発見される。12因子活性値が25〜50%の異形接合の12因子欠損症はaPTTの若干の延長、もしくは正常なaPTTを示す。
 抗リン脂質抗体もしくは12因子欠損症にみられる血管と胎盤の血栓は、習慣流産に関連していると報告されている。
(Cowchock et al.,1986; Schved et al.,1989). Schvedet al.(1989)は12因子欠損症で習慣流産の病歴を持つ3人の若い女性(同形接合2人、異形接合1人)の症例について報告した。Braulke et al.(1993)は43人の反復流産患者中、12因子が低い水準にある患者が8人いたと報告した。最近Gris et al.(1997)は500人の原因不明の原発性習慣流産患者の血液凝固異常の症例を報告した。彼らは9.4%の12因子単独欠損症患者を、7.4%の原発性抗リン脂質抗体症候群患者を見つけた。そして線溶系低下については患者の42.6%に見つけられた。
 Bick and Ancypa
(1995)は、より一般的なアンチトロンビン3、プロテインCそしてプロテインS欠損症に対し、12因子欠損症は、まれな先天性の血液タンパク欠損の一つであると報告している。けれども反復性の静脈及び/または動脈の血栓塞栓症患者の12因子欠損症の症例は8〜20%とされた。(Halbmayer et al,1992).正常人における12因子欠損症の症例についてはほとんど知られていなかったので、Halbmayer (1994)は12因子欠損症について300人の健康な血液ドナーを調査し、2.3%の12因子欠損症の発生率を報告した。300人の健康なドナーのうち16人(5.3%)の被験者にaPTTの延長が確認された。aPTT延長の原因は、12因子欠損症(7/16)、ループスアンチコアグラント(6/16)、軽度の8因子欠損症(1/16)、そして肝臓の疾病(1/16)である。彼らのデータは12因子欠損症が他の血液タンパクの欠損症より比較的頻繁におこる障害であることを示している。

 Gris et al.(1997)は初期の習慣流産と12因子との関係について報告した。またSugi et al.(1999)は妊娠初期の習慣流産について言えば、陰性のリン脂質に結合する抗体よりキニノーゲン依存性の抗PE抗体との方が、統計的に強い関連があると報告した。このように、妊娠中期以降に起きる抗カルジオリピン抗体の関連した流産とは反対に、妊娠初期の流産はしばしば接触システム、もしくはカリクレイン−キニンシステムの崩壊に関連しているかもしれない。なぜならカリクレイン−キニンシステムは子宮胎盤ユニット内にのみ存在し、それは胎盤の血液の流れや胎盤への物質や代謝産物の供給を調整する役割を負っている。(Hermann et al.,1996)このシステムの崩壊は、妊娠初期の流産のリスクファクターの一つと推測される。