【参考文献】
MBL 自己免疫レポート No.29 Aug.2002より

妊娠維持と自己抗体

東海大学医学部母子生育学系産婦人科学部門
杉 俊隆、牧野恒久               注)青字は私smileが加筆した部分です。


1. 習慣流産、不育症における免疫・血液凝固学の位置付け
 以前よりSLEをはじめとする自己免疫疾患の患者にpregnancy lossが多いことが知られ、母体の免疫能の異常が妊娠維持に障害を起こす可能性が指摘されてきた。最近になって、それが抗リン脂質抗体という自己抗体によって惹き起こされるという説が注目されるようになり、抗リン脂質抗体と関連する不育症、血栓症をまとめて抗リン脂質抗体症候群と称し、広く認知されるようになった(表1)。不育症とならんで血栓症がその症候群の診断基準案1)に列挙されたということは、不育症の病因として免疫だけではなく、免疫・血液凝固学的機序が存在する可能性が示唆されたことになる。また一方で、以前より血栓傾向のある患者に胎盤血栓によると思われるpregnancy lossが多いことも指摘されており、近年、血栓性素因(thrombophilia) と不育症の関係も解明されつつある。thrombophiliaには先天的血栓傾向を示す疾患と、後天的な疾患がある。後天的thrombophiliaの代表的なものは抗リン脂質抗体症候群であり、先天的thrombophiliaの中には、アンチトロンビン、プロテインC、プロテインSなどの抗凝固因子の先天性欠乏症や、活性化プロテインCに対して抵抗性を示す第5因子Leiden mutationなどがある。
 近年、フランスのグループ(NOHA; The Nimes Obstetricians and Haematologists)が不育症と血液凝固の関連について大規模な調査を行い、興味深い結果を発表している(NOHA study)2,3)。これによると、妊娠初期流産を繰り返しているタイプの不育症と、妊娠後期のfetal lossを起こすタイプの不育症では、その血液凝固異常の傾向が異なる。
 妊娠初期流産を繰り返すタイプの不育症では線溶系の低下が多く見られ(約40%)、その内容は主にplasminogen activator inhibitor 1 (PAI)活性亢進であった。具体的には、第12因子欠乏症(9.4%)と抗リン脂質抗体(7.4%)が流産の2大risk factorとして報告されており、我々の不育症外来でも同様の結果が得られている。第12因子はカリクレイン-キニン系の一員であり(図1)、線溶系に重要な役割を果たしている。したがって、第12因子の欠乏は線溶系の低下を惹き起こし、血栓症、流産の原因となり得る4)。また、抗リン脂質抗体に関する最近のデータによると、妊娠初期流産を繰り返すタイプの不育症群では抗フォスファチジルエタノールアミン抗体(抗PE抗体)が多く見い出され、その多くはキニノーゲンを認識するタイプの抗PE抗体であった5-7)。キニノーゲンもまた第12因子と同様カリクレイン-キニン系の蛋白であり、それに対する自己抗体が存在すると線溶系を低下させる可能性がある。以上をまとめると、妊娠初期流産を繰り返すタイプの不育症の血液凝固学的特徴は線溶系の低下とまとめる事ができる。
 これに対して妊娠後期のfetal lossを起こすタイプの不育症では、抗リン脂質抗体、プロテインS欠乏症、第5因子Leiden mutationがリスクファクターとして挙げられた3)。抗リン脂質抗体の病原性は今だ不明の点が多いが、抗カルジオリピン抗体はプロテインS、プロテインC経路を阻害するという説もあり、妊娠後期のfetal lossを起こすタイプの不育症の血液凝固学的特徴は、トロンボモジュリン/プロテインC/プロテインS/第5因子系の破綻とまとめることが出来るかもしれない。ただし、日本では今のところ第5因子Leiden mutationの報告は無い。
表1 抗リン脂質抗体症候群診断基準案(1998;札幌Criteria)
臨床所見:
 血栓症: 1回またはそれ以上の
      ・動脈血栓
      ・静脈血栓
      ・小血管の血栓症(組織、臓器を問わない)
 妊娠の異常:
      ・3回以上の連続した原因不明の10週未満の流産(解剖学的、遺伝的、内分泌学的原因を除く)
      ・1回以上の胎児形態異常のない10週以上の原因不明子宮内胎児死亡
      ・1回以上の新生児形態異常のない34週以下の重症妊娠中毒症または重症胎盤機能不全に関連した早産
検査所見:
 抗カルジオリピン抗体
      ・IgGまたはIgM
      ・中、高抗体価
      ・6週間以上の間隔をあけて、2回以上陽性
      ・β2-glycoprotein I 依存性抗カルジオリピン抗体を検出し得る標準化されたELISAで測定
 ループスアンチコアグラント
      ・6週間以上の間隔をあけて、2回以上陽性
      ・International Society on Thrombosis and Hemostasisのガイドラインに従って検出
臨床所見が1つ以上、検査所見が1つ以上存在した場合、抗リン脂質抗体症候群と診断する

2. 抗リン脂質抗体の多様性
 近年、抗リン脂質抗体と不育症との関係が注目を浴びている。抗リン脂質抗体とはリン脂質に対する自己抗体であり、具体的には電気的陰性のリン脂質(カルジオリピン、フォスファチジルセリン、フォスファチジルグリセロール、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジン酸)や、電気的中性のリン脂質(フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルコリン)に対する抗体である。
 歴史的には、抗リン脂質抗体は梅毒血清反応陽性として検出されてきた。梅毒血清反応では、抗原としてカルジオリピンが使用されており、したがって陽性とはカルジオリピンに対する抗体の存在を示している。梅毒ではないのに抗カルジオリピン抗体をもつ患者の場合、梅毒血清反応の生物学的偽陽性として抗リン脂質抗体が検出された訳である。抗リン脂質抗体は歴史的に梅毒反応偽陽性として発見されたため、抗カルジオリピン抗体が最も有名である。しかし、実際には細胞膜リン脂質の構成成分にカルジオリピンは存在しない(図2省略)。cardio(心臓の)-lipin(脂質)という名前の通りカルジオリピンは心臓に豊富に存在し、有核細胞ではミトコンドリアの内側にのみ存在する。細胞膜の構成成分としての陰性荷電リン脂質は、フォスファチジルセリン(PS)とファオスファチジルイノシトールであるが、比較的少ない。むしろ中性荷電リン脂質が主要な細胞膜の構成成分であり、フォスファチジルエタノールアミン(PE)やフォスファチジルコリン(PC)、スフィンゴミエリン(SM)がある(図2)。細胞は活性化されるとその細胞膜リン脂質の構成を変化させる8)。すなわち静止期では中性荷電が主に細胞膜外側に存在するが、活性化すると陰性荷電が細胞膜外側に移動する(図2)。したがって、陰性荷電リン脂質に対する抗体が静止期の血小板や血管内皮細胞を認識し、活性化させるということは考え難い。
 抗リン脂質抗体と一言で言っても、その実体は単純ではない。従来は名前どおりリン脂質を認識する抗体であると思われてきたが、最近、病原性のある抗体の多くは、実はリン脂質そのものを認識する抗体ではなく、リン脂質に結合する血漿蛋白に対する抗体であるということが分かってきた。一番最初に発見された抗原は、β2-glycoprotein I(β2GPI)であり、当初はコファクターと称されたが、その後は事実上の抗カルジオリピン抗体の目標抗原ということでコンセンサスが得られている。次いで、プロトロンビンが報告された。これらは、カルジオリピンやフォスファチジルセリンなど、電気的陰性のリン脂質に対する抗体の対応抗原である9-12)。その後我々は、中性のリン脂質であるフォスファチジルエタノールアミンに対する抗体も同様にリン脂質結合蛋白を認識することを発見し、それがキニノーゲンであることを同定した7)。したがって、厳密にいえばこれらの抗体を抗リン脂質抗体と呼ぶのは誤りであり、それぞれ抗β2GPI抗体、抗プロトロンビン抗体、抗キニノーゲン抗体などと呼ぶべきである。しかしながら、歴史的に抗リン脂質抗体と呼ばれていたために、現在もそのままになっている。
 抗カルジオリピン抗体をELISA法で検出する際に、免疫グロブリンの非特異的結合を抑制するためにウシ血清を加えるのが一般的であるが、このウシ血清中にβ2GPIを始めとしたリン脂質結合蛋白が含まれており、抗カルジオリピン抗体を検出したつもりでも、実際はカルジオリピンに結合したβ2GPIを認識する抗体を検出していたわけである。しかしながら、多くの所謂“抗カルジオリピン抗体”はβ2GPIが単独で存在した場合は認識せず、カルジオリピンに結合して立体構造の変化をおこして抗原性の変化したβ2GPIしか認識しないことから、“抗カルジオリピン抗体”の検出には依然としてカルジオリピンの存在が必須であるために、抗β2GPI抗体とは改名されずに今日に至っているわけである。ちなみに、梅毒患者のもつ抗カルジオリピン抗体はカルジオリピンそのものを認識する抗体であり、血栓症などの病原性は報告されていない。この様な、本当の抗カルジオリピン抗体はβ2GPI非依存性抗カルジオリピン抗体と呼ばれ、β2GPIを認識する抗カルジオリピン抗体(β2GPI依存性抗カルジオリピン抗体)と区別しているのが現状である。
 我々が報告した、キニノーゲンを認識する抗フォスファチジルエタノールアミン抗体(抗PE抗体)の場合も同様であり、抗PE抗体はカルジオリピン(CL)、フォスファチジルセリン(PS)、フォスファチジルコリン(PC)など、他のリン脂質と結合したキニノーゲンや、フリーのキニノーゲンを認識しないが、PEに結合したキニノーゲンだけを認識する(図3省略)13)。これは、キニノーゲンがPEと結合すると、特異的な立体構造の変化が生じ、新しいエピトープがキニノーゲン上に出現し、それを抗PE抗体が認識するという事を意味する。したがって、単純に抗キニノーゲン抗体と呼べず、キニノーゲン依存性抗PE抗体と呼んでいるのが現状である。
 このように、抗リン脂質抗体といっても実は全く異なる血漿蛋白を認識する抗体の総称であり、共通点はリン脂質に結合する蛋白を認識するということだけである。したがって、それぞれの病原性は認識するリン脂質結合蛋白によって異なると考えられる。

3. キニノーゲンを認識する抗リン脂質抗体
 抗カルジオリピン抗体やループスアンチコアグラントに特徴的なのは、妊娠中期以降の子宮内胎児死亡である。しかしながら、臨床で一番多く見られるのは妊娠初期流産を繰り返す不育症であり、そのような患者に対して抗カルジオリピン抗体やループスアンチコアグラントを検査しても陽性にでることは期待するほどは多くない。我々は、妊娠10週未満の流産を繰り返す反復初期流産患者139人に対して、抗リン脂質抗体のスクリーニングを施行したところ、陰性荷電リン脂質を認識する抗カルジオリピン抗体、抗フォスファチジルセリン抗体、ループスアンチコアグラントに関しては、患者群と正常対照群で陽性率に差を認めなかったが、抗PE抗体はIgGが20.1%、IgMが12.2%、IgAが1.4%の陽性率であり、正常対照群と比較して統計学的に有意(p=0.0002)であった5)。したがって、反復初期流産患者にもっとも多く見られる抗リン脂質抗体は抗PE抗体であるという結論に達した。この事は我々が1999年に発表し、2000年になってフランスのGrisらによって同様の結果が報告された6)。さらに、不育症患者の持つPE結合蛋白依存性抗PE抗体の90.5%はキニノーゲンを認識する事が明らかになった5)。また、抗PE抗体と流産だけでなく、抗PE抗体と血栓症との関係も報告されている14-18)。
 さらに抗PE抗体がキニノーゲンのどの部位を認識しているのか、合成ペプチドを用いてepitope mappingを行ったところ、約70%の抗PE抗体は、キニノーゲン、ドメイン3のLeu331-Met357 (LDC 27)を認識する事が明らかになった19)。さらに、LDC27を2つに分け、Cys333-Lys345 (CNA13)とIle346-Met357 (IYP12)を用いて検討したところ、Cys333-Lys345 (CNA13)のみを認識した。
 LDC27 LDCNAEVYVVPWEKKIYPTVNCQPLGM
 CNA13   CNAEVYVVPWEKK
 IYP12               IYPTVNCQPLGM
 この部位は、cystein proteinase inhibitorであるキニノーゲンが血小板上のcystein proteinaseであるcalpainに結合し、血小板活性化を抑制している部位と一致する(図4)20)。従って、抗PE抗体が結合することによりcalpainに結合できなくなり、キニノーゲンのcystein proteinase inhibitor活性が阻害されると考えられ、抗PE抗体のカリクレイン-キニン系を介した病原性を強く示唆している。
 さらに我々は、抗PE抗体がキニノーゲンを認識する事により、その血小板活性化を抑制する作用を阻害し、血栓の原因となり得るかに関して、in vitroの検討を行った。キニノーゲンを認識する抗PE抗体IgGと、対照としてキニノーゲンを認識しない抗PE抗体IgGをresting 血小板に加え、トロンビンで刺激したところ、キニノーゲンを認識する抗PE抗体IgGを加えた血小板に著明な血小板凝集能の亢進が観察された(図5省略)21,22)。

4. 第12因子に対する自己抗体
  近年、フランスのグループ(NOHA; The Nimes Obstetricians and Haematologists)が500人の原因不明妊娠初期反復流産患者に対して血液凝固異常の有無について大規模な調査を行い、興味深い結果を発表している(NOHA study)2)。これによると、妊娠初期流産を繰り返すタイプの不育症では線溶系の低下が多く見られ(約40%)、その内容は主にplasminogen activator inhibitor 1 (PAI)活性亢進であった。具体的には、第12因子欠乏症(9.4%)と抗リン脂質抗体(7.4%)が2大危険因子として報告されており、我々の不育症外来でも同様の結果が得られている。さらに、その後抗リン脂質抗体の内訳に関する検討が同じグループにより行われ、我 Xの不育症外来と同様、抗PE抗体が最も高頻度に見られたと報告されている。
 さて、抗PE抗体、すなわちキニノーゲンを認識する抗体とならんで、第12因子欠乏症が高頻度に見られた事は非常に興味深い。なぜならば、キニノーゲンも第12因子も同じカリクレイン-キニン系、またはplasma contact systemの蛋白であるからである。
 第12因子欠乏症が反復血栓症の患者に多いということは以前より知られていた。反復動脈血栓または心筋梗塞患者の20%、反復静脈血栓症患者の8%に第12因子欠乏症が存在すると報告されている23)。第12因子欠乏症における血栓形成の原因として、ブラジキニン産生が減少することにより血管内皮細胞からのtissue plasminogen activator (tPA)の分泌が減少するためではないかと推測されている24)。そして、10年程前より第12因子欠乏症と反復流産との関係が報告されるようになった25)。
 我々の不育症外来においては、191人の不育症患者をスクリーニングしたところ、34人(17.8%)が第12因子活性60%未満であった。一方、正常対照群60人中第12因子活性60%未満であったのは1人であった。非常に興味深い事に、第12因子欠乏症患者34人中18人(52.9%)が何らかの自己抗体陽性(主に抗リン脂質抗体と抗核抗体)であり、13人(38.2%)は抗リン脂質抗体陽性であった。このことより、第12因子欠乏には自己抗体が関与している事が強く示唆された。
 最近になって、抗リン脂質抗体陽性患者に第12因子欠乏症が高頻度に存在すると言う報告がされた26)。また、第12因子に対する自己抗体が存在する事により、免疫複合体が形成され、第12因子欠乏症が起こるのではないかという仮説が提唱された。その後、抗リン脂質抗体陽性患者において、第12因子に対する自己抗体の存在が報告された27)。次いで我々も、第12因子欠乏不育症患者において第12因子に対する自己抗体の存在を報告した28,29)。第12因子は抗リン脂質抗体陽性患者の持つ自己抗体の認識する抗原のリストに加えるべきかもしれない。

5. 内因性凝固系は生体内には存在しない
 カリクレイン-キニン系は、第12因子、プレカリクレイン、キニノーゲンの3つの血漿蛋白より成り立っている(図1)。これらの蛋白はまた、plasma contact systemを構成する蛋白でもある(図6)。すなわち、これらの蛋白が陰性荷電の表面に集合することにより、内因系血液凝固カスケードが開始される訳である。これらの蛋白が欠損すると、試験管内では血液は凝固せず、aPTTは延長する。しかしながら、生体内では出血傾向は見られず、逆に血栓症の危険因子となることが知られている。つまり、内因系血液凝固カスケード(contact factor pathway)は試験管の中では存在しても、生体内ではごく一部の例外を除いて存在しないということが最近になって分かってきたのである30)。
 そもそも内因系の血液凝固というのは、血液がガラス表面に接触することにより発見され、1958年にMargolisらによって報告された31)。その後、kaolin、ellagic acid、dextran sulfateなどもcontact activationを引き起こすことが報告された32)。しかしながら、これらの物質は生体内には存在しないわけで、生体内でcontact activationを引き起こしている陰性荷電の表面というのは何であるか不明であった。コラーゲンが引き起こしていると長い間考えられてきたが、最近になって否定された32)。また、破綻した血管内皮細胞の表面に露出した基底膜がそうであろうと言う説もあるが、未だ証明されていない。唯一生体内で内因系血液凝固を引き起こす事が証明されているものはエンドトキシンである33-35)。しかしながら、これはseptic shockにおける内因系血液凝固しか説明できない。結局、結論として生体内にはcontact activationを引き起こすような生理的陰性荷電の表面は存在せず、実際はcontact proteinは陰性荷電の表面ではなく血管内皮細胞上に集合しており、必ずしも生体内ではcontact activationを引き起こすために陰性荷電の表面は必要ないということが明らかになってきた4)。
 従って、リン脂質という陰性荷電の物質を加える事により試験管内で内因系血液凝固を引き起こして凝固時間を測定する検査であるaPTTと、生体内で起きている反応は異なる訳である。例えば、第・因子(Hageman factor)の先天性欠損症患者であるJohn Hagemanや、キニノーゲンの先天性欠損症患者であるMayme Williams (Williams trait)は両者とも出血傾向ではなく、反対の肺塞栓症で死亡したのは有名な話である。また、ループスアンチコアグラントは試験管内ではaPTTを延長させるが、生体内では血栓症を引き起こすという事も、内因系血液凝固系が生体内ではそのまま通用しない事を証明している。

6. カリクレイン-キニン系と妊娠
 女性の生殖系は、体内で2番目にキニノーゲンおよびその代謝産物の豊富な部位である。ラットでは、各臓器のキニノーゲンの濃度は、血漿12.2μg/ml、子宮10.9μg/ml、肝臓0.4μg/ml、腎臓1.2μg/mlと報告されている36)。また、生殖器の組織および血漿中のキニノーゲンの濃度は、排卵、妊娠、出産で変動すると報告されている36,37)。
 カリクレイン-キニン系は胎児、胎盤の血管に存在していることが最近明らかになってきている38,39)。胎盤の大きな血管や臍帯ではなく、絨毛の毛細血管内皮細胞にキニノーゲンやプレカリクレイン、カリクレインが存在する事が報告されており40)、キニンが胎盤の毛細血管に限局して産生されていることが示唆されている41)。キニンは抗凝固、線溶促進作用だけでなく、血流を増加させるなどの生物学的活性をもったペプチドであり、胎盤内で放出され、胎盤の血流や代謝産物の経胎盤輸送などを調節する重要な役割を担っている可能性が指摘されている。カリクレイン-キニン系は、全身の血液凝固、線溶系のみならず、特に生殖に非常に重要な位置を占めていると考えられる。
 最近、カリクレイン-キニン系の蛋白の欠乏と反復流産との関係が報告されている。また、カリクレイン-キニン系蛋白に対する自己抗体と反復流産との関係も報告されている42,43)。カリクレイン-キニン系は、妊娠維持に重要な役割を果たしているので、その破綻は流産に直結するのかもしれない。

7. おわりに
 Utero-placental unitにおいて、免疫と血液凝固系は妊娠維持機構の中で非常に重要な位置を占めている。SLEなどの基礎疾患を伴わない原発性抗リン脂質抗体症候群における不育症の治療としては、従来のステロイドを用いた免疫抑制療法は副作用が多くて次第に行われなくなり、それに代わって抗血小板療法である低用量アスピリン療法や、抗凝固療法であるヘパリン療法がfirst choiceとして取り入れられ、非常に効果を挙げている。しかしながら、このような凝固系に対する治療が広く行われるようになったにも関わらず、生殖医学における血液凝固的アプローチは今まであまりされていなかった。本稿では免疫学のみならず、血液凝固系およびカリクレイン-キニン系と免疫の関わりという新しい角度から生殖における最近の新しい知見について解説した。

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